表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第5場 ストレンジャーズ
37/56

(37)魔獣について バスタいわく

 シルバーン、マハ、カイナ、ブライム、そしてオレ。オレたち五人は、アトロゥから離れて木々の間に歩を進めていた。アトロゥに周囲の哨戒を要請されたが、この魔性の森で警戒すべきは、当然にゴブリンだけではない。

 オレたちの目前へ、緑色の体毛を持つ大アゴの魔獣――フェンリルが現れた。オオカミは通常、群れで狩りを行う。オオカミの眷属であるフェンリルたちも、やはり習性に従って七匹がオレたちを取り囲んだ。


「グルルゥゥ……ゥゥウウゥッ!」


 大きな立ち木を背にし、オレたちは扇型に展開しておのおのの武器を構えた。先鞭をつけたのはシルバーンで、さっそく愛用の弓を引き絞った。


「ギリリィ……ッ」


 シルバーンの右手には、つがえた第一矢と替えの第二矢。その矢柄にかかる指のフックが、弾かれるように直線に伸ばされ、第一矢が放たれた。


「ヒュゥゥゥン!」


 その射線には、しっかりとフェンリルが捉えられている。だが魔獣は身をかがめ、その体毛をかすめるばかりで矢は外れた。しかしシルバーンほどの手練れにとって、それは計算済みのことだった。第二矢は間断なく、すでに放たれていた。


「……ブズリッ!」


 魔獣の右目、その深くまで突き刺さり、フェンリルの一匹目が仕留められた。

 それで終わるわけもなく、フェンリルたちの猛攻が始まる。二匹目のフェンリルが上下の鋭いキバをむき出しにし、マハへと飛びかかっていく。そんなフェンリルの口内へ、人面鉄槌が叩きこまれた。


「ガチィンッ!」


 鉄球はそのまま大アゴへねじ込まれ、フェンリルは地面に押さえつけられた。あがくフェンリルの頭部には、カイナが鋼で武装したゲンコツをお見舞いする。


「ドドドドスッ、ドスンッ!」


 だがそれと同時に、攻撃中の無防備なカイナを狙い、三匹目のフェンリルが飛びかかっていく。

 オレは大剣を握る両手に力を込めた。刃を水平に倒し、重心を前へ移動させながら構えを作る。このまま見ているだけじゃ、名がすたるぜ。カイナの露払いはオレが――


「せりゃあーッ!」


 気合いとともに放つ、なぎ払いの一撃。だがオレが放った斬撃は、頑強なキバに咬みつかれ、威力を殺される。


「ガキシ!」


 フェンリルはうなり声を発しながら首を振り、オレから大剣を奪い取ろうとする。


「ウウウウゥッ……ウウゥッ、ウウッ!」


 すんなりと恰好をつけさせてもらえるほど、ヤワな相手じゃないか。

 一方、マハは腰に携える細剣を抜き放った。その切っ先が目指すのは、雨あられの連打で頭の形を変形させたフェンリル。半死半生のままでピクピクと引きつらせる身体を、きゃしゃな刃がつらぬく。


「ブヅンッ」


 流れ作業のような精密さとすばやさで、二匹目の心臓がひと突きにされた。

 そしてオレの大剣をくわえ続ける三匹目には、ブライムが加勢に入る。その背中に負われる大太刀が抜き放たれ、次の瞬間には閃光が踊った。


「ササササァンッ!」


 ほんのひと息の内に、魔獣の身体へ無数の刀キズが出来上がる。絶命にはいたらなかったようだが、フェンリルはひるんでアゴをゆるめた。

 つまり大剣は解き放たれ、ふたたびオレの見せ場ってことだ。うなれ、オレの大剣よッ。


「ザンブッ!」


 必殺の縦一文字が三匹目の命を両断にした。オレとしたことが、少し手こずったか。さぁ――


「次はどいつだ……かかってこい!」


 熱くなるオレとは対照的に、シルバーンは冷静だった。

 シルバーンはふたたび矢をつがえると、構えたままの姿勢で不動になった。フェンリルを十分に引きつけ、大アゴを開けたと同時に矢が放たれる。キバのすき間を縫い、魔獣の口内に入った矢が脳天まで貫通。


「ブジゥッ!」


 宙で即死した四匹目は、勢いあまってシルバーンに覆いかぶさる。のしかかるフェンリルを、シルバーンは蹴り飛ばした。


「ドゲィッ」


 これで大地に転がるシカバネは合計で四つ。シカバネは単なるズダ袋と化し、それ以上になんの変哲も見せない。過半数を失ったフェンリルたちは、すごすごと退却していった。

 走り去るフェンリルを眺めつつ、あぐらの体勢になってシルバーンがぼやいた。


「サーカス見物も、いい加減ウンザリするぜ。カネは先に貰っとくんだったな……あの、ずきん野郎め……」


 魔性の森の奥で、気になるのはアトロゥとの報酬契約か。ハッキリ言って皮肉屋のシルバーンとは反りが合わないが、この泰然自若とした神経は称賛に値するだろう。

 戦闘を終えたオレたち五人は、森の小道へ歩みを再開した。カイナ、シルバーン、ブライムの後ろを歩きながら、オレはフェンリルに思いをめぐらせていた。

 野獣が死して木になるなど、あるはずがない。だがこの狂想の森に生息する魔獣ならば、あるいは可能性もあるのでは――などとも思ったが、先ほどのフェンリルは何事もなくシカバネのままだった。やはりオレの思い違いなのだろうか。それとも――ふと前を見ると、三人からずいぶんと離れている。


「フ……ッ、考えすぎだな」


 そもそもそんなこと、どうだっていいじゃないか。皆に追いつかねば。そういえばマハはどこだ。オレのすぐ後ろを歩いていたはずだが――


「……マハ?」


 振り返るとマハがいない。いや、いた。ずいぶん離れたところ、木々と草やぶのすき間に、マハのまっ黒いトンガリ帽子がポツンとのぞいている。まったくマハには手を焼かされる。もう少し協調性というものを――って、今の状況で――


「オレが言えた義理じゃないか……フッ」


 などと自嘲しつつ、声をかけようとしたそのときだった。オレの目に映ったのは、トンガリ帽子の間近でひらめく、不吉な「ニビ色」だった。それはくすんだ金属光沢であり、マハを襲う「凶刃」が発っするまがまがしいオーラだった。

 考えるよりも先に身体が動き、オレは駆けだし――待て、冷静になるんだ。精神と肉体にブレーキをかけ、振り返って皆に大声で呼びかけた。


「みんなぁーッ! マハが――」


 だがオレの呼び声は、例の怪鳥のけたたましい叫喚にかき消される。


「ビイイイイイイイィィイイィィィプッ!……ビイイィイイ……」


 いまいましいブサイク鳥め。逡巡している時間なんてない。大切な仲間を見捨てるわけにはいかないのだから。たとえオレひとりであろうと、立ち向かわなければならないんだ。


「オレが行くまで無事でいてくれ! マハッ!」


 覚悟の言葉を発しながら、マハの元へとオレは疾走した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ