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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第4場 ティット・トットのさえずり
30/56

(30)会敵について パックいわく

 オシアンを背負いながら、オレはウォーキー・ドゥーヒキーめがけて進んでいった。だが時々刻々と姿を変えて動き回るそれをやがて見失い、出会うことはなかった。

 ワッピティとブバホッドは気になったけど、どうやらこちらが「アタリ」だったようで、オレの思考はこちらへと移った。

 ヤツが――ヤツがアトロゥなのだろうか。

 オレと、オレの背中にいるオシアンが見上げる先――切り立った崖の上にヤツはいた。断崖のふちに片足をかけ、悠々と笑みを浮かべてオレたちを見下ろしている。

 ヤツの首周りに巻かれた、あの赤い布キレはずきんか。たしかそんなのを被ってたって言ってたな。今は頭に被せられてなく、顔がむき出しになっている。

 ヤツの顔面は、老齢に深くシワを刻んでいた。だがその身体つきは、みずみずしく張りを見せつけて筋骨隆々だ。不均整な組みあわせの継ぎ目は、赤いずきんでブキミに隠されていた。

 遠目に様子をうかがっていると、背中のオシアンが口を開いた。


「パック、降ろせ」

「ん。よっこらせ……っと」


 オレの背中から降りると、オシアンは言葉を続けた。


「ヤツをウォーキー・ドゥーヒキーまで誘導してくれ。頼んだぞ」


 そう言うなりオシアンは、クルリときびすを返して歩きだし――って、おいおい。オレは慌てて呼びかけた。


「おい、どこ行くんだよ?」

「フン……忘れたか、パック。策があると言ったろう……」


 うっとうしそうに言って歩みをやめないオシアンに、オレはさらに慌てる。もう、なんだってんだよ。だいいち、アレがいる場所なんて――


「ウォーキー・ドゥーヒキーなんてどこにいるんだよッ。おい、オシアン!」

「なぁに、そこらにいるさ。この森の中に……」


 そこらって――そこらを見上げれば頭上には敵。そこらを見渡せばスタスタと遠ざかっていくオシアン。

 両てんびんにあせり、オレは取るべき行動を決めあぐねた。我ながら優柔不断にオロオロするオレを、オシアンは気にも留めずに歩いていく。

 草やぶへと分け入っていくオシアンへ、とにかく声だけはかけておく。なんだか負け惜しみのセリフみたいだけど――


「オレが始末しちまっても、知らねーぞ!」

「……フン、そうはいかんさ。キミは父君に似て、お情け持ちだからな……」


 オシアンも捨てゼリフのようなものを残し、うっそうとした森へ消えてしまった。まったく、つくづく本人いわくの独善家だな。一体全体に、ひとりで何をしようってんだ。しかしとりあえず今は、頭上の敵をどうするかだ。

 そう思って見上げると、崖の上で構えていたヤツの姿も消えている。


「悩んでいるヒマはくれないか……」


 オレは渾身の指笛を鳴らした。


「ピイイイィピュウウウウウウウウウウウウゥィッ!」


 連続して三発、それから三拍置き、また連続三発。「緊急事態、交信不可」を表す緊急用合図。

 ワッピティたちと交信している時間はない。グズグズしていたら、せっかく見つけたヤツに逃げらてしまう。指笛はきっとふたりへと伝わったはず――と願いながら、オレは自分へ喝を入れた。


「……ったく、なるようになれってか!」


 それなりに覚悟を決め、鼻息とともに発する。まずは絶壁の登はんのために、大地へ根を張らねば。

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