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群像について ユグドラシルいわく  作者: まいち
第2幕 第2場 赤いずきんの男
22/54

(22)奇談について プーカいわく

 木の実をひとかじり。


「シャクンッ」


 わたしの両手には、かじりかけの木の実がひとつずつ。


「……それでねぇ、その女の背中は、朽ちた木のように、ウロが開いていたんだってぇ」


 誰だったかに聞いた森の奇談を、わたしはパックに教えてあげていた。話の合間に木の実をホオ張る。


「シャクシャク……もぐもぐ……」


 パックも片手に持った木の実をかじり、シャキシャキと鳴らしながら答えた。


「なんだ、そりゃ。化け物だな」

「それからねぇ。人面シカがうろついてたって、ワッピティが聞いたって」

「アイツ、テキトーだからなぁ。まぁ、この森にはヘンなのがいるけど」


 そう言いながら、パックは顔を上に向けた。頭上高くの枝には、ドクロ模様の怪鳥がとまっている。おどろおどろしく声を低め、わたしは言い伝えを語った。


「ののしり言葉を唱える人は、悪魔に首を刈られてティット・トットにされちゃうんだよぉ……」


 幼稚なおにいの不品行に警鐘を鳴らしてあげていると、とうとつにわたしの頭がワシづかみにされた。


「ぐわっし!」


 ドクロ模様の怪鳥が――ティット・トットが音もなく舞い降り、あろうことかわたしの頭頂に。


「痛ったぁ!」


 こんなに兄思いな妹をあざ笑うのか、ヨゴレ白玉ふぜいがッ。両腕を振り回しても、ティット・トットはしつこくたかってくる。くううぅ――


「とりゃー!」


 木の実をぶん投げると、ティット・トットはパシッとナイスキャッチして飛んでいった。


「カ、カエセェー!」


 かわいそうなわたしを横目に、食べ終わった木の実の芯を放りながらパックが言った。


「知ってら、そんな迷信」


 む。不信心なおにいにも、ウォーキー・ドゥーヒキー様のご加護がありますように。

 さて、ティット・トットのことなんか忘れて――


「あとねぇ、不思議なケモノに乗る男を追いかけると、突然ウォーキー・ドゥーヒキー様が現れて行く手を塞ぐんだってぇ」

「それなら、さっき――」


 言葉が途切れると同時に、パックの耳が跳ねる。


「……ピクリッ」


 おにいは黙りこくって虚空を見上げ、今度は耳が左右に動く。


「クイクイ……ッ」


 パックの耳が何かを捉えたようだった。おもむろに指で輪っかを作り、それを口に押しつける。おにいは指笛を、高らかに吹き鳴らした。


「ピイィピュウウウウウウウウウウウウウウゥィッ!」


 長耳のユグレナはみんなすごい聴力を持っていて、遠い彼方の意思疎通を指笛で行っていた。まぁ、わたしのしおれ耳では大して聞こえないから、カヤの外なんだけど。

 また何かを聞き取り、ふたたびパックは指笛を構える。


「ピイイィィピュウウウウウウウウウウウゥゥィッ!」


 あー、ウルサイ。そんなふうに数回、パックの指笛は繰り返された。さて、そろそろかな。彼方で響く指笛の音色が、わたしの耳にもかすかに届く。


「……ピュゥゥゥゥゥィィ……」


 そして次が最後の「ピュウ」になった。パックの返信の指笛が鳴り響く。


「ピィピュウウウウウウウウウウウウウウウゥィッ!」


 それから間もなくのことだった。木々の間を縫って大地を跳ね、枝から枝へ軽々と渡り、ひとりの誰かさんがやってくる。

 富士ビタイをまっぷたつにして結ったツインテールが、彼女の跳ねるにつられて緑の波を打っている。風を切ってやってきたユグレナは、その生足を枝の上で止めた。ぶかぶかパーカーのポケットに手を突っこみ、大きく深呼吸をひとつ。


「……ふぅーッ」


 それでも肩で息をしながら、ツインテールの女はわたしたちに向かって声をかけてきた。


「……おーい、チビどもーッ」


 むむ。確かにわたしとパックは特別小柄でカワイらしいけど。あのおクチの悪いアイツは――わたしは枝の上にとまるツインテールを眺めて言った。


「ワッピティだ」


 特別スラリとしているわけでもない、中肉中背のツインテールの女が――ワッピティが、木の上から飛んで地面に降り立つ。おたがいに小走りで駆け寄り、わたしたち三人は合流した。

 うーむ、いつにも増してでっかいネコ目だなぁ。その目でわたしたちを見下ろしながら、ワッピティは勢いこんで言った。


「里長が呼んでるよ! ボガートが殺られて、フェノゼリーが重症! あんたの出番だよ、パック!」


 むむむッ。

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