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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
幕間 亜人外典
49/54

(49)交信について

 ユグドラシルに野生で生息する緑毛の獣の中には、死によって植物化するものが稀にいる。緑毛の獣たちの発祥もユグレナと同様なわけだが、里のユグレナたちに死亡時の植物化は見られない。

 ユグレナにしろ緑毛の獣にしろ、植物としての性質継承は、同種においても差異が存在する。死による植物化も一律の性質ではなく、これには交配にまつわる環境が影響している。

 前述の通り、里の家畜の中には緑毛を持った個体が稀に産まれることがある。これは血縁の遠い交配では潜性となる遺伝子が、近親内の交配によって顕性となるためだ。そしてまた、これはアトロゥ誕生の由来にも相当する。

 アトロゥは奴隷身分を出自としている。その家畜のような生活環境下では、近親交配が繰り返されていた。その果てに産まれた哀れな忌み子がアトロゥであり、異能の発現は潜在化していたユグレナ本来の特性が、特定の交配によって顕在化したものなのだ。

 アトロゥの血肉を継いだ子も、人としての死によって植物と化すが「クグツ」化で死を猶予される。クグツは人間組織器官と植物組織器官をあわせ持ち、その体液は血であるとともに樹脂でもある。だが切りだされれば植物化が進み、肉片は木片として死細胞による「多孔質」を生じる。

 多孔質とは「無数の微細な穴を持つ性質」である。クグツの血は、そのクグツ自身の木質にも親和性が高く、容易に多孔質構造へ浸透して膨潤させる。血は樹脂性により凝固し、木質と樹脂が相互に補強して鋼鉄に比肩しうる高強度を発揮するのだ。

 だがあの玩具のような短剣の切れ味は、それだけで説明できるものではなかった。その行方も今や知れないが、悲しい赤子の呪いを具現化したような超常の異物だった。

 アトロゥのクグツは、土中のユグドラシア菌根菌糸を介し「シグナル伝達」によって制御されている。

 シグナル伝達とは「生体内において、ホルモンなどの化学物質を媒介することで情報を伝達する仕組み」のことである。脳を失った亡骸には理性や知恵といったものはなく、シグナルの糸を操る人形遣いとしてアトロゥが存在するわけだ。

 とはいえ、その交信のすべてはユグドラシア菌根圏領域内で行われるのである。クグツを操っていた当時のアトロゥも、またユグドラシルの一部であった。その交信には「ユグドラシルの意識」が介在すると考えてしかるべきである。

 ユグドラシルの意識とは、ユグドラシア菌根植物群の生態情報が集積して生じた疑似意識である。

 ユグドラシア菌根植物群は、ユグドラシルに存在する万物と共生する。その生態はユグドラシル全体の影響によって形成され、その生態情報の集積はユグドラシル全体の情報である。そこで生じる意識は、ユグドラシルそのものの意識なのだ。

 ユグドラシア菌根植物群は菌糸によってつながり、生態情報を共有することで効率的で持続的な植生形成を行っている。つまり各植物のホメオスターシス情報が交信されるネットワークを形成し、一体物としてホメオスターシスを行うユグドラシア菌根圏領域を形成しているのだ。

 多様な生態情報によって複合的に下される命令群は、時に相同し、時に相反し、複雑に入り乱れている。それは自我を持つ意識に相似し、ユグドラシルは時に切望し、時に苦悩し、そして夢を見るのだ。

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