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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第1幕 幼き異母兄妹
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(4)希望について ティタニアいわく

 うっそうとした木々が陽を遮り、真昼だというのに薄暗い景観――わたしは森にいました。

 逃げだして、迷いこんだ森の奥。さまよい歩いた奥の奥。そのまたさらに奥深く。立ち並ぶ木々の中に、ひときわ異彩を放つ一条の木がありました。

 その木は幹がのたくるようで、節くれがひしゃげた顔を形づくっていました。苦悶の表情は悲しみに満たされ、寄りそってくれる誰かを待ちわびるかのようです。地表へ露出した根っこは生け垣のように立派で、そのひとつへわたしはもたれかかっていました。


「ハァ……ァ……ハァ……」


 わたしは疲労困ぱいで、なすすべもなくうなだれていました。今できることは腕の中で泣きわめく赤子を、ただ眺めることだけでした。


「……おぎゃあ……おぎゃあ……おんぎゃあ……」


 必死の産声が、鼓膜をかすめて通り過ぎていきます。


「……おぎゃあ……おぎゃあ……おあぁ……」


 産声は苦しみを心ごと連れ去り、空箱のようなわたしが――ただ痛みだけがこびりつく、空っぽのわたしがそこにありました。

 もはや希望など存在しない。この森にあるのは、死ばかりだと覚悟していました。けれど哀れな忌み子は温かで、わたしの視界に映るのは紛れもなく命でした。

 赤子のぷっくらとしたお腹には、生まれたてであることを示す印が、まだ生々しく付いています。わたしが抱える小さな命は、母子の証しによってわたしの股ぐらへとつながっていました。

 この時のわたしにとって、それはひと事のようであり、この微温が守るべき愛情であると気づけたのは、次の出会いがあったからでしょう。

 わたしたちに近づく者がありました。ケダモノではありません。人の形をした何者かです。

 ここは人々が立ち入りをはばかる魔境の淵。巣食う者といえばゴブリンか、エルフか、はたまた――なんにしろ「亜人」のたぐいに違いありません。亜人とは野蛮な鬼であり、慈悲など持ちあわせない悪魔であり――そう思いながらも、目の前にいる亜人には何か変わった様子も感じました。

 亜人はふたりいました。履物はなく裸足で、腰に葉っぱと布切れを巻きつけただけの半裸といった風貌。ひとりはしなやかな身体つきで手には槍を、もうひとりはふくよかな身体つきで斧を担いでいます。

 ふたりともずきんを被り、そこからのぞく顔は鬼のような、悪魔のような――なんと形容するにしろ、とにかく奇妙な顔立ちです。横長の瞳孔を持つ大きなギョロ目、丸くて平たいケモノ鼻、むき出しの大きな歯。全てが誇張された顔には、巻きツノまで付いています。

 やおら槍の亜人の手が、自身の顔をはぎ取りました。


「かっぽ……」


 そのはぎ取られた顔――もとい「仮面」を手にし、亜人は無言のままでわたしを見つめてきます。その顔立ちは、わたしが知っている亜人のそれに似ていました。

 ウサギのように長く尖った耳、ブタのように反り返った鼻、それから土色の肌と草色の髪。それらは、まさに亜人の特徴で違いはありません。けれど一方で、あの特徴的なギョロリとした目つきではありませんでした。

 目前の亜人は、どちらかと言えば端正な若者の顔立ちでした。少なくとも、わたしの記憶にある幽鬼のようなおどろおどろしさは見当たりません。どこか憂いを帯びた表情で、気を許してしまいそうな穏やかささえもたたえています。

 斧の亜人も仮面を外しました。やはりこちらも、ブキミさはない温和な顔立ちです。ただしあきれたような表情で、つれあいの行動を不審に思ってか、声をかけて話し合いを始めました。

 彼らの会話はわたしとは言語が異なっていて、わずかしか分かりませんでした。

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