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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第4場 ティット・トットのさえずり
28/58

(28)索敵について ブバホッドいわく

 森の中、小高い山の頂。そびえ立つナラの大木は、岩塊のような根元からウネウネと幹を絡ませ、広葉樹がまるで針葉樹のようにユグドラシルの中空へとそびえていた。そしてその節くれは、ロバとイヌとネコとオンドリの鼓笛隊を形づくっている。

 その不格好なナラの大木は、パックが急ごしらえで作りだした、かりそめの物見やぐらだった。そんなやぐらの枝先に、ぼくとワッピティはいた。

 ピンと張った耳の後ろに、手のひらで覆いをかける。息をこらして耳をすませば、遠く彼方からティット・トットのさえずりが聞こえてくる。


「ビィィィ……ィ……ビィィ……ィィ……」


 ティット・トットは、この森のいたるところにいる野鳥だ。見慣れないストレンジャーを見つけると「ビィーッ」という警戒の鳴き声で騒ぎ立てる。その鳴き声は遠方まで届くごう音で、ぼくたちはストレンジャーの位置を推定するのに利用していた。

 ティット・トットにとって、ストレンジャーは大好物のごちそうだった。ぼくたちユグレナの外敵であるストレンジャーをティット・トットが見つける。それをぼくたちが狩ってティット・トットが食べる。ユグレナとティット・トットは、共生関係にあると言っていい。


「ビィィ……ィィ……ビィィィ……ィ……」


 そんなティット・トットのさえずりから判断すると、うーん――ぼくはワッピティの方を向いた。幹を挟んだ向こうの枝で、ツインテールが強風になびいている。


「ヒュゥォオオォォ……」


 集中を解いたワッピティが、こちらを向いてつぶやいた。


「……うーん、ふた組いるかな。どう思う?」


 ぼくと同じ判断のようだ。どうやらさえずりは二方向から聴こえてくる。


「ぼくも同感。かなり離れて二か所だね」


 返事をしながら、ぼくは眼下を眺めた。地表は起伏激しく、彼方まで密林が広がっている。

 遠くに見える巨大樹は、無数の枝々が絡みあってクジラを形づくっていた。クジラの背から吹き出される星くず混じりの潮水には八つの惑星が浮かぶ無数の分流を作る中心に持ち上げられるウシの背中でクルクルと回る回し車の中のイタチにまたがるトカゲの農夫を追いかけるスズメの船を天使がトンボの羽のカイでこぎながら――とにかく樹海を遊泳していて――


「まいったな……ウォーキー・ドゥーヒキーがいる」


 ツイていないタイミングだ。あのうごめく巨体は、移動をするにも、狩りをするにもジャマでしかない。それにしても相変わらず、めまいがするような姿だ。こんなところで立ちくらみなんて、ごめんこうむりたいし――


「そろそろ戻って、今後の方針を立てようか」


 ワッピティとともに、ぼくはさっさと下へ降りた。

 ここへ来たメンバーは、ぼくとワッピティとパックと、それから結局オシアンも同行していた。ぼくとワッピティが木の上で観測したあらましをふたりへ説明すると、オシアンが質問を返してきた。


「ウォーキー・ドゥーヒキーがいる方はどっちだ?」

「東側だね。どっちから狩る?」


 オシアンへ返答したワッピティの質問には、ぼくが答えた。


「ウォーキー・ドゥーヒキーは、厄介になるかもしれない。西側から片づけていこう」


 それが常とう手段だ。ウォーキー・ドゥーヒキーは動き回っているから、時間を置けばいなくなるかもしれないから。

 ひとまずの目的地が決まり、ぼくは持参した槍を拾い上げ、同じくワッピティも持参の斧を携えた。さぁ出発だ――と意気ごんだとき、オシアンが思わぬ言葉で呼びかけてきた。


「キミたちは先行しろ。ぼくはパックに話がある」


 返答に迷って横目でワッピティを見ると、その顔に冷笑が広がっていく。そんな表情をしながら、彼女はオシアンへ言葉を返した。


「おじいちゃん、疲れちゃったぁ?」


 まったくもう。ワッピティは頼りにはなるのだが、ちょっとイジワルなところがあるのが玉にキズだ。

 ワッピティの嫌味は気にしないフリで、ぼくは努めて明るく丁重に言った。


「お話が終わるまで、お待ちしますよ」

「いいから、先に行け! グズグズしていると、ヤツに逃げられるじゃないかッ!」


 口角泡を飛ばし、オシアンは怒鳴り散らした。果たしてぼくの言葉は届いたのだろうか。


「わたしたちはすぐに追いつく! そらそら、早く行け! ボヤボヤしてるんじゃないッ、急げと言っているだろうッ! そらそらッ!」


 まいったな、取りつく島もないとはこのことか。オシアンは杖をブンブンと振り回し、大暴れでぼくとワッピティを追い立てる。

 身体を反らして杖をよけながら、ワッピティがあきれたように言った。


「やっぱ、連れて来るんじゃなかったね!」


 たしかオシアンの同行は、ワッピティが承諾していたような――って、そんなことは今さらどうでもいいこと。

 もうどうしようもないので、ひとまず退散して様子見。とにかく先行し、ぼくとワッピティは待つことにした。やれやれ、先が思いやられる。

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