(6)友人について アーチンいわく
嫌な予感がする。黙りこくって考えこみ、いったいオベロンは何をするつもりだ――って、ホントは予想がついている。オベロンというヤツは、前々からストレンジャーに対して情けをかけすぎていた。いつかこんなことになるんじゃないかと、頭の片すみにチラついていたのだ。
そしてとうとう何か思いついてしまったようで、オベロンが口を開いた。
「アーチン、ちょっと借りるよ」
そう言ってオベロンは、返事を待たずにオレの手から斧をひったくった。それを自分の槍とともに、薄絹のストレンジャーの足元へ置く。
「オベロンよぉ、いったい何を始めようってんだ……」
オレの問いを無視し、オベロンはそこいらの草むらを漁り始めた。
「がさごそ……ガサゴソ……」
しばらくすると戻ってきて、さっきの斧と槍の上に「収穫物」を置いた。
オレは片手で頭を抱えた。オベロンの奇行に対する感想が、思わず口をついて出る。
「おいおい、マジかよ……」
あの白いヤツはデイジーか。それから桃色のプリムローズと、紫のアイリスと、青いブルーベルに、黄色いタンポポに――とにかく色とりどりの花々だ。あろうことか、それが凶器に添えられているのだから、なんともノーテンキな光景になっている。
それでだけで終わりじゃなく、オベロンはさらなる奇態を演じ始めた。片手を胸に当てながら、片ヒザ立ちでおじぎのポーズ。薄絹のストレンジャーに向かってひざまずくオベロンの姿は、まるでオトギ話のアレだった。姫君に忠誠を誓い、身命をささげる騎士様――って、オベロンよぉ――
「何やってんだ、オイ……」
それを眺める薄絹のストレンジャーは、丸くした目をパチクリさせている。
そりゃあ、そうだろう。ストレンジャーからすれば、目前にひざまずくのは命を狙ってくるはずの仇敵なわけで。そんなオベロンのコッケイな様子が、張り詰めていた緊迫の糸を断ち切ったようで、薄絹のストレンジャーはくずおれてしまった。
「……カクン」
ウンザリとした心持ちで、オレはオベロンをとがめた。
「あーあ、気ぃ失ってらぁ。どうすんだよ、コイツら……」
愚問だとでも言いたいように、オベロンは達観したほほ笑みをオレに向けてくる。
「フフ……ッ」
やっぱり連れて帰るつもりらしい――
「まぁーったくッ、勘弁してくれよなぁ……」
オレたち種族は、大森林の奥深くに暮らしている。森に侵入する外敵ども――ストレンジャーどもに比べればずっと長命で、ヤツらとは異なる時間を、異なる領域で生きていた。だがストレンジャーどもは手前勝手な考えで、その領分を侵してきた。
天は光をもたらし、森は地上を覆って闇を生む。だから天の神サマへ祈りをささげる連中にとって、森は異界の魔境となった。そんなふうに自然を畏怖しながらも、それがもたらす恵みを享受するため、ストレンジャーは森の奥へと侵入してきた。
ストレンジャーによって持ちこまれた伝説や伝承は、森の奥に怪物や神秘を創作した。ありえない虚構でさえ、物語の中では現実となる。物語を育む森の中で、未知のケモノや鳥は妖魔へと姿を変え、知られざる虫や自然現象は妖精へと姿を変えた。そしてオレたち種族も、もの珍しい妖鬼となったわけだ。
もの珍しい妖鬼は、時にエルフと呼ばれて忌避され、時にゴブリンと呼ばれて唾棄された。それは略奪や隷属、あるいは戯れの暴力の対象にさらされることを意味した。
ストレンジャーによる森の侵略が――連中にとっては森の開拓が――進むにつれて対立は激化。こっちだって受け身ばかりじゃなく、ストレンジャー狩りがオレたちの生業のひとつとなっていた。
そんな状況が生みだしたふたりの犠牲者――草色髪の赤子と、それを抱えるストレンジャーの少女は、オベロンの嘆願によってオレたち種族の隠れ里で暮らすことになった。
オベロンとストレンジャーの少女――言語が異なる両者が、まっさきに疎通をはかったのは名前だった。オベロンの名が伝わり、少女の名がティタニアであることが分かると、次に片ツノの赤子がパックと名づけられた。
ティタニアが暮らすことについては当然に反発があった。だがオベロンは意に介さず、その献身はやがてティタニアの笑顔を引きだした。ティタニアもまた、里になじもうと懸命だった。やがて里の者たちの心を溶かし、パックとともに里の一員となった。
まぁ、うん。ティタニアが悪党でないことは、オレだって初めから分かっていたさ。




