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シンフォニア王国物語〜僕の知らない父さんと母さんの話〜  作者: 椿


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37/38

37話




僕は勇者アレンが何を言ってるのかわからなかった。

いや、分かりたくなかったのかもしれない。

父さんがゲームのお助けキャラだったとか、この世界がコミックだったとか、意味がわからないことばかり…

だって昨日も、たくさん父さんと母さんの話を聞いたんだ。

戦場に向かった大切な人の帰りを願う気持ち。

どんなに祈っても、帰って来られなかった人がいたこと。

その犠牲の上に今を生きてる人達がいること。


父さんや母さんが学園で過ごした時間は嘘なんかじゃない。

あの時二人が感じた、楽しかったこと、悔しかったこと悲しかった思い出だって全部。

それなのにそれら全部がまるで作り物だったみたいに勇者アレンが言うんだ。

そんなわけない。

だって僕は父さん達と同じように日々の授業はもちろん、操縦レースにだって出たし、剣術技能大会にも参加した。

そんな困惑する僕を置いたまま勇者アレンは話を続けたんだ。


「迷宮攻略も簡単だった。」


確かに暑かったり寒かったり、いろいろあったけど、どんなに入り組んでいてもルートは頭にあったからね。

迷うことはなかったし、次の階層に何が来るかわかっていれば簡単に対策できた。

ガルマーニの出現も知っていたしね。


「その頃、ゲームではマリアンヌとセドリックさんが恋人になるんだ。

そこはゲームの展開通りだったよ。」


学園でも噂になっていたし、実際二人の距離は近かった。

ガルマーニ戦を前にマリアンヌの恋の悩みを聞くことで[勇者]との親密度が上がるイベントだ。

マリアンヌは恋愛小説が好きで、少し感覚がズレてるキャラクターとして人気が高かった。

そんな彼女と話をしながら選択肢をえらぶ。


『マリアンヌがセドリックへ抱いているのは?』

選択肢は『恋心』か『友情』か『憧れ』

どれを選んでも最終的に恋してることを教えてあげること。

そういうイベントだ。

こうして[聖女]であるマリアンヌや[剣聖]のギルバートとの親密度イベントをクリアすることで、今後の攻略も楽になる。

[勇者]との『コンボ技』が増えるんだよ。


そして、5章の三国協定のエピソードになる。


「私はこの作戦が失敗することを知っていた。」


具体的に何が原因で起きたことだったのかゲームでの描写がなかったから私は知らなかった。

ゲームでは魔王との戦いの舞台となる北の山脈のとある地点まで歩を進めると、突然、魔王軍幹部ニフレイムが現れて、ニフレイムの放つ技によって味方に混乱の状態異常がかかるだけだったんだ。

でも、実際はグランディウスの将軍が暗殺されたことによる混乱だった。

ゲームでも味方に混乱回復効果のある気付薬を飲ませたところで意味がないけど、全てが腑に落ちたよ。

混乱と一口に言っても、頭にひよこが回る演出とは違う。

現実は種族としてお互いを裏切り者なんじゃないかと疑う混乱だった。

だからゲームでも現実でも味方同士で潰しあっていたんだ。


ニフレイムと戦う時、ゲームでは私を中心に五人の兵士たちが共に戦うけど、ニフレイムとその周りにいる魔獣によって一人、そしてまた一人と消されていってしまう。

所謂肉壁だ。

肉壁があるうちに、なんとか私がニフレイムを討伐する。そういう『シナリオ』だ。

実際は五人なんかじゃなく、たくさんの騎士や兵士が私の周りで亡くなっていたけど…


その後魔王まで出てきて、ある程度戦った後に撤退を余儀なくされる。

三国協定のエピソードのボス戦は魔王相手に絶対に負ける、負けイベントだった。

勇者が前を向いて強くなるためのきっかけのね。


「何…言ってるんですか」


僕の口からはとうとう勇者アレンの言葉を遮るように言葉が出た。

知ってた?多くの人が亡くなることを?

それでどれだけの人たちが悲しんで苦しんだか、父さんも母さんも話していた。

それなのに、勇者アレンはそれをわかってたってことなの?


「なぜ、防がなかったかって?」

「………はい」

「最後の魔王軍幹部、ニフレイムを倒すにはあれしかなかったからだよ。」


私だって防げるなら最初からそうしていた。

でもどれだけ脳内でシミュレーションしたって、結果は変わらない。

作戦を何度も練り直した。

そもそも進軍を取りやめたらどうなる?

単身で行ったら?

状態異常ならマリアンヌで対策できるのではないか?

バラバラに進軍するのはどうか?

けれど、どこからニフレイムが出てくるのかわからない以上、できることは少なかった。

それに、これは私だけの話じゃない。

国と国との繋がり、国としての運営や同盟、そういう複雑な事情が絡み合ってた。


「この世界はゲームであってゲームじゃない。

一度違うルートに進んでそのルートが間違えていたら待っているのは人類滅亡だ。

私は……何も言えなかった。」


戦場で死んだ兵士の亡骸を見た。

ゲームではただの肉壁だった顔すら知らないモブだ。

一人の顔は童顔だった。

もう一人は勇ましい髭があった。

もう一人は結構年配の人だった。

モブなんかじゃない、一人一人顔があって、一人一人ちゃんと違うんだ。

光のない瞳。苦悶に歪んだ表情。

首のロケットに入れられた家族の写真。

頬に伝う涙の跡。

どんな思いで皆死んだんだろう。

私はどうしたら正解だったんだろう。


「それでも私は前に進むしかなかった。

魔王を倒すのが[勇者]の役割だから。

それをするしかなかったんだよ。」


僕はそう言って顔を伏せてしまった勇者アレンになんて言葉をかけたらいいのかわからなかった。

責めたい気持ちもある。

けど、勇者アレンは最悪を防ぐためにやるしかなかったって言う。

どんな思いだったんだろう。

人が死ぬとわかっててそれでもその選択を選び、実際に死んだ人達を見て、その家族の涙を見るのは。

僕だったら罪悪感で耐えられないかもしれない。


「それでね、アイザック。

本当に話したいのはここからだ。」


二度目の進軍。

魔獣達の攻撃パターンは知っていた。

嫌というほど倒してきたから。

スライムの平均レベル32程度、攻撃パターンは増殖、ヒール、体当たり。

ゴブリンの平均レベル36程度、攻撃パターンは殴る、噛み付く、仲間を呼ぶ。

ファウンドの平均レベルは42程度、攻撃パターンは噛み付く、切り裂く、遠吠えだ。


散々ゲームをしてたから全部覚えていたよ。

流石にレベルの概念がわかるのは私だけだから伝えなかったけれど、こんな攻撃がある、パターンがあるそれら全てを騎士達に伝えた。


それでも現実の鎧は思うように動けないし、剣を振れば人は疲れる。

少なからず人が死んだ。

中には学園でお世話になって見知った顔もあった。


「君のお父さん、セドリックさんはその最終決戦のエピソードで主人公である勇者アレンを庇って死ぬキャラクターなんだ。」

「…………え…」


ゲームをプレイしていた時は驚いたよ。

セドリックさんは、その容姿と性格から、かなり人気の高いキャラクターだった。

操縦レースで協力してから学園で会うたびに話しかけることができる。

モブとは少し違って、仲良くなることができるキャラなんだ。

そんな名脇役のキャラが具体的なタイミングはわからないけど戦闘の途中で現れる。

そして少しだけ話をする。

セドリックさんは学生時代レベル50だったところレベル75まで上がってるから戦闘が一時的にかなり楽になるんだ。

でも、突然『危ない!』って叫ぶとセドリックさんは私を突き飛ばしたところで槍に貫かれて死んでしまう。

そういう『シナリオ』だった。

ゲームでプレイした時はショックで唖然としてしまったよ。


そして、そのセドリックの死を見て、恋人になっていた聖女マリアンヌが悲しみの中、聖女の祈りを唱える。

味方全体に全能力値に1.5倍のバフがかかって戦況が一気に逆転するんだ。

そういう、決められた道筋だ。

ラストシーンの大詰めだったんだ。


「…そんな…でも…」

「そう、君のお父さんは生きている。」


実際に戦場でセドリックさんが僕の元に辿り着いた時、私はその先のゲームの『シナリオ』を知っていたからこそ絶望した。

やっぱり決められた死は免れないんだってこと。

セドリックさんには操縦レースの時も、その後の学園の中でもゲーム通り話す機会があった。

良い人だったんだ。

私自身ゲームをプレイしていた時からファンだった。

そんな人が私を庇って死ぬ。

わかっていても、止められなかった。

だってマリアンヌの聖女の祈りを使わなければ戦況が変わらないから。


でも、不思議なことが起きた。

セドリックさんは魔法使いじゃない。

強固な防御魔法なんて使えるはずがない。

それなのにそれが発動した。

そしてそれがセドリックさんの命を救った。

まさか『不死の魔水晶』と呼ばれるこのゲームの中でも希少度が高くて、クリア後にしか手に入らないはずのチートアイテムをセドリックさんが持ってるとは思わないだろ?


その時『シナリオ』を外れてしまったんだよ。

私は焦った。

どうしてそれをセドリックさんが持ってるのか何がきっかけだったかわからない。

けれどセドリックさんが死なないとマリアンヌの聖女の祈りが発動しないんじゃないかって。


「でもそんなことはなかった。

マリアンヌの聖女の祈りは普通に発動されたし、本来なら私たちを先に進ませるために途中離脱していた[剣聖]ギルバートまで合流したんだ。

こんな奇跡が起きるなんて、まるで都合よく書き換えられた原作の生存IFストーリーじゃないか。」


でも、『シナリオ』が変わってもその後は問題なく魔王を倒せた。

なんならゲームの時よりギルバートやセドリックさんがいたおかげで簡単だったかもしれない。


魔王の背景は知っていた。

ゲームではただ黒い存在として描かれていたけど黒いのは彼のまとったマントだけ。

実際そこにいたのは私と変わらない、茶髪でそばかすのある少年だった。

一瞬躊躇したけどそれでも私は[勇者]としての使命をまっとうした。

それが一度目の進軍で犠牲になった人達へできる唯一の償いだと思ったから。


そこでゲームは終わるはずだった。


「でも私はまだこの世界にいる。」


後から聞いた話だ。

マリアンヌとセドリックさんは付き合ってなかった、とっくに失恋していたって。

アイリス先輩のことは知っていたよ。

まさか『不死の魔水晶』開発者だとは思わなかったけどね。

ゲームでの彼女は主要な人物なんかじゃない。

勇者アレンと同じ寮で、寮の部屋に時折現れるモブのキャラクター。

世界が今どんな状況か教えてくれたり、授業のコツを教えてくれるだけの都合のいいキャラクターだった。


名前すら覚えてないようなキャラクターの彼女とセドリックさんがどこかで出会ってどこかで気持ちがつながって、そしてそれが奇跡を起こした。

私の知らないゲームの外側で。


「私がゲームだと思っていた世界はゲームじゃなかったのかもしれない。

実際私はこうしてゲームが終わった今もこの世界で生きている。

そして何より、アイザック、君がその証明なんだよ。」

「僕?」

「本来死ぬことが決まっていたキャラクターが、自身の人生を歩み、愛する人を見つけて、運命、『シナリオ』を断ち切った。

そしてそのゲームの『シナリオ』から外れたという未来の証明だ。」

「…どういうこと?」

「『シンフォニア王国物語』というゲームの世界で絶対に死ぬはずだったセドリックというキャラクターが、もし生き残ったら?

幸せな家庭を持って、子供が生まれて、その子供がまた冒険をするかもしれない。

そんな『シナリオ』の外側の未来が君なんだ。

愛って…すごいんだよ。」

「っ…」

「私もこの世界に愛する人ができたんだ。

私の悩みを知って葛藤に寄り添ってくれる人。」

「聖女様とか?」

「違うよ、原作では登場すらしない錬金術師。

彼女だけが、私を元の世界に戻そうと、勇者という楔を断ち切ろうと、日々研究を重ねてくれているんだ。

私はとっくに帰ることを諦めて、この世界に生きる覚悟を決めているのにね。」


勇者アレンはまるで憑き物が落ちたみたいに穏やかな顔をしていた。

父さんが死ぬ運命だったとかゲームだとかそんなこと僕にはわからない。

わからないけど、勇者アレンにとってはとても大切なことだったんだろう。


「わからなくても良いよ。

でも、初めて歴史学の席に座って君を見つけた時、セドリックさんの面影を見た

死ぬはずだった人の子供が学園で元気に楽しそうに友人と共に過ごしている。

それにどれだけ感動したことか。

あの歴史をただの物語にしたくなくて、魔王戦争の講義なんてものを始めたけどその意味をやっと見出せた気がしたんだ。

…アイザック」

「うん?」

「君に出会えてよかった。」


勇者アレンは僕の頭を撫で、一息ついた。


「ここは風が気持ちいいね。

ゲームだったらただの緑の画面なのに、現実はこんなにも違う。

…さぁ、そろそろ帰ろうか。

あまり遅くなったらアイリス先輩とセドリックさんを心配させてしまうから」

「勇者アレンはこれからどうするの?」

「私?私は…彼女に思いを伝えてから、また旅に出ようと思うよ。」

「また会える?」

「あぁ、きっとね。」


そう言うと勇者アレンは椅子やテーブルティーポット達をあっという間にマジックバッグに吸い込んでもう一度転移魔法を使って僕を家の前まで送ってくれたんだ。





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