(5)純真について オベロンいわく
外した仮面を手にしたまま、ぼくは「外界からの侵入者」を――「ストレンジャー」を見つめていた。彼女の身体を覆う衣は、薄絹の肌着ただひとつだけ。それもほころんで泥と血が汚し、貧弱な手足を無数の生傷とともにさらしていた。
戦意は感じられず、そもそもあらがう力があるはずもない様子。このいたいけな少女に対し、ぼくは何をしようというのか。この手の槍をもって、いったい何ができるというのか。
そんことを考えていると、相棒がウンザリとぼくの名を呼んだ。
「オベロンよぉ。なんで、とっとと殺っちまわねぇのさ?」
考えのまとまらないまま、ぼくは相棒に問い返した。
「なあ、アーチン。里長の命令は、ストレンジャーの始末だよな」
薄絹の少女が抱えるのは、今まさに産まれたばかりの赤子。それが彼女の血を分けた子供であることは、ふたりをつなぐヘソの緒が証明をしている。
そんな赤子を見ながら、ぼくは話を続けた。
「長く尖った耳と、上向きの鼻。それから土色の肌に、草色の髪……ぼくらの同族だよ、殺す必要はない」
赤子の特徴を見れば、父親がぼくたちの同族であることも、また疑いようはなかった。それでもアーチンは、疑心ふんぷんに不満顔を続ける。それはそれで、当然のことではあった。
赤子の特徴は、髪色が深すぎることを除けば、ぼくの言葉にウソはない。けれど言外においては異なり、赤子は目元の上部がでっぱっていて、落ちくぼんだギョロ目が奇妙だった。
しかし新生児は大概にサル顔をしているものであり、そのせいとも思えなくもない。アーチンの疑心のみなもとが、ギョロ目ではなく別にあることは、ぼくも気づいていることだった。
アーチンは赤子へ――その「疑心のみなもと」へ手を伸ばしながら、ぼくの言葉を継ぐように言った。
「おまけに『ツノ』まで、あるけどなぁ……」
赤子の顔には、左コメカミ辺りにツノがあった。それは肌の隆起などではなく、皮膚を突き破って出ている紛れもないツノだった。
迫るアーチンの手に、薄絹の少女は身をちぢこめた。満身そういを絵に描いたような姿で、それでも片ツノの赤子をかばい、決然とぼくたちをにらみ返してきた。
アーチンは手を引っこめ、改めて少女を観察している。彼女の耳は丸く、鼻は水平にチョコンとして、長い黒髪が張りついた柔肌は、汚れてもなお純白をのぞかせている。
アーチンはあきれたように言った。
「オベロンよぉ……そもそも母親は、まるきりストレンジャーだぜぇ?」
ぼくは冗談めかした口調で返した。
「なぁ、アーチン。おまえって……子育て、得意だったっけ?」
母親を殺し、赤子だけ連れ帰るのか――という含みがキチンと伝わったようで、アーチンは投げやりに返してきた。
「わかった、わかった! どうせこの様子じゃ、ほっぽっときゃ早晩、のたれ死にだぜ!」
ぼくもまた、改めて薄絹の少女を観察した。彼女はそのあどけない顔の眉根を寄せ、精いっぱいの戦意を必死に表現している。ぼくの目には奇妙に見えてしまう、片ツノの赤子を守るために。
哀れな捨て犬のように身をけがされながら、けれど高潔な聖母のように内面の純真は揺るぎなく――少女のそんな姿に、ぼくはたまらない心持ちになっていた。
この愛おしさを、彼女のように純真な思いやりで伝えたかった。




