(26)出発について ワッピティいわく
ぶぅぶぅとうるさいプーカへと、あたしはつぶやく。
「……そもそもあんたは、なーんもしてないでしょ」
そろそろ嫌味のひとつくらい言ってやんないと。プーカのどーでもいい主張に、いつまで付きあってるんだっつーの。ダメだ、ため息が止められない――
「はぁー……」
ホッペタを膨らませながら、なんだかんだと言い続けるプーカ。そんな脳ミソまでチビなプーカを黙らせたのは、オシアンの言葉だった。
「……プーカ、おまえは行かない方がいい。代わりにわたしが行こう。任せておけ、策があるんだ」
あたしの気のせいかな、何やら役者違いなセリフが聞こえたような。誰もが二の句を遠慮し、しばし訪れる沈黙。
「……――……」
ふたたび口火を切ったのはプーカだった。
「冗談はいいから、おじい」
オシアンに向かい、いっちょまえに白い目を向けるプーカ。そんな視線を浴びながら、またオシアンはテーブルを殴りつけた。
「ガチャン!」
食器が跳ね、さっきよりも大きな音を鳴らす。やだなー、怒りっぽいじじいって。
「フンッ、策があると言っているだろう! キミたち、足を引っぱるなよ!」
声を荒らげるじじいを、オベロンが穏やかな口調でたしなめる。
「オシアン、無理をしなくていい。パックたちに任せてくれ」
そんな言葉で引き下がるわけもなく、鼻息を荒くして返すじじい。
「フンッ! ヤツの狙いは、そのパックかもしれないんだよ! パックの身体を奪い、あの異能を……その福音だかなんだかを取り戻すのさ!」
「しかし――」
オベロンの言葉を遮り、骨と皮ばかりの老体を震わせるオシアン。たしか「福音」ってオシアンが言い始めたんじゃなかったっけ。年くっちゃって、もうボケちゃってんだなぁ。まぁ、それはどうでもいいとして。なんか真面目くさっちゃって、必死な口調で嘆願を始めた。
「オベロン、わたしの命は……そして、かつての哀れな赤子の命は……キミに拾われて、今ここにあるんだ……! 長いこと預かっていたキミへの借り! 今こそ、返させてくれッ!」
なんかメンドクサイ話になってきたなー。しつこくグダグダとやってて、いつ出発すんの。あたしは手持ちぶさたでツメをいじりながら、ボンヤリとグチ代わりにこぼした。
「……まぁ、いぃんじゃないの……策があんでしょ?」
チラリととなりを見ると、いっちょまえな仁王立ちで不敵な顔のプーカ。その小さな胸をドンと突き、勇ましく言葉を発した。
「大丈夫! おじいは、わたしが守る!」
「あんたまで、いいの!」
そう言いながらあたしは、プーカを背中から捕まえて左腕でがっちりロック。抱えたままの左手で、プーカのホッペタを挟む。
「むぎゅ!」
残った右手でテーブルの上をまさぐり、手に触れたお菓子をワシづかみ。捕まえたありったけのクッキーを、こじ開けたプーカの口にねじり込む。
「うりうりぃ! いつまでも戯れ言を吐くのはこの口かぁ! 閉じられないのなら、手伝ってやる! ひーひっひーッ」
正義の鉄槌を下し、悪の芽を摘んでいるあたし――を尻目にブバホッドは、アトロゥと遭遇した大体の方角と距離をオベロンから聞いている。まぁ、適材適所で役割分担ってことで。
ふと目に入ったアーチンは、片手で頭を抱えながらパックへ何か言っている。
「あまり人手を割けんで、すまんな。知っての通り、里はのんき者ばかりでな……」
のんき者ってのは、プーカみたいなヤツのことで――さもなきゃ誰のことだ、アーチンめッ。
「いいってことよ」
パックは言葉を返しながら、いつものシカメッツラで腰を上げた。同時にブバホッドも出発の準備のために席を立つ。かたわらではプーカが、ウサギのような音を鳴らして白目をむいた。
「きゅうぅぅ……」
うっかりとあたしは、プーカなんかに乗せられてしまっていたのか――
「くッ!」
なんたる不覚。手早くプーカの息の根を止め、あたしも出発の準備を始めた。




