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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
幕間 亜人外典
36/58

(36)意思について

 菌根菌は栄養交換の見返りとして、植物からブドウ糖などの栄養分を吸収している。パックの異能は肉体細胞の異常増殖であり、植物代謝の異常活性でもあり、またユグドラシルにとっては、それが良性にしろ、悪性にしろ、局部の腫瘍化なのである。その定義によらず、異能の発現には多量のブドウ糖が必要になるのだ。

 「光合成」とは「光エネルギーを用いて二酸化炭素からブドウ糖を合成する反応」である。ユグレナは、その半植物細胞に葉緑素を保有しているために光合成が可能で、パックにおいては異能発現時の養分補助としても利用されている。そしてその機能は人間としての生理機能に複合し、生態にまで干渉している。

 異能の発現したユグレナは、陽光の得られない夜中に低血糖症状への自己防衛本能が働く。人間としての生理機能の大部分を失活させ、ただの木になってしまったかのような深い眠りにつくのだ。

 程度の差こそあれ、光合成反応そのものはパックに限るものではない。ユグレナの一般的な性質であり、それが顕在化しているのが葉緑素によって色づいた緑色の体毛と、そしてあの高い身体能力だ。

 ユグレナの肉体は、光合成で得られるブドウ糖、および酸素が運動時に利用されている。高代謝で筋肉疲労を起こしにくい肉体が、森の厳しい環境で鍛えられて強化されているのだ。

 とはいえパックは、そのエネルギーの大半が異能へと用いられているようで、他のユグレナに比べれば身体能力は劣っている。それでも並の人間は上回っているのだから、やはりユグレナという存在は尋常ではない。

 だがどれほどに強じんな肉体をもってしても、あらがえないものはある。ユグレナの意思は、ユグドラシア菌根菌を介してユグドラシルに誘導され、制御されているのだ。

 ユグレナの細胞内には、先天的にユグドラシア菌根菌が共生している。彼らの裸足が大地に接着するとき、菌糸が土中へ伸ばされて他の菌根菌と連絡しつつ、窒素やリンなどの栄養分を吸収する。活性化した植物細胞に作りだされる植物ホルモンが、神経伝達物質の役割を果たして中枢神経系の無意識にまで作用するのだ。

 ユグレナにおいて個人の「意思」は、個人を自覚する「意識」の一素子であり、最終的な意思決定における一因子にすぎない。ユグレナの主体性は希薄で、各個が追認的に架空の自我を創作しているのだ。

 里のユグレナたちは、パックの異能を「ユグドラシルの福音」と呼称しているが、これは偶然にしろ言いえて妙なのだ。異能発現のために大地への接着が必要な理由は前述のとおり、成長に必要な養分の補給である。だが異能発現にいたる思考過程は無論のこと、その発動と制御においてさえもユグドラシルの意識は介在し、接地の理由はそのためでもある。

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