(33)挑発について アトロゥいわく
このガキ、いいツラ構えしてやがるじゃねぇか。左のコメカミからツノみたいに生やした「木の枝」が、特にヘドをもよおすようだぜ。まさしくオレの血肉を継いだ、オレ様のガキだ。
「……オシアンが言ってたぜ。アトロゥはさらった女をはらませちゃ、産まれた子供の首を落としていたってな……」
いや、しかし片ツノはみすぼらしいな。半端モンであることを、テメェで宣伝しているようでみっともねぇ。それにだな、父上様に向かっての口の利き方ってもんがなっちゃいねぇんだよ。
「……そんなどうかしてるヤツ、この世にいるもんなのかなと思ってたけど……」
さっきからクソガキが何かのたまっているが、そんなもん聞き流す。オレは姿勢をぐっとかがめ、足の裏へ意識を集中して「兆候」に備えた。兆候はわずかで、ほんのかすかな震動。
「……ド……」
きた。全身の力を両脚に込め、オレは大地を蹴った。それと同時にオレの足元で大地が爆発する。
「……ッヴアアアァァァアアンッ!」
天は地に、地は暗雲に、その様は天地をたがえた落雷のごとく――なんつってなぁッ。崩壊した大地から、いかずちのような勢いで無数の木々が噴出する。
「……ゥウヴヴズウウウゥゥゥゥウヴヴズウウウウゥゥゥゥッ!」
木はナラの葉を生やし、人の姿をマネしていた。歪曲した顔面と異常な痩身は地獄の亡者のようだが、細っこい腕は左右の本数が不ぞろいで、潰しかけの虫みてぇにも見えるな。
大地を蹴ったオレの身体は、飛び上がって宙にあった。そんなオレに向かい、デク人形どもが手を伸ばしながら迫る。
「……ゥゥウウヴヴズウゥゥゥゥウウウウヴヴズ!」
亡者の見た目よろしく、天から垂れるクモの糸へ群がるようだぜ。数だけはいっちょまえに、三十匹以上――いや四、五十は生えてきているか。しかし貧相、貧弱、貧乏ったらしく、情けないったらありゃしねぇ。クソガキの意志薄弱な性根がまる出しじゃねぇか。
とはいえそんな棒っキレどもでも、この大群で来られちゃ油断するわけにはいかねぇ。オレは周囲の木々を蹴って飛び跳ね、高木の高みへと逃れた。枝の上に足を止め、クソガキを見下ろしてエールを送ってやる。
「あっかんべぇ!」
ヘッヘェッ、苦虫を潰していやがるぜ。おお――
「……っと、ヤベッ」
棒っキレどもはさらに勢いを増し、オレがとまる高木を地面から根こそぎにしはじめた。
「メギメギッ……ズズゥゥ……ブヂヂンッ……」
それと同時に棒っキレの手を伸ばし、オレ様にも迫ってくる。オレはクソガキへ背中を見せ、傾いていく足場から飛びのいた。
跳ぶと同時に腰の背へ手を伸ばし、帯びていた「短剣」をしっかと握る。これぞ伝家の宝刀ってね。
「ゥゥゥゥゥウウウウウヴヴヴッ!」
棒っキレどもは、もはや間近に。まさに今しがみつかれる――というそのとき、オレは短剣を抜き放った。宙に飛んだまま、身体をねじった反動で振り抜く。
「……んぁッ!」
快い乾いた音が響く。
「カカカァンッ!」
デタラメに振るった一刀だが、わけもなく棒っキレどもを切り払った。腕、手首、頭――そんな形の木ギレが、葉っぱとともに宙を舞う。鋭くなめらかな切り口が、反射光にテカりながら落ちていった。
オレは両腕を落としたデク人形の頭を踏み台に、さらなる跳躍で脱出。手の届いた木の枝をつかみ、自分の身体を振り子にして手を放す。
「ぶらぁーん……パッ」
さらに向こうの、新たな木の枝へ前方宙返りで着地。いよ――
「……っとぉ!」
この身体、なかなかに使えるぜ。めっけもんってヤツだ。
さて、いい具合に距離が取れたな。チンタラもしたくねぇが、仕込みは肝心だ。クソガキに向き直り、声の限りにわめいてやった。
「まったく! お母ちゃん譲りの、とんだ悪タレに育ったもんだッ! あの夜のお母ちゃんを思いだしてさぁッ、股ぐらの長男がほてっちまうぜ、ヘッヘァッ! それとも反抗期かなッ? 粗末でちんまい末っ子のぼくちゃんッ、ギャッハハハハハハハハッ!」
これだけおちょくってやりゃあ十分か。ふたたびクソガキへ背中を見せつけ、オレは棒っキレどもが迫るこの枝から飛びのいた。
さらに木から木へ軽やかに飛び移っていくと、クソガキの負け惜しみが聞こえてきた。
「待ちやがれッ!」
よしよし、追いかけてきやがれ。そのご立派なおみ足を、とっとと大地から引き抜いてさぁ。横目に振り返ると、首尾よくクソガキは追いかけてきている。
よしよし、その調子だぜ。その無様でマヌケなでっぱらを弾ませ、このオレ様についてきやがれッ。




