(15)歳月について プーカいわく
かりそめの芸術は、崩壊によって完成を迎えるのかもしれない。巨大木像はバランスが最悪で、今日も今日とてはかなく消えていく。ケダモノが咆哮するような崩壊音をとどろかせて。
「ンヴエエエエエェェェェエ……ェエェェェ……ェェ……ェ……」
大木が枯れ、倒壊していく。片ツノのヒツジ顔に亀裂が走り、アゴが外れるように木のコブが割れる。亀裂は徐々に全身へと回っていき、無数の木片を雨と降らせた。
「ドンガラガラ、ガッシャンッ……ドンガラガラ……ガララ……」
そんな雨の中には、ひとつの人影が。傘も差さずに悠々とシャツへそでを通すのは、わたしのおにいのパックだ。
天気雨は通り過ぎ、枯れた丸太の山に腰をかけてひと息つくパック。そんな背中へコッソリと忍び寄り、わたしはパックの肩をつついた。
「つんつん……」
いつものシカメッツラが、のっそりとこちらへ向く。その目に映してあげるのは、とっても、とーっても愛らしいねぎらいの笑顔。
「にま!」
わたしたちがユグレナの隠れ里で暮らすようになってから、それなりに時が経った。もちろんその当時のことなんて覚えてないけれど、とにかくストレンジャーのオシアンなんてシワシワのおじいになってしまうほどの、そんな年月。かわいそうな短命のストレンジャーとは違い、ユグレナの血肉を継いでいるわたしとパックは、花も恥じらう青年のお年頃になっていた。
わたしは、わたしのスカートをバサっと蹴り上げた。そのまま片足で振り向き、身体を後ろへ投げだす。おにいの丸まった背中へ、どっかと無事に着席。
「ぎゅぎゅうぅ……」
お尻の座り位置を調整するためにのしかかりながら、わたしは言った。
「追っかけないのぉ? 放っといちゃってぇ」
そこそこ座り具合のよくなったイスが、いつものぶっきらぼうな調子で返してきた。
「あんだけ脅かしときゃ、十分だろ」
「いいのかなぁー。またアーチンに怒られるよぉ?」
「んー」
パックはあんまりストレンジャー狩りに積極的ではなく、なんやかんやとアーチンにどやされることがよくあった。まったく仕方がないおにいだ。やる気がないのなら――
「よし、わたしが行こう!……っかな」
パックの肩から立ち上がり、わたしは直角に折った両腕を前後に構えた。交互に振って勇ましく行進を始める。
「ぶんッ……ぶん!……」
ただし両足は共に大地へ貼りつけ、その場に不動のままで。今まさに旅立とうとする妹を、あろうことか適当にあしらうおにい。
「言ってらぁ」
「本当に行くもん。さて……っとぉ!」
「へいへい」
「うおーッ!」
湧き上がるトキの声が、わたし自身を鼓舞する。この旅路は困難なものになるだろう。しかし栄光を我が手につかむまで、決してあきらめるわけにはいかない。
わたしの裸足が第一歩目を踏みしめる。
「のっし!」
そして第二歩目。さらに三歩目。
「のっしッ……のっしッ……」
大股開きで堂々と、カメの速度で歩みを進める。パックは立ち上がり、ヤレヤレなんて顔をしながら言った。
「分かったよ、オレが行くから――」
わたしの歩みを阻むおにいに告ぐ。
「いってらっしゃい!」




