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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第4場 ティット・トットのさえずり
31/56

(31)老木について ワッピティいわく

 深い木々の間を、大股で跳ねるように。ケモノ道を裸足で蹴り、あたしとブバホッドはさっそうと駆けていた。


「ねぇ! パックたち、どーすんの!」


 走りながら尋ねたあたしに、走りながら答えるブバホッド。


「とりあえずストレンジャーの様子を見て、待とう!」

「まったくもう! パックが主軸の狩りだろうに、アイツいなくてどーすんだっての!」

「まぁまぁ、落ち着いて! いずれ来るさ!」


 あたしのイライラは義憤というヤツなわけで、いさめられるのは心外もはなはだしく。お優しいことですねー、ブバホッドは。

 あたしたちふたりは対照的なのだ。あたしは動きやすいようにラフな格好をしているけど、ブバホッドなんてセットアップのぴっちりベスト。それからあたしの髪はストレートで、ブバホッドは嵐のような巻き毛。走ってる今なんて、そりゃあもう荒れ狂ってる。

 そんなふうにまるでチグハグなあたしたちだけど、とつじょ足並みをそろえて急停止させられた。


「……キキィ!」


 あたしたちの視界に飛びこんできたのは、あまりにも無防備でキテレツな「ひとりの女」だった。

 それはストレンジャーの顔立ちをした若い娘だった。ストレンジャーにしてはまぁまぁな器量だけど、病的な肌の色で灰白色をしている。そんなヤツが一糸もまとわない全裸で、微笑を浮かべながら木々の間にいるのだ。その足取りはおぼつかなく、まるで風にたゆたうようで。


「……ふわぁり……ふわりん……」


 それだけでもなんだか幽霊みたいだけど、そんなことで言葉を失ったりするほどあたしはヤワじゃない。あたしたちの目を釘付けにしたのは、その女の「髪」だった。一見するとその髪はユグレナのような緑毛で、プーカのように黄色がかった若草色をしている。けれどこもれびを照り返し、さらにまばゆい金緑の輝きを放っていた。


「……きららん……きらりらりん……」


 その毛量は、とんでもないことになっている。ひどいクセ毛なのか、大量の毛束があちらこちらではねまくり、金緑色の川がはん濫したみたいにそこらじゅうへ溢れていた。


「……うねうね……うーねうねうねぇ……」


 金緑色の毛先は「手のひらみたいな五股の葉っぱ」を形づくっている。あれは、どう見ても「イチジクの葉っぱ」だ。うーむ、なんともひどい枝毛――なんてしょーもないことを考えた次の瞬間だった。

 金緑髪の女のまなざしが虚空を捉えた。あっけにとられていたあたしたちに、のそりときびすを返して背中を向けた。それを「背中」というのならだけど――


「……ひッ……」


 あたしは目を丸くした。

 金緑色の髪は、女の背中でふた股に分かれていた。「大穴」がフチを逆立て、金緑髪をかき分けている。女の背部は、まるで体内から破裂したかのようで、頭から尻までをぶち破られ「薄壁のガランドウ」をさらしていた。ガランドウは内部の暗がりに木肌をかすませ、あれはどう見ても「木のウロ」だ。

 それは木だった。金緑髪の女の姿をした、朽ちかけの老木だった。目の当たりにしたブバホッドは、身体をこわばらせて口をあんぐりと開けている。


「……ぁ、ぁ……」


 なすすべも思い当たらないようで、金緑髪の女の遠ざかる姿を、ただぼう然と見送っていた。あたしもだけど。


「ヴヴウウゥゥ……ゥヴズウゥゥ……ゥウゥ……ゥ……ッ……――……」


 気づけば、呼吸を忘れていた。


「……ひぁ……ふううぅぅッ……」


 ようやくひとつ深呼吸をして、あたしは半分ひとり言でつぶやく。


「なに……アレ?」


 ブバホッドは冷や汗を拭いながら、消えた女の足跡にまだ目をやっている。そこにはさっきの女が植えていったかのように、ポツリポツリと幼木が生えていた。

 それを見ながらブバホッドも、半分ひとり言みたいにあたしの問いへ返事をした。


「……ウォーキー・ドゥーヒキーかなぁ……ずいぶん小さいし、形態も固定されてたけど……それにアレは、東の方にいたはずだけど……こっちまで移動してきたのか……」


 ブツブツと言いながら、ブバホッドが悩み始める。

 グルリとひと回り、あたしは辺りを見渡した。耳をすませば聞こえてくるのは、葉がこすれ合う木々の音。


「……さや……さやさや……ギャー……ピィー……」


 それから名も知れない鳥獣の、遠慮がちなざわめき。ティット・トットのさえずりは遠く――


「まぁ……ここらではティット・トットも騒いでないし……どーでもいっかぁ?」


 なーんか途切れてしまった意気を、あたしは無理やり取り戻す。


「……さて! とっとと行こ、ブバホッド!」

「うん……」


 ブバホッドは生返事をして、金緑髪の裸婦が消えた先を見つめ続けている。いったい何を思い返しているのやら。やーらしー――


「ん?」


 遠くで立ち木の陰から木の天使が顔を出し、すぐに引っこめた。


「……ひょこ……」


 だから、なんだってのッ。するとブバホッドが――


「ねぇ、ワッピティ。すまないけど――」

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