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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第4場 ティット・トットのさえずり
29/54

(29)尾行について プーカいわく

 ワッピティの魔手により、生死の境をさまよったわたし。しかし持ち前の強じんな精神力と怒れる正義の魂により、からくも一命を取りとめていた。


「ゆるさんぞぉーッ、あのツインテールめぇー!」


 おっとうとアーチンの監視の目をかいくぐり、わたしはパックたちの尾行を開始した。


「んー……?」


 ちょっと見失っちゃったけど――


「まぁ、いつものあそこかな!」


 いつも物見に使われている山に向かうと、やっぱりパックたちを発見。なんか杖を振り回し、おじいが暴れている。

 わたしは虫だ。ちょいと早い、季節外れのセミなのだ。気配を殺し、大木の幹に張りつく。ミーンミンミンと心に響かせ、みんなの様子を陰からうかがう。

 む。なんでか分からないけど、ワッピティとブバホッドが先に行っちゃったぞ。走り去るふたりの背中を、パックはオシアンとともに見送っている。もうちょい近づくか。

 おじいの声はデカいし、おじいに合わせてパックも大きな声で話しているから、まぁまぁ会話が聞こえてくる。


「……で、なんだよ」


 そう言ったのはパック。するとおじいは、おにいの両肩につかみかかって長話を始めた。


「……パック。わたしとキミたちユグレナとは、違う時の流れを生きているのだよ。キミには分らんだろうが、わたしはとっくに死んでいい歳なのさ。わたしが今日まで生きながらえているのは、みじめったらしい独善なんだよ。年端にも似合わない、ひどく感傷的な……だからこそ、これは運命なんだ……! このみすぼらしい老体を、役立てるときが来たのさ! ヤツへ! あの外道鬼畜へ! あの朽ちかけの老いぼれへッ! 絶望と後悔をくれてやるのさ! フンッ!」


 おじいのツバキを浴びながら、パックはガクガクと揺さぶられている。ばっちい。

 かわいそうなことになっているおにいが言葉を返す。


「……あ、あぁ。そんじゃ、とっとと――」

「……それから、プーカに伝えてやってくれ……プーカの母君はな……いつだっておまえを想い、見守っているのだと……」


 何を言っているんだ、おじいは。今さらそんなこと――そんなこと分かってるし。

 おじいはパックを解放した。おにいは頭をさすりながら、改めておじいを眺めている。つられてわたしもなんとなく眺める。

 おじいのシャツは大きすぎてだらしがなく、少しはだけてやせっぽちの胸板が見える。まくったそでから見える腕もかぼそく、そんな腕で杖にようやくすがっているような有り様。それから曲がった腰に、シワだらけの顔に、おハゲの頭に――おっとうが言ってたな。年を取ると感傷的になってしまう――とかなんとか。

 そんなおじいに、パックは平然とした調子で言い放った。


「……わかったから……とっとと行こうぜ。逃げられちまうんだろ」


 いつも一緒にいるわたしには分かった。ちょっぴりの「間」に込められた、おにいの優しい想いが。込み上げてくるわびしさを気づかれまいと、ぶっきらぼうをよそおうシカメッツラの思いやりが。

 む、そろそろ出発するのかな。おじいみたいなことを言いながら、おじいをおんぶするパック。


「……ドッコイショ……っと」


 するとしょんぼりしていたオシアンが、急に威勢を取り戻す。杖の先っぽを突きだしながら、偉そうに声を張り上げた。


「……さてッ。おそらくアトロゥがいるのは、東のウォーキー・ドゥーヒキーの方だ! さあ行け、パック! 駆けだせッ、それいけッ!」


 パックは慌てた様子になり、背中のオシアンへ口早に言葉を返した。


「……おいッ、ブバホッドたちが向かったのは、そっちじゃないだろ!」


 パックのツノ枝につかみかかるオシアン。もう一方の手に握った杖で、おにいの首をギリギリと締め上げる。よく分からないけど、またおじいが暴走しているのか。


「……グズグズしていると日が暮れて、キミはあのやかましい鳥ともども、寝ちまうだろうに! さぁさぁパック、それいけ! 野山を跳ねろ、脱兎のごとく! 山野を馳せろ、駿馬のごとく! それいけ、パック! やれいけ、パックッ!」


 オシアンの気迫に押され、シカメッツラにあぶら汗を伝わすパック。おにいは押しに弱いから、あーなっちゃ、もうおしまい。おじいの杖が指し示す方向へ、パックは言いなりに進んでいった。

 まったくもう、おじいなんて連れてくるからヘンなことになっちゃって。やっぱり冷静沈着に指揮をとる者が必要なのだ。このわたしのような才女が――というわけで追跡を続行するッ。

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