(46)孤立について ブバホッドいわく
ワッピティと別れたぼくは、当初の作戦通りに目標の場所へと向かった。標的のアトロゥがいようがいまいが、ティット・トットの鳴くところにはストレンジャーありだ。
「ビイイイィィィイィィィィィィィプッ……ビイイィィィ……」
そんなさえずりに向かっていくと、やはりいた。発見できたストレンジャーはふたりだけ。まだほかにもいるかもしれないし、とにかくここは様子をうかがおう。
ストレンジャーのひとりはワシ顔の男。なんだか間の抜けた服を着ているけど、アレは鎧下かな。かわいらしいワシ柄が刺しゅうされたキルティング服だ。鎧はどこへやったのだろう。片腕に添え木と三角きんを当てているが、鎧を砕くほどの大ケガをしたのだろうか。
もうひとりのストレンジャーも男だ。木の葉が虫に食われたようなバンダナ柄の服を着て、頭に巻いたバンダナから茶髪を垂らしている。
ふたりは周囲を警戒している様子だったが、バンダナ男の方がおもむろに歩きだした。無言で遠ざかるバンダナ男に、ワシ男が慌てた様子で呼びかけた。こういう時のために、ぼくはオシアンからストレンジャー語を習っている。
「お、おいッ、ペイリー! どこへ行くんだッ? わしは怪我人なんだぞッ! あまり離れるなッ、おい!」
「あー……ションベンだよ……」
バンダナ男はウンザリとした様子で返し、ワシ男から遠ざかっていく。
「なッ、なるべく早く済ませろよ! わしは安静が必要なんだからなッ、長々と怪我人を放っておくんじゃないぞ! き、聞いてるのか! おいッ、早く戻れよ!」
必死にまくし立てるワシ男の言葉に、バンダナ男は適当な調子で返した。
「へいへーい……」
どうやらワシ男はとどまるようだし、ひとまずバンダナ男の尾行をするか。バンダナ男は木々の間をしばらく進んで草むらに分け入った。
「がさがさ……ガサガサ……」
本人なりの美学があるのだろう。草むらを抜けると辺りを見回し、木陰に咲いた野花の前で立ち止まった。背負っていた荷物を下ろし、バンダナ男は伸びをした。
「ん……んぁーあ!……っと」
そしてズボンを下ろしながら、ひとり言でグチをこぼし始める。
「……ったく、なんでオレがタッカーのお守りなんぞしなきゃならねぇんだよ……手負いとふたりぽっちで、これじゃまるでオトリじゃねぇか。クソッ……アトロゥの野郎、人をイイように使いやがって……」
そう言いながら、バンダナ男は水やりを始めた。
「じょぼジョボじょ……」
なるほど、丁寧に説明してくれてありがたい。ここにいるのはふたりだけで、その彼らはオトリ役で――ならばアトロゥは、ここにはいないか。
ティット・トットのさえずりの意味に、ストレンジャーたちが気づいているのかは分からない。だがこの広大無辺の大森林で、ぼくたちユグレナがストレンジャーを探し当てていることには、どうやら気づいているらしい。ずる賢くも、アトロゥは戦力の分散を図った――というところか。ならば、もうここには用はないわけで――
「……よし、さっさと片づけてしまおう」
いまだグチりながら用を足すバンダナ男。ぼくは持参の槍を構え、バンダナ男の背中へ向かって駆けだす。ティット・トットのさえずりに足音を紛れさせつつ、ホップ、ステップ、ジャンプッ。
「タン……トン……ダン!」
跳ねる勢いのままに突きだした槍が、バンダナ男をつらぬく。
「ズブゥンッ!」
身体の中心から少し左のところ――心臓の辺りへ、確かな手ごたえ。
現状を理解できないのだろう。バンダナ男は背中を反らし、胸元から現れた槍の穂先を見てつぶやいた。
「うぉッ? なんだコレ……あ……ああ!……あぁッ、ちくしょぅ……!」
現状を把握したようだが、もはや意味はない。バンダナ男の背中を足裏で押し、ぼくは槍を引き抜いた。
「……ゥブズッ」
バンダナ男は下半身をまる出しで、水をやっていた野花に顔から突っぷした。シャクトリムシのような体勢のままで横倒しになり、苦しげな呼吸音を鳴らしている。
「……ゼェ、ゼェ……ゼェ、ェ……」
トドメが必要か――と槍を構え直したとき、バンダナ男の息づかいが聞こえなくなった。さて――
「さぁ、次だ……」
荒れ狂った巻き毛に手ぐしをかけながら、ぼくは元の場所へと向かった。そして間遠にワシ男の様子をうかがう。
ワシ男は先ほどと同様に、立ち木を背にしながら座っていた。そして先ほどよりも、さらに冷や汗を増やしてワシ顔をしかめていた。
「ビイイイィイイィィィイィィィィプ!……ビイィイイィィ……」
ティット・トットがさえずるたびに、ワシ男の顔は右へ向き、左へ向き、はたかれるように首が振られた。
ワシ男も警戒はしているようだが、位置は不動のままだな。ちょうどいい、練習台になってもらおう。せっかく槍と一緒に持ってきたんだから、出番ナシのままじゃもったいない。
槍とともに持参したのは、槍用の「投てき器」――といっても投てきを補助するための、ほとんどただの棒だけど。
「えーっと……」
投てき器の後端の「L」字部分が、「コ」の字になるように槍のおシリをフックさせて――
「……っと。準備よし」
ぼくはワシ男の正面遠くに立った。見通しの悪い密林の中、ワシ男は相変わらずキョロキョロとしてぼくには気づいていないようだ。
槍をセットした投てき器を、肩に担ぐように構える。足の踏みこみ、腰のひねり、腕の振り、手首のスナップ――身体全体の動作を連動させ、肉体の力を遠心力に変換。投てき器をテコにし、槍を押しだすイメージで――
「……ぬぅ!」
槍が発射され、うなりを上げて飛んでいく。フォームは完璧。さぁ、どうだ。
「ビュウウゥゥゥン……ッ!」
宙に放たれた一条の「直線」は、ワシ男の胸へと直進する。またたく間に収束し、それはひとつの「点」になった。
「……カッ」
よし、みごと命中。ワシ男を串刺しにした槍は、長柄を震わせて立ち木に突き立った。ワシ男の驚がくの叫びが聞こえてくる。
「……ぁ……あッ……うあぁあぁぁ……ペイリーッ……た、助けてくれッ……ペイリー……ぁぁ……」
ひとしきり無意味にもがいてから、ワシ男はガクリと事切れた。肉弾戦も交える覚悟だったが、ずいぶんと上手くいったな。さて――
「これからどうするかな……」
アトロゥがいるのは、ティット・トットの反応があったもうひとつの方と考えるべきだろう。ここでとどまっていても意味はない。しかしワッピティはどうなったかな。パックたちには落ちあえたのだろうか。ぼくはここでワッピティを待っているべきなのか。
「……うーん」
ぼくは樹下のシカバネに歩み寄った。シカバネに足をかけ、槍を引き抜きながら決心を口にする。
「悩んでいても、しょうがないか……うん!」
やっぱりあちらのさえずりの方へ向かおう。ここのティット・トットはもう静まったし、みんなも向かっていることを祈ろう。




