表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第4場 ティット・トットのさえずり
35/56

(35)弱点について アトロゥいわく

 念のため、もう一発クソガキの顔面をぶん殴っておく。


「ゴスッ」


 よし、失神しているな。今のうちにストレンジャーどもに命令して、逆さづりになっているクソガキの天地を正し、もう一度宙づりにさせる。クソガキをつるす縄は二本。一本はピンと張って両腕もろとも胴回りをグルグル縛り。もう一本はわずかにたるませて首にくくっておく。

 余興の準備はこれでよし。お、クソガキが目を覚ましたか。


「……ぅ……ぁ……」


 まだ死んでもらっちゃ困るからな。せいぜいもがきやがれよ――


「ケケッ……ほらほらぁ……」


 愉快にクソガキをこづきながら、オレはストレンジャーどもに命令を発した。


「よしよし、テメェらはもういいぞ。まだほかにもゴブリンどもが、うろついているかもしれねぇからな。そこらの哨戒でもして、小一時間したら戻ってこい……さっさと行け」


 子分にしてやったストレンジャーは十人近くいたはずだが、とりあえずここにいるストレンジャーは五人だった。しかしどいつもコイツもクソナマイキで――あー、めんどくせぇ。


「……ちッ」


 舌打ちしやがった赤毛の女は、たしか名前はマハだったか。

 このアマ、オレの話を聞いてんのか。こっちを見ねぇで、鉄槌の人面ばかりを眺めてやがる。細っこいなりして鉄塊を振り回してるんだから、それなりに力はあるみてぇだが。コイツは微妙に会話が成り立たなくて扱いにくい。


「ハァー……ったく、手間かけさせやがって。いったいどういう余興だ、こりゃあ?」


 ナマイキな口をききやがるこの野郎は、シルバーンだったか。

 ちぢれた銀髪をした長身の男で、えり元を白銀の獣毛で飾り立てる嫌味な野郎だ。オマケに顔面には不遜な冷笑が常に張りついていて、つまりはくたばりやがれッ――ってな具合に、とにかくいけ好かない野郎だ。しかし身体つきは引きしまった筋肉塊といった印象で、それもまたいけ好かねぇ。


「コイツが例のゴブリンか。ふーん……確かに、頭に枝が生えているな。面妖というか、奇怪というか……」


 余計なことを気にしてんじゃねぇよ。コイツの名前はブライムとか言ったか。

 脂肪まじりの逆三角といった身体つきの巨漢で、黒髪のモミアゲが黒いアゴヒゲとつながる様は、さながら黒いライオンか、あるいは顔面に黒い額縁をハメているバカったれかな。額縁に収められているのが、粗野な駄作で残念だなぁ、オイ。


「じとー……」


 無言でオレに熱い視線を送りやがって、カイナとかいう名前だったか。白金色の髪をして、マッチョな身体つきの女だ。いつまでジロジロと、オレの身体を見ていやがる。サカってんのか、このメスゴリラ。

 残りのひとりは、これといって特徴のない黒髪のモブ野郎だ。唯一目立つのは背中の大剣くらいだな。コイツの名前はバスタだったか。カイナとバスタのふたりは、クソガキの「異能」を見ていやがる。今は余計なことを言いだす前に、どこぞに追っ払っちまいたいが――しかし何をウダウダとしてやがるコイツら。

 バスタの野郎を見ると、クソガキを縛るために使った麻縄を手にして眺めている。


「……しげしげ……ふむ……」


 そういえば舌先三寸で適当にこじつけたことを、やけにコイツだけ真剣に聞いていたような。オレに向かって、バスタが感心したような口調で言い始めた。


「なるほどな。確かにあんたの言う通り、これは魔獣の異能を封じる拘束紐……魔封のグレイプニルに相違ないぜ。何しろ『アレ』を抑えこんでしまうんだからな。コイツの変身は――」

「とっとと、散れぃッ!」


 オレの怒号に五人の子分どもは、しぶしぶ、ヤレヤレ、ぶ然、ムッツリ、うわの空――五者五様の反応を示し、ようやく木々の向こうへと立ち去った。あー――


「……ったく、ウザってぇ……」


 ジャマな連中を見送ってから、改めてクソガキに向きあう。サルぐつわをかむ顔面の、その鼻先へグイっと顔を寄せてやると、クソガキは蹴りを入れようとしてきやがった。せっかくだから、カワイらしい悲鳴でつき合ってやる。


「ひゃあん!」


 ヒョイとかわし、すかさずオレはグレイプニルこと麻縄をむんずとつかんだ。

 今のオレの身体は、ずいぶんとパワフルだからなぁ。片腕一本でも、こんなことができちまう。クソガキの首にくくられた縄を、一本釣りの釣果を誇るような具合にグイっと持ち上げ――


「……おーっととッ」


 ピチピチと暴れやがって活きがいいぜ。麻縄がクソガキの首に喰いこみ、腫れ上がった顔面がうっ血でさらに赤くなる。


「かはッ……ぁ……」


 うめくクソガキを眺めつつ、オレはふたたび短剣を取りだした。クソガキの胴体をつるす方の麻縄へ、ゆっくり、そっと、慎重に短剣をあてがう。


「……ぶちッ……ちッ……ぶちちッ……」


 その繊維のよりをほどくように、麻縄はゆっくり、そっと、慎重に切れ始めた。


「……ぐぇ……ぇ……」


 さらにうめくクソガキへ、親子で語らうヒミツのナイショ話だ。オレは顔を寄せ、そっと耳にささやいてやった。


「……その身体の弱点はよく知ってるぜ。大地に根を下ろして養分を吸わなきゃ、枝葉は伸ばせねぇだろう? よくよく用心しなきゃあ、寝首をかかれるぜ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ