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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第4幕 ユグドラシルに抱かれて
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(59)勇者について バスタいわく

 森の奥深く、勇壮な大剣が突き立っていた。こもれびに照らされて光をまとい、勇者の到来を待ちわびているかのようだった。

 大剣を目指し、オレは散乱する枯れ木の山を踏み越えて進んだ。枯れ木はガイコツのような形状の物も混ざり、それはシカバネの山にも見えた。


「乱痴気騒ぎも、いい加減に飽きたか……安穏と寝ほうけていやがるぜ」


 オレの横目に映るのは、ひとりのゴブリンの小娘。立ち枯れた大木の下で、その露出した根へすがるように、身体を丸めて横たわっている。その乱れた髪には、ゲッケイジュの葉がチラホラと絡まっていた。

 立ち枯れの大木は老婆を形づくり、その身体は骨と皮のオウトツに乳房をたるませている。だが頭と片腕は朽ちてウロがうがたれ、残った手はヒザの上で眠るゴブリンの小娘へ添えられていた。それは泣き疲れた駄々っ子を、ヨシヨシと寝かしつけているようにも見えた。

 オレは歩みを止めた。眼前には、勇者を待ちわびる大剣の雄姿。オレは振り返り、腰を落とした。

 オレの両腕は、後ろ手に縛られたままだった。オレを束縛するグレイプニルの呪いを、突き立つ大剣にあてがう。


「ギコギコキコギゴキコギコギゴギコギゴキコギコ……ぶぢりッ」


 呪縛は破られた。解放された両手で、大剣をも大地の封印から解き放つ。


「ぐっぽ……ッ」


 虚空を数回薙ぎ、ふたたび大剣の手触りを確かめる。


「ビュウンッ、ブン、ブゥン……チャキシッ」


 立ち枯れの大木へ、オレは半身を向けた。しおれ耳のゴブリンをにらみながら、湧き上がる感情に身を任せて怒号する。


「悪鬼羅刹に堕そうとも、サバトはオレが引き継ぐぜ! 業魔にささぐ血のイケニエ……ふさわしきはキサマだ! 人食いの魔女……バーバヤガーッ!」


 そんなオレの覚悟をあざ笑うかのように、しおれ耳のバーバヤガーはノーテンキな寝息を立てている。


「すぴぃー……すぴぃー……」


 オレは前へと踏みだしながら、夢の世界に逃避するバーバヤガーへ現実を突きつけた。


「……フン。せいぜい惰眠を貪るがいい。気づいたときは、遅きに逸しているのさ……それは永遠の眠りなのだからな……!」


 そう言いながら歩みを進めるオレの背後で、何かの落下音が響いた。


「ガランッ……ガラガラガラ……」


 振り返ると、枯れ枝と木片の山が土ぼこりを上げている。木ギレの山は灰褐色と赤色のまだら模様で、その上には三つの「頭部」が積まれていた。

 ひとつは白金色の髪をした頭――カイナ。

 ひとつは銀色の髪をした頭――シルバーン。

 ひとつは黒いヒゲづらの頭――ブライム。

 オレの仲間たちだ。いや、仲間だった肉片か。


「待っていてくれ……みんな。せめてカタキは討ってやる。たとえ逢魔が深淵の底で、この身が打ち砕かれようともな……!」


 ふたたび立ち枯れの大木へ向き直る。仲間への弔辞を続けながら、オレは歩き始めた。


「あがないの血で大地を洗ってやるぜ……! 仲間たちの墓標にたむける、葬送の――」


 オレは構えを解き、片手で大剣を握っていた。オレの腕力なら軽々としたものさ。だが、そのときだった。歩みに合わせて大剣を後ろへ振ると、その大剣が何かに引っぱられた。


「……グン!」


 視界の外で起きた出来事だ。さすがのオレも動揺し、せっかくの弔辞のセリフを途切れさせてしまった。


「――弔花はコイツ……のぉッ?」


 落ちつけ、何かに引っかかったのだろう。オレは振り返って確かめた。オレの視界に映るのは、この手にしっかと握られた大剣。それからその勇ましき刀身へ、うらやむようにたかる幾本かの「木々」。


「……ゥウヴヴウゥ……」


 ヤセギスな人の姿を形づくり、ナラの葉を添えていているこの木は――


「ノ、ノームッ? なんで……」


 ん、この声はなんだ。頭上からヘンな鳴き声が聞こえてくるが、例の怪鳥じゃない。見上げるとそこには、奇声を発しながら降ってくるゴブリンがいた。


「チェストォォォォオオーッ!」


 だがオレは、さらに数を増やしたノームに絡みつかれてなすすべもない。オレの頭上で振り上げられた、スラリとした生足をただ眺めるばかりだった。

 なんだかデジャブを感じる光景だな。ゴブリンの左右に結った緑髪が、天に向かってなびいて――


「あ」


 コイツ、ツインテールゴブリンだ。しぶといヤツだな、生きていたのか。

 そんなツインテールゴブリンは、やはり当然の帰結として脚を振り下ろした。落下の勢いも加わった「かかと」が、オレの脳天にめり込む。


「ミッシイイィィイ……ッ」


 天から降ってきた星々が炸裂し、もうもうと白煙が立ちこめる。オレの視界とともに、オレの意識はまっ白になった。

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