(7)家族について オベロンいわく
もうすぐ季節が一巡し、そろそろティタニアがぼくらの里に慣れてきたころのことだった。
ティタニアとパックはもちろん、ぼくもアーチンも出会ったあの時とはずいぶん印象の違う小奇麗な格好になっていた。ティタニアもぼくらと同様に裸足で、これは伝統にのっとった様式だ。
ぼくたち四人は、森の陽だまりへピクニックに出かけた。ティタニアは病弱で、日光浴が必要だったのだ。
愛らしい花々、静かな木陰、優しい風、そして慎ましいランチを堪能していたそのときだ。木々と鳥獣のざわめきを縫い、聞こえてくる「音」があった。それはストレンジャーのティタニアには聞こえないほどのかすかな音で、ぼくやアーチンの長耳だからこそ聴こえる遥か遠方の音だった。
「……ぁ……ぉ……」
ぼくはアーチンにふたりを任せ、音の方へと探索に向かった。
木の山を越え、木の谷を越え、木々の間を抜けていく。すると立ち並ぶ木々の中に、ひときわ異彩を放つ奇妙な木があった。
その木は幹がのたくるようで、節くれがひしゃげた顔を形づくっていた。驚いているような、ウンザリとしているような、あ然とした表情。そんな顔で、ひとりのストレンジャーを見下ろしていた。
ストレンジャーは金髪の若い男だった。男の顔立ちは端正さをうかがわせながらも、うかがい知れない心痛がそれをゆがめていた。散歩でもするような軽装で、サスペンダーで留めたシャツとズボンはくたびれてすり切れ、靴も失くしていた。
大木の露出した根へ、打ちひしがれたようにもたれかかる男の姿は、弱々しくミジメなものだった。そしてその光景には、あの日のティタニアが重なって見えた。
その理由は知れている。金髪の男の腕にも、若草色の髪の赤子が抱えられているのだから。
「……おぎゃあ……おぎゃあ……おんぎゃあ……」
けれどティタニアとは違い、男は赤子を持てあましているようで泣きわめくのに目もくれない。しょんぼりとしているばかりで、ぼくが近づいてもうろたえる様子もなかった。
赤子にはパックのようなツノはなく、反り返った鼻と土色の肌はぼくたちと同様のものだった。ただしその耳は、パックやぼくたちのピンと尖った耳とは違っていた。
赤子の耳を、ぼくは手のひらにすくい上げた。元気のよい泣き声とは裏腹に、その耳は力なく垂れ、しおれている。
「くたり……」
羽化したばかりのチョウの、ちぢれた羽を思いだした。
そんな様子に、哀れみを誘われないでいられようか。ぼくは「大きな決断」をしてから、アーチンたちの元へ帰還することにした。
彼方から徐々に見えてくるアーチンは、予想通りの表情をしている。何か言いしれない不安に、かすかなイラ立ちを感じているような顔。ヤツの予感が現実のものとなったそのとき、アーチンは片手で頭を抱えてこう言った。
「おいおい、またかよッ!」
ぼくのかたわらには、トボトボとした様子の金髪の男と、彼が抱えるしおれ耳の赤子。もちろんアーチンは不平を並べ立てる。
「クドクド……くどくどくどッ……」
一方ティタニアは快く赤子を受け入れ、パックのための乳を分け与えてくれた。
それから後のこと、しおれ耳の赤子はプーカと名づけられた。そしてもうひとり、金髪の男は名をオシアンと言った。
プーカの父親はオシアンではなかった。それは因果か、因縁か。プーカの父親は、ティタニアにとって忌まわしい記憶であるパックの実父と同じだった。
こうしてパックとプーカ、異母兄妹のふたりはひとつの家族となった。もちろん母親はティタニアで、父親はせん越ながら、このぼくが務めることになった。
そうそう。なんのかんのと言いながら、結局はアーチンも賛同してくれた。アーチンってヤツは素直じゃないだけで、根は優しくて友情に厚い男なのさ。




