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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第3場 ユグレナのお茶会
24/54

(24)老爺について アーチンいわく

 このユグドラシルの奥深くには、オレたちユグレナが住まう隠れ里があった。里にある住居の多くはパックが作りだした大木を利用し、ちょっとばかり前衛的な外観を示している。

 三つ首のイヌ、三匹の子ブタ、ナベでゆでられるオオカミ、八つ首のドラゴン、嫁入りするキツネ、ネズミに追いかけられるネコ、雲に乗ったサル、郵便配達夫のヤギ、名探偵のイヌ、二羽のカラスがとまる八本脚のウマ、小枝の束を背負ったタヌキとしたり顔のウサギ――その他もろもろを木が形づくり、その姿を節くれがコッケイに誇張していた。

 なかでもロップイヤーのウサギがまたがるユニコーンの家は、ひときわに不格好で間が抜けていた。なにしろそれは、大巨匠の処女作だったもので。

 そんなロップイヤーとユニコーンの家で、オレはオベロンとともにパックたちを待っていた。

 里の様子を見ても分かる通り、パックへもたらされた「木に変身する異能の力」――「ユグドラシルの福音」は有用にして強大だ。ましてや、こうして森に暮らすオレたちの中には、畏敬の念すらいだく者も少なくはなかった。

 そんなパックをもたらした立役者オベロンは、その慧眼を買われて里長の役を任されている。そしてオレは、その補佐をやらされていた。さて、そろそろかな。

 ロップイヤーとユニコーンの家の扉が乱暴に開かれる。


「バン!」


 プーカが飛びこんでくる。続いてワッピティが見え、最後にパックが入ってきて丁寧に扉を閉めた。

 あいさつもそこそこに、プーカはテーブルの上の菓子をつまんでいる。エプロン姿のオベロンが、お茶をそそいでみんなに振る舞いながら言った。


「少し待ってくれ、ブバホッドを使いに出している」


 クロスを敷いたテーブルの上には、お茶のほか、ケーキ、パイ、マフィン、クッキー、サンドイッチ、トースト、タルト、ジャム、バター、クリーム等々、菓子やら軽食やら、オベロンの手料理がわんさとひしめいている。

 トーストにバターとジャムをべっとりと塗りつけているプーカを眺めていると、扉が

コツコツとたたかれてふたたび来訪者が来た。


「オベロン、アーチン、お待たせいたしました」


 そう言って入って来たのは、タレ目の柔和な顔立ちの青年――お待ちかねのブバホッドだ。上下ひとそろいのベストとハーフパンツを着て、えり元にはネッカチーフ。巻き毛を七三になでつけた青年は、その物腰にも、その装いにもインギンさをかもしている。ちょっと嫌味なほどに好青年って感じだな。

 そんなブバホッドに向け、オベロンが言葉を返した。


「うん。ありがとう、ふたりとも」


 ブバホッドに続き、待ちかねていた「もうひとり」が顔をのぞかせる。

 老齢のシワを刻むヒタイと、それに地続きのツルリとした頭頂。けれどその周りに残った白髪は豊かで、後ろで束ねられて背中で揺れている。ひっつめられた白髪のかかる丸い耳は、彼がユグレナでないことを説明していた。

 ブバホッドの陰から姿を現し、そのじいさんが気難しげに言った。


「フンッ、わたしに関係のあることなんだろうね!」


 じいさんの腰は深く折れ曲がり、杖でやっと支えているような有り様だった。やつれてちぢんだ老体を、ダボダボのシャツがきわ立たせている。長ズボンはすそがほころんで、かぼそい裸足が引きずっていた。

 オベロンはじいさんに向かって穏やかに返した。


「キミの話を聞こうと思ってね、オシアン」


 オベロンがオシアンを拾ってから、ずいぶんと時が過ぎた。ストレンジャーであれば、誰の美しい顔立ちだって老醜のヒダに隠されてしまうほどの、そんな年月だ。

 まさにストレンジャーのオシアンは、今ではどこからどう見ても老年のじいさんだ。オベロンに拾われたあのころの、憂いのしなをまとった金髪の美青年は、老醜のヒダの下へと消えてしまった。

 ストレンジャーはぜい弱な生き物なのだ。その寿命はユグレナに比べるとずっと短く、年下のオシアンじいさんよりも、今のオレやオベロンの方がずっと若々しい――と思う。とはいえ草色の髪は少し黄色がかって、オベロンとともに我ながら壮年の顔立ちではあるのだが。人生の紅葉期を迎えようか――ってな感じで、まったく光陰矢のごとしだな。


「相変わらず、むさくるしいところだな! フンッ」


 そんなことを口走っているオシアンは、ティタニアとは違いユグレナになじめたとは言えず、里から離れて独居している。パックがこしらえてやった住まいは、なおざりな手入れに陰気なあばら家と成り果てていた。

 そんなじいさんに近づく者は少なく、一部の変わり者がストレンジャー語を学びに来るばかりだった。まぁ、その変わり者にはオレも含まれているのだが。

 そんなオシアンは大して心配もされず、そのうちウォーキー・ドゥーヒキーに踏み潰されるだろうと、多くの者から思われていた。しかしなぜだが運はいいようで、今日にいたるまでじいさんは森の隠者を続けている。


「わたしの茶はどれだ? フンッ、これか……」

「おじいーッ、それ、わたしのマグーッ!」

「ん? ややこしいな、どっちでも同じだろうに! あぁ、これか……ふぅ。さぁ、とっとと始めてくれ。時間が惜しいじゃないか!」


 プーカと小競り合いをするオシアン。やれやれヘンクツなじいさまになっちまって。これだからストレンジャーってヤツは。

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