(22)奇談について プーカいわく
木の実をひとかじり。
「シャクンッ」
わたしの両手には、かじりかけの木の実がひとつずつ。
「……それでねぇ、その女の背中は、朽ちた木のように、ウロが開いていたんだってぇ」
誰だったかに聞いた森の奇談を、わたしはパックに教えてあげていた。話の合間に木の実をホオ張る。
「シャクシャク……もぐもぐ……」
パックも片手に持った木の実をかじり、シャキシャキと鳴らしながら答えた。
「なんだ、そりゃ。化け物だな」
「それからねぇ。人面シカがうろついてたって、ワッピティが聞いたって」
「アイツ、テキトーだからなぁ。まぁ、この森にはヘンなのがいるけど」
そう言いながら、パックは顔を上に向けた。頭上高くの枝には、ドクロ模様の怪鳥がとまっている。おどろおどろしく声を低め、わたしは言い伝えを語った。
「ののしり言葉を唱える人は、悪魔に首を刈られてティット・トットにされちゃうんだよぉ……」
幼稚なおにいの不品行に警鐘を鳴らしてあげていると、とうとつにわたしの頭がワシづかみにされた。
「ぐわっし!」
ドクロ模様の怪鳥が――ティット・トットが音もなく舞い降り、あろうことかわたしの頭頂に。
「痛ったぁ!」
こんなに兄思いな妹をあざ笑うのか、ヨゴレ白玉ふぜいがッ。両腕を振り回しても、ティット・トットはしつこくたかってくる。くううぅ――
「とりゃー!」
木の実をぶん投げると、ティット・トットはパシッとナイスキャッチして飛んでいった。
「カ、カエセェー!」
かわいそうなわたしを横目に、食べ終わった木の実の芯を放りながらパックが言った。
「知ってら、そんな迷信」
む。不信心なおにいにも、ウォーキー・ドゥーヒキー様のご加護がありますように。
さて、ティット・トットのことなんか忘れて――
「あとねぇ、不思議なケモノに乗る男を追いかけると、突然ウォーキー・ドゥーヒキー様が現れて行く手を塞ぐんだってぇ」
「それなら、さっき――」
言葉が途切れると同時に、パックの耳が跳ねる。
「……ピクリッ」
おにいは黙りこくって虚空を見上げ、今度は耳が左右に動く。
「クイクイ……ッ」
パックの耳が何かを捉えたようだった。おもむろに指で輪っかを作り、それを口に押しつける。おにいは指笛を、高らかに吹き鳴らした。
「ピイィピュウウウウウウウウウウウウウウゥィッ!」
長耳のユグレナはみんなすごい聴力を持っていて、遠い彼方の意思疎通を指笛で行っていた。まぁ、わたしのしおれ耳では大して聞こえないから、カヤの外なんだけど。
また何かを聞き取り、ふたたびパックは指笛を構える。
「ピイイィィピュウウウウウウウウウウウゥゥィッ!」
あー、ウルサイ。そんなふうに数回、パックの指笛は繰り返された。さて、そろそろかな。彼方で響く指笛の音色が、わたしの耳にもかすかに届く。
「……ピュゥゥゥゥゥィィ……」
そして次が最後の「ピュウ」になった。パックの返信の指笛が鳴り響く。
「ピィピュウウウウウウウウウウウウウウウゥィッ!」
それから間もなくのことだった。木々の間を縫って大地を跳ね、枝から枝へ軽々と渡り、ひとりの誰かさんがやってくる。
富士ビタイをまっぷたつにして結ったツインテールが、彼女の跳ねるにつられて緑の波を打っている。風を切ってやってきたユグレナは、その生足を枝の上で止めた。ぶかぶかパーカーのポケットに手を突っこみ、大きく深呼吸をひとつ。
「……ふぅーッ」
それでも肩で息をしながら、ツインテールの女はわたしたちに向かって声をかけてきた。
「……おーい、チビどもーッ」
むむ。確かにわたしとパックは特別小柄でカワイらしいけど。あのおクチの悪いアイツは――わたしは枝の上にとまるツインテールを眺めて言った。
「ワッピティだ」
特別スラリとしているわけでもない、中肉中背のツインテールの女が――ワッピティが、木の上から飛んで地面に降り立つ。おたがいに小走りで駆け寄り、わたしたち三人は合流した。
うーむ、いつにも増してでっかいネコ目だなぁ。その目でわたしたちを見下ろしながら、ワッピティは勢いこんで言った。
「里長が呼んでるよ! ボガートが殺られて、フェノゼリーが重症! あんたの出番だよ、パック!」
むむむッ。




