(50)故郷について オシアンいわく
それは、うっそうとした大森林を背景にする小さな町だった。それは田畑が目立つ退屈な田舎の町で、それはぼくとニアヴがかつて住んでいた町で、それは喜びも憂いも経年の忘却にかすむ、今はなき追憶の町だった。
ある日のことだった。町に奇妙な木が生えていることに、誰かが気づいた。
その木は人間のような形で、脚も、尻も、腹も、腕も、ムッチリと肥えて太っちょな姿だった。胸から腹にかけ、のたくるような節くれがひしゃげた顔を形づくっていたが、代わりに首にあるべきものがなく、木の様相を取り戻して枝葉を茂らせていた。
その木は、日に日に数を増しているようだった。往来の隅や路地の陰に、ひっそりと根を張っていた。大小様々で、ヒザの高さほどの低木から、大人の背丈を超える物まで。いつしか、キズを付けると血を流したとか、朝ぼらけに森から歩いてきたとか、ブキミなウワサもささやかれるようになっていた。
またある日のことだった。動き出した木々に、町は蹂躙された。
木々はヨチヨチ歩きで手足をばたつかせ、根を、幹を、枝々を、数限りなく伸ばした。町中をのたうって家々を突き破り、デク人形の肉瘤が街を破壊した。
首なしデク人形の発現と時を同じくし、ゴブリンの群賊が来襲。混乱のなかで略奪や狼藉が横行し、男は殺されて女はさらわれた。
街を見舞った惨禍はとつじょとしたものだったが、それでも逃れた者たちはいた。ぼくもそのひとりだったが、ぼくの想い人はその限りではなかった。
なすすべもなく、ただ悲嘆に暮れていたぼくの元へ、ひとりの少女が来訪した。ぼくの望む死地への水先人を担うため、その少女はやってきたのだった。
少女の長い黒髪は乱れ、その白肌にまとわりついていた。一枚きりの薄絹の肌着が、きゃしゃな手足を無防備にさらしながら、子を宿して大きくなったお腹を包んでいた。
黒髪の少女――ティタニアは、ぼくや町の人たちの知っている者ではなかった。ほかの女たちとともにとらわれていたのを、彼女ひとりで逃げてきたそうだ。
ティタニアが話した内容は、あまりにも不穏だった。女たちがとらわれていたのは、賊の頭目であるアトロゥの子供を産まされるためだというのだ。
「子供を……?」
言葉を濁して尋ねたぼくに、ティタニアはキッパリと気丈に答えた。
「アトロゥの血肉を継いだ子は、木の呪いをこうむるのです。産まれた子の首を落とし、あの者の枝を接ぐことで、アトロゥの意のままに操られる『クグツ』と化すのです」
町を襲ったデク人形たちは、死してクグツと化したアトロゥの子供たちだった。




