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『黒鎌のロア:神の盤面を燃やす王』  作者: Akarino−Hiro


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第2話 宰相の受難と最低最悪の軍議

処刑台に滲んだ血が乾ききるより早く――ロアは、次なる火種を放とうとしていた。


軍議室の長机には、まだ湯気を立てる肉の皿がある。

封を切られたばかりの酒瓶がある。

それから、宰相ラウルが奥歯で噛み砕いた胃薬の粉末が、白い雪のように散らばっていた。


卓の中央には、大陸西部の広域図。


その西半分を呑み込むように、白い獣じみた巨大な版図が描かれている。


アステル帝国。


大陸の半分を支配する、巨大軍事国家。

その長大な国境線の一点に、黒々と墨で印が打たれていた。


グリム門。


帝国西境の絶対防壁。

切り立つ断崖と底なしの沼に挟まれた、堅牢な石の砦。

レヴェン王国へ続く街道の喉元であり、帝国が西を睨むための牙でもある。


あそこを抜かれれば、レヴェンの国境は血に染まる。

逆に、あそこを奪えば、戦場はレヴェンではなく帝国領内へ移る。


理屈は分かる。


分かるからこそ、ラウル・エイム・グレインは胃を押さえていた。


「……陛下」


地の底から絞り出すような声だった。

怒りというより、限界を超えた絶望の響きに近い。


「本気ですか」


対する王、ロア・ヴェル・レヴェンは、豪奢な椅子に逆向きで跨っていた。


背もたれに両腕を乗せ、片膝に顎を預けている。

壁には、身の丈ほどもある黒鎌シオンが立てかけられていた。


ロアは、心底楽しそうに笑っている。


「俺様が、冗談で戦を仕掛ける顔に見えるか?」


「陛下は、冗談で国境を越えかねない顔をしています」


「いい目だ」


「褒めていません」


ラウルは深く、深く息を吐いた。


処刑台で反乱者たちの縄を断ち、腐敗した徴税官ガロの首を刈り、エルム村の民に槍と鍬を与えた。

そこまでは、まだいい。


いや、断じてよくはない。

よくはないのだが、ロアという名の歩く災害に長年仕えてきたラウルの胃壁は、その程度の凶行ならば穴を数個増やすだけで耐えられた。


真の問題は、その後だ。


皇帝暗殺。


アステル帝国元帥、レオ・ヴィクト・クロムの反乱。


帝国軍主力の離反。

皇帝派の瓦解。

正統軍の混乱。


その凶報がもたらされた瞬間、ロアは国境の防備ではなく、帝国への侵攻を選んだ。


しかも標的は、帝国の牙と呼ばれる難攻不落のグリム門。


「防備を固めるのが定石です」


「だから普通の国は、戦場を自分の庭まで招き入れる」


ロアは地図上に置かれた黒い駒を、指先で弾いた。


駒は横滑りし、グリム門の上でぴたりと止まる。


「門を取れば、戦は向こうの領土で始まる。取らなけりゃ、こっちの庭で始まる。ただそれだけの話だ」


「それだけ、ではありません」


ラウルは地図を指で押さえる。


「グリム門は崖と沼に挟まれた要害です。正面から攻めれば弩砲の餌食。裏手に回れば湿地に沈む。門の上には無数の射台。内側には二重の落とし格子。あそこは、まともに兵を向けてよい場所ではありません」


「まともに攻めなきゃいい」


「陛下のその言葉を聞くたび、私の寿命が削られていくのを感じます」


「お前は長生きするぞ」


「陛下のせいで、確実に短くなっています」


ロアは椅子から身を乗り出し、地図を覗き込んだ。


「門は硬い」


声が変わった。


ふざけた調子が消え、獲物の喉笛を見定める獣の低さが混じる。


「だが、人は柔い」


その一言で、軍議室の空気が変わった。


ニコが、撫でていた献金箱の蓋から手を離す。

ヴィヴィが、手鏡から視線を上げる。

バンが、骨付き肉を噛む顎を止める。

ジンが、酒瓶の口を指で塞ぐ。


ロアが戦場の匂いを纏う時、この部屋は一瞬で凍る。


「グリム門の兵どもは今夜、命令を待っている」


ロアはグリム門の上に置いた黒い駒を、三つに分けた。


「皇帝が死んだ。クロムが反乱した。正統軍は帝都防衛で手一杯。門の指揮官は今頃、誰の命令を聞けばいいのか分からず、盛大に頭を抱えているはずだ」


ラウルは沈黙した。


図星だった。


指揮系統が崩れた軍で最も動きが鈍るのは、臆病者ではない。

規律と命令を命綱にしてきた、真面目で忠実な兵士たちだ。


「次に、門の下だ」


ロアはグリム門のすぐ下に描かれた湿地帯を指差した。


「この沼は天然の泥濘じゃねえ。昔の川を潰して作った人工の守りだ。雨が多い年は門まで水が上がる。なら、必ず裏手に水抜きの地下水道がある」


ラウルの眉間が寄った。


「なぜ、そのような構造をご存じで?」


「十五の時に忍び込んだ」


「何のために」


「帝国の飯がうまいか確かめに行った」


「最低の理由ですね」


「まずかった」


「感想は不要です」


ロアは悪びれもせず笑った。


「地下水道は狭い。軍勢は通れねえ。だから、バンに行かせる」


全員の視線が、部屋の隅の巨漢へ集まった。


戦士バンは、口の中の肉を呑み込み、凶悪な笑みを浮かべる。


「穴か。いいな。狭い場所は敵を殴りやすい」


「頼むから、通ったあとに崩さないでください」


ラウルが釘を刺す。


「崩れたらどうなる?」


「帰れません」


「なら前に出るだけだ」


「そういう脳筋の解決策は求めていません」


ロアは赤い駒を湿地の裏手へ置いた。


「バンは十二人連れて地下水道を通れ。目的は門を落とすことじゃない。派手に騒ぐことだ」


「騒ぐのは得意だ」


「知ってる。敵の目を門の内側に集めろ」


次に、ロアはヴィヴィへ視線を流した。


「ヴィヴィ。沼に霧を出せ」


「隠すため?」


「違う。見せるためだ」


魔女ヴィヴィの口角が、艶やかに吊り上がる。


「影を増やすのね」


「そうだ。見張り台から、湿地を本隊が強行突破しているように見せろ」


「何倍にする?」


「三倍だ」


「五倍にもできるわ」


「五倍は嘘くせえ」


「三倍では慎ましすぎて品がないわ」


「品じゃなくて勝ちを作れ」


ヴィヴィは不満げに目を細めた。


「最低ね」


「美しく勝て」


「それなら好き」


ロアはニコを指差した。


「ニコ。お前はラウルと一緒に正面へ行け」


ニコは胸に手を当て、柔らかく微笑む。


「祈りを添えるのですね」


「薬と毛布と食料だ」


その瞬間、ニコの笑みから感情が消えた。


ほんの一拍。

だが、ラウルは見逃さなかった。


「敗残兵と難民向けですか」


「門の外で騒ぎを作る。レヴェンは国境警備と難民救援の相談に来た、という顔をしろ。門兵は今夜、誰が敵で誰が味方か選べねえ。だが、目の前の怪我人と空腹を無下にはしにくい」


ニコはすぐに、完璧な作り笑いを戻した。


「人の善意を盤上に乗せるとは。陛下もなかなか、聖職者に向いておいでです」


「お前よりはな」


「それは侮辱ですか。褒め言葉ですか」


「両方だ」


ラウルは、冷や汗の滲む額を押さえながら地図を見下ろした。


「正面で救援を装い、湿地に幻の本隊を見せ、裏手の水抜き道で騒ぎを起こす。門兵の意識は三つに割れます」


「そうだ」


「その隙に、誰が跳ね橋を落とすのですか」


ロアは、ジンを見た。


ジンは酒瓶から静かに指を離した。


その瞬間、酔いどれの男から一切の緩みが消えた。

部屋の片隅でくたびれていた剣士が、抜き身の刃へと変わる。


「跳ね橋か」


「鎖は二本ある」


「外からは無理だ」


「中からなら?」


「番兵が七人。鎖番が二人。鐘楼まで十六歩」


ジンは半眼のまま、淡々と続けた。


「酒を飲んでなけりゃ、いける」


「飲んでるだろ」


「少しな」


「いけるか」


「門を開けるくらいなら」


ロアは満足げに笑った。


「なら、開けろ」


ジンが酒瓶のコルクを押し込んだ。


小さな音だった。


だがラウルには、それがこの軍議室で最も恐ろしい破滅の音に聞こえた。


最後に、ロアは壁に立てかけていた黒鎌へ手を伸ばした。


黒鎌シオン。


刃は深い漆黒。

鉄ではない。魔法金属でさえない。

あらゆる光を呑み込むように沈み、ときおり刃の根元に青白い線が脈打つ。


処刑台でも震えた。


ロアにだけ聞こえる、あの冷たい声が響いた。


『異常値、観測』


ロアはシオンを肩に担ぎ上げる。


「で、陛下は?」


バンが聞いた。


「俺様は門を割る」


ラウルが即座に突っ込んだ。


「やはり陛下の役目だけが致命的に雑です」


「雑じゃねえ。最後はどうせ、そうなる」


「なぜ最後だけ思考を放棄するのですか」


「考えても開かねえ扉もある」


ロアは地図上のグリム門を、指の関節で軽く叩いた。


「門は硬が、人は柔い。鎖は細い。水は低い方へ流れ、兵は声の大きい方を見る」


獰猛な笑みが、王の唇に浮かぶ。


「戦なんてのは、思ったより単純だ。難しく考える奴は、だいたい怖がりか小心者だ」


ラウルは、もはや反論する気力も失い、小さく息を吐いた。


「陛下」


「なんだ」


「これが成功すれば、帝国はレヴェンを明確な敵と見なします」


「もう見てる」


「周辺の諸侯も黙っていません。動きます」


「動かせ」


「戦乱が大陸中に広がります」


「もう広がってる」


ラウルは沈黙した。


やがて、絞り出すように問う。


「……なぜ、そこまで笑えるのですか」


その問いに、部屋の空気が凪いだ。


ロアは窓の外へ視線を向けた。


まだ眠らない王都。

処刑台の熱狂から戻った民衆のざわめき。

決起したエルムの反乱者たち。

震える手で槍を握った少女、ミラ。


「水路を通す」と泣きながら叫んだ、あの声。


ロアは静かに言った。


「俺が笑ってなきゃ、民が泣く」


ラウルが目を見開いた。


けれどロアは、すぐにいつもの不敵な顔へ戻る。


「それに、俺様は泣き顔より怒った顔を見る方が好きだ」


「……台無しです」


「中身は悪くねえだろ」


「悪くないから、困るのです」


軍議は終わった。


いや、ロアが終わらせた。


椅子が跳ねる音。

兵たちが廊下を駆ける音。

伝令の叫び。

城全体が、巨大な生き物のように脈打ち始める。


ラウルは使者団の編成に走り、ニコは物資をかき集める。

ヴィヴィは鏡の前で霧の術式を編み、バンは骨付き肉を片手に部下を怒鳴りつける。

ジンは酒瓶を置き、腰の剣帯だけを締め直した。


誰もが、ロアという災害に振り回されている。


だが、誰一人として足を止めようとはしない。


ロアの無茶は、いつも破滅的に見える。

けれど、その破滅の中心にこそ明日へ続く道があることを、臣下たちはとうに知っていた。


     * * *


グリム門の内部は、ロアの読み通り、混乱の坩堝だった。


皇帝崩御。

元帥クロムの反乱。

帝都を守れと叫ぶ正統軍。

新たな命令系統を主張する元帥派。


矛盾した命令が飛び交い、門の指揮官は判断力を失っていた。


門を固く閉ざすべきか。

押し寄せる難民を受け入れるべきか。

目前に現れたレヴェンの使者を追い払うべきか。


判断を放棄した者ほど、目の前の手続きに逃げる。


ラウルは、その心理を熟知していた。


「レヴェン王国宰相、ラウル・エイム・グレインです」


巨大な正門の前で、ラウルは松明の光を浴びながら堂々と名乗った。


「皇帝陛下の崩御に対し、我が国より深い哀悼の意を捧げます」


城壁の上の門兵たちが、困惑したように顔を見合わせる。


その隙を突いて、ニコがにこやかな笑みを浮かべ、荷車の布を勢いよくめくった。


「負傷兵の方々と避難民の皆様へ、ささやかですが薬と毛布をお持ちしました。代金は後日で結構ですよ」


ラウルが低く囁く。


「無料と言いなさい」


「後日、形を変えた感謝という名目で」


「無料だ」


「……ええ。無料でのご提供です」


物資不足に喘いでいた門兵たちの視線が、荷車へ釘付けになる。


その空気が緩みかけた瞬間。


見張り台から、悲鳴のような声が轟いた。


「湿地に影! 敵襲! 大軍勢だ!」


門の上が、蜂の巣を突いたような騒ぎになる。


ラウルは表情を変えず、内心で息を止めた。


始まった。


湿地では、ヴィヴィの霧が狂宴を繰り広げていた。


灰色の靄の中で、人影が蠢く。


一人が三人に。

三人が一小隊に。

一小隊が、底の見えない大軍勢に。


門兵たちは恐怖に目を凝らし、見えない敵に怯える。

疑おうにも、あまりにも生々しい幻影を前に、防衛本能が理性を押し潰していく。


同じ頃、裏手の水抜き道では、バンが錆びついた鉄格子を両手で掴んでいた。


「隊長、鍵開けの道具を」


「いらん」


「いや、要りますって」


「要らん」


バンは、丸太のような両腕に力を込めた。


筋肉が異常なほど盛り上がる。

赤錆びた鉄が悲鳴を上げる。

はめ込まれた石組みに亀裂が走る。


次の瞬間、鈍い破壊音が水路に反響した。


分厚い鉄格子が、壁ごとむしり取られていた。


「ほらな」


「ほらな、じゃありませんよ!」


「行くぞ。腹が減ってきた」


バンたちが、暗い地下水道から門の内部へ雪崩れ込む。


グリム門の内側で最初の阿鼻叫喚が巻き起こったのは、それからわずか数分後のことだった。


同じ頃。


ジンは、すでに鐘楼の真下にいた。


周囲の誰も、彼という死神がそこに立っていることに気づいていない。


番兵の視線は、正門の使者団と、湿地に現れた幻の軍勢へ釘付けになっていた。


ジンは、音もなく剣を抜く。


本当に、一切の音がなかった。


番兵が背後の気配に振り向くより早く、兜の革紐だけが、ふつりと切れた。


重い兜が石畳に落ちる。


男が驚愕に目を見開いた瞬間、その喉には冷たい鋼の刃がぴたりと添えられていた。


「声を出すな。殺したくなる」


番兵は息を呑み、口を閉ざした。


ジンはそのまま、跳ね橋を支える巨大な鎖へ歩み寄る。


太く、重く、油に濡れた鋼鉄の鎖。

まともに斬れば、名剣でも刃こぼれは免れない。


狙うべきは鎖ではない。

要となる留め具だ。


剣を振るな。

置け。

敵の方から、そこへ来させろ。


昔、自分が誰かに教えた言葉が、脳裏を過った。


ジンは、刃を留め具の隙間へ滑らせた。


ただ、置いただけ。


次の瞬間、内郭からバンが暴れ回る轟音が響き渡った。


門兵たちが慌てて走る。

振動で、鎖が大きく揺れる。


ジンはその揺れの頂点に合わせ、剣の柄をほんの数ミリだけ押し込んだ。


ぱきん。


硬質な音が響き、留め具が弾け飛ぶ。


均衡を失った跳ね橋が、重力に従ってゆっくりと降り始めた。


外では、門兵たちが恐慌状態に陥っていた。


「橋が下りるぞ!」


「誰だ! 誰が鎖を落とした!」


ラウルは、静かに安堵の息を吐いた。


「……陛下」


正門へ続く闇の中から、重い足音が響いてきた。


一人。


いや、ただ一人に見えるだけだ。


黒い王冠。

血のように赤い外套。

人の背丈を超える異形の黒鎌。


ロアが、悠然と歩いてくる。


レヴェンの使者団が、海が割れるように道を開けた。


城壁の上の門兵たちは、一斉に弩の狙いを定める。

だが、ロアは止まらない。


完全に降りた跳ね橋のたもとで、担いでいた黒鎌をゆっくりと下ろした。


「よくできましたね、陛下」


ラウルが皮肉交じりに言う。


「褒めるのが遅い」


「まだ成功していませんから」


「今からする」


ロアは黒鎌シオンの柄を握りしめた。


漆黒の刃の根元に、青白い光が脈打つように走る。


夜が、一瞬だけ無音になった。


ロアは酷薄に笑う。


「開けろ、シオン」


黒鎌が、夜の空気を裂いて鳴った。


斬ったのは城門そのものではない。

門の内側に仕込まれた、落とし格子の制御機構だった。


重さ数トンの鉄格子が支えを失い、斜めに傾きながら落下する。

城門の歯車が噛み合わず、ひしゃげた悲鳴を上げた。


閉じるために作られた堅牢な門が、開いたまま完全に機能不全に陥った。


ラウルが目を見開く。


「城門を割ると仰ったではありませんか」


「割っただろ。仕組みをな」


ロアは開かれた跳ね橋を堂々と渡っていく。


門兵たちは、誰一人として動けない。


湿地の幻影はまだ揺れ続けている。

内側ではバンが暴れ狂っている。

鐘楼はジンが制圧した。

正面には、人質にもなりかねない使者団がいる。


グリム門の機能は、完全に麻痺していた。


その絶望的な迷いのど真ん中を、王が征く。


黒鎌を担ぎ、楽しげに笑いながら。


「門ってのは、ただの壁じゃねえ」


ロアの声が、石造りの防壁に低く響く。


「人が守っている以上、迷わせれば勝手に開く」


だが、次の瞬間。


極彩色の夜を、白い光が斬り裂いた。


ロアの足元の石畳が、紙のように両断される。


鋭すぎる剣閃。


ロアは半歩だけ退いた。


その半歩で、黒鎌の柄を縦に立て、見えない斬撃を受け流す。


金属がぶつかる甲高い音が、夜の空気を震わせた。


火花が散る。


開け放たれた橋の向こうに、一つの影が浮かび上がった。


白い鎧を纏った女騎士。


セナ・リュクス・アークライト。


月光を弾く白銀の鎧。

無数の戦をくぐり抜けた、傷だらけの肩当て。

氷のように冷たい青い瞳。

そして、微塵の揺らぎも見せない剣の切っ先。


「黒鎌のロア」


凛とした声が、夜風に乗った。


「処刑台で反逆者の縄を断った王が、次は帝国の門を断ちに来ましたか」


ロアは口の端を歪める。


「いい目だな、白いの」


セナの剣が、月光を吸って冷たく輝いた。


「この門は、通しません」


「通すさ」


ロアは黒鎌シオンを上段に構え直した。


ひどく楽しそうに。

心底、嬉しそうに。


「俺様が、来たからな」


その瞬間、黒鎌の刃が青白く瞬いた。


ロアにだけ聞こえる冷たい声が、夜の底で告げる。


『警告。対象、セナ・リュクス・アークライト』


一拍。


『勝率、算出不能』

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