(8)家事について アーチンいわく
里の者たちからすると、ティタニアたちを連れてきた責任はオベロンだけでなく、オレにもあるらしい。まぁ、いいさ。オレは薄情者なんかじゃないぜ。わざわざ世話役を負わせなくたって、親友が困っているなら手助けくらいするってーの。
そんなわけで今日も今日とて、オレはオベロンの家に入り浸り、仲よし家族の冷やかしをしていた。そりゃあ、もちろん家事もそれなりには手伝っている。チビふたりに加えて病弱のティタニアだ。オベロンひとりじゃ、大変だからな。
オベロンが父親になってから季節が数巡し、赤ん坊たちは二本足で駆け回って言葉も話せるほどに成長した。といっても、まだまだチビの幼児だけど。そんなチビのプーカが、床にペタンと座りこんでむくれていた。
「むぅー……」
プーカの手にした手鏡には、いじらしいフクレッツラが映りこんでいる。プーカの小さな手に、その手鏡は大きすぎて似つかわしくない。それでも一生懸命に片手で支え、残った手で自分の耳をいじくっている。
指で耳の先をつまみ上げて放し、また耳の先をつまみ上げて放し――と繰り返す。そのたびに耳は張って垂れ、また張って垂れ――といっしょに繰り返した。
「ピンッ……てろん……ピンッ……てろん……」
やがて耳の往復が止まると、手鏡はヒザへ投げだされるように置かれた。意気消沈な背中を見せるプーカへ、ティタニアがかたわらに寄りそって優しく語りかける。
「どうしたの、プーカ?」
「だってわたしの耳、ヘンなんだもん……」
プーカの若草色の髪はショートヘアになっていた。切りそろえられた両サイドからは、しおれた長耳が垂れて肩の上で揺れている。
もの悲しい耳の様子に、オレからするとかける言葉もないが、ティタニアは朗らかな口調で言った。
「ロップイヤーのウサギさんみたいで、とってもカワイイわ。わたしの耳も、尖ってないけどヘンかしら?」
「おっかあの耳はちいちゃくてカワイイけど、わたしのはヘンだもん……」
ティタニアの黒髪は、プーカと同じシルエットになっていた。そのショートヘアからのぞくのは、ストレンジャー特有の締まりのない丸耳。オレからすると、どっちもどっちだな。
ティタニアの青白い横顔に、かすかに赤みが差す。いじける子ウサギのロップイヤーに、優しく口づけをして抱き寄せた。プーカの耳にホオをすり寄せながら、ティタニアは温かい吐息のような声音でささやいた。
「プーカがどんなに嫌ったって、おかあさんはプーカの耳が大好き。わたしに元気をくれる、かわいいプーカ……あなたが笑顔でいてくれたら、おかあさんはとっても嬉しいな」
そんなふたりの背後へ、片ツノを生やしたボウズが――チビのパックがトコトコと近づいてくっついた。
うーむ。赤ん坊のころから今も変わらず、パックの目つきはにらみを利かせるようだな。そんな顔でモジモジとしながらティタニアに甘えているのだから、なんだかオモシロい。
パックをプーカとともに抱き、ティタニアは小さな片ツノへ口づけをして言った。
「わたしのかわいいユニコーンさん、もちろんあなたも大好きよ」
パックのユニコーン頭へ、ティタニアは顔を寄せて言葉を続ける。
「そのツノには偉大な力が宿っているの。良いことに使えば英雄とたたえられ、悪いことに使えば……」
何かを思いだしたのだろう。ティタニアは一瞬だけ言葉を濁したが、すぐに語を継いだ。
「……でもパックなら大丈夫。あなたの優しさは、わたしがちゃんと分かっているから。きっといつか、みんなが英雄とたたえる日が来るわ」
腕の中の温もりを味わうように、ティタニアはふたりをさらにしっかりと抱きしめた。
ところでティタニアとチビたちは、オレたちの言語とストレンジャー語を混ぜて話している。もともとオレたちの言語を少しは心得ていたようで、ティタニアの上達は早かったな。
オレのストレンジャー語の知識は大したことないが、話している内容は――まぁ、大体こんなところだろう。この和やかな雰囲気が、それを証明しているってもんだ。うん。
のどかな光景を眺めながら、ホオヅエをついて物思いにふける。そんなやすらぎのひと時を味わうオレに、エプロン姿のオベロンが詰め寄ってきた。
「ずいぶんとヒマそうだね、アーチン?」




