表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン庁の無能窓口と笑われた俺、【看破】で偽装探索者を暴いていたら、S級クランに引き抜かれました  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/24

第23話 敵の狙い

 書類が届く。確認する。受理票を押す。


 午前の業務は前の週と変わらない流れで過ぎていった。

 設備利用申請が1件、搬入申請が2件、資料の複写依頼が1件。

 先輩職員が電話を取り、短いやり取りをして受話器を置いた。

 廊下を誰かがカートを引いて通り過ぎ、車輪の音がゆっくり遠ざかっていく。


 10時を回ったころ、内部回付の封筒が1枚と、外部発送の書面が1枚届いた。


 内部封筒は『攻略調整部 田端審議官室 発』だった。

 宛先確認欄に『風見悠真(庶務・事前確認)』の表記がある。

 表紙には『第十二層攻略支援 外部協力先最終版確認資料(事前確認依頼)』とあった。


 外部書面の差出人欄には『クラン連盟安全調整委員会事務局』とある。

 予告されていた書面照会だった。


 先に書面照会を開けた。


 4ページ構成で、1ページ目は委員会の定型文——確認目的と根拠条文が丁寧な書式で並んでいる。2ページ目から照会項目の一覧に移った。


 項目を1つずつ追った。

 攻略全体の概要。安全管理の基本方針。外部協力先の数と選定基準の概要。

 この3項目は要約資料に書いてある内容と一致している。答えられる範囲だ。


 次のページに照会項目の続きがあった。


 搬送責任者の氏名と担当範囲。交代時刻と引継ぎのタイムライン。予備搬送経路の有無と保有業者名。現地引継ぎ窓口の担当者名と連絡先。


 この4項目は要約資料に含まれていない。

 前回の電話で聞いてきた内容とも重なっている。


 封筒に戻り、もう1枚の内部資料を開けた。



 ◇



 外部協力先最終版確認資料は5ページ構成だった。

 外部協力先の一覧、業務分担の整理、搬送体制の大枠——これらは確定済みで記載がある。

 搬送段取りの概要図もついていた。


 後半のページに進むと、欄外に『直前確定』と記された項目が4つあった。


 搬送責任者の氏名と担当範囲。交代時刻と引継ぎのタイムライン。予備搬送経路の担当業者名。現地引継ぎ窓口の担当者情報。


 書面照会で聞いてきた4項目と、最終版資料の直前確定欄が、そのまま重なっていた。


 直前確定の項目は、攻略日程が固まってから最後に入れるものだ。

 前後に変更が出やすい部分を後回しにするのは通常の運用として成立している。

 それだけの話という可能性は高い。


 ただ照会が聞いてきたのは、攻略の概要や体制ではない。

 搬送責任者・交代時刻・予備経路・引継ぎ先——前段に差し込める名前と経路に絞られている。

 計画全体ではなく、どこかに接続できる線があるかどうかを確認しようとしている形に見えた。


 断定はできない。

 安全確認として正当な照会項目だ。

 ただ2つの文書で、同じ部分だけが一致している。


 欲しいのは攻略の全体ではなく、割り込める最小の線かもしれない。



 ◇



 スマートフォンを手に取り、五十嵐に送った。


 『書面照会が届きました。照会項目に搬送責任者名・交代時刻・予備搬送経路・引継ぎ窓口の4点が含まれています。同じ項目が、玲さんから届いた最終版資料の直前確定欄と一致しています。照会が聞いている範囲が概要ではなく接続点に偏っています。田端審議官へ上げる必要があると判断しています』


 返信は10分ほどで届いた。


 『確認しました。すぐ審議官に繋ぎます。703号室へ来られますか』


 『伺います』と返して、2枚の資料を手に取った。



 ◇



 703号室には田端審議官がいた。

 五十嵐は壁際に立ち、手元にメモを持っている。


 机の上に書面照会と最終版資料を並べて置き、悠真が口を開いた。


 「書面照会の照会項目は全部で7つです。最初の3項目は要約資料の範囲内で回答できます。残り4項目が、搬送責任者・交代時刻・予備搬送経路・引継ぎ窓口です」


 田端審議官が資料に視線を落とした。


 「この4項目が、最終版の直前確定欄と一致しています。照会が聞いているのは攻略の概要ではなく、前段に入れる名前と接続先の部分になっています。欲しいのは計画全体ではなく、接続点を確認しに来ている可能性があります」


 「証拠にはならないが」と田端審議官が言った。


 「なりません。照会の内容自体は安全確認として成立しています。ただ回答してよい範囲と、最後まで伏せるべき範囲は分けられます」


 田端審議官が書面に目を戻した。

 しばらく黙って2枚を交互に読んでいた。


 「分けましょう。最初の3項目は要約の範囲で回答します。搬送責任者・交代時刻・予備搬送経路・引継ぎ窓口の4項目は、攻略終了後の開示とします。外部向けには担当部署名までとし、担当者名は内部管理のみにします」


 「最終版資料の直前確定欄も同様の扱いにします。その4項目は外部への事前共有から外します」と悠真が続けた。


 「そうします。書面照会への回答は私が確認してから出します。最終版資料の運用変更は、玲さんへ共有してください」


 五十嵐がメモを取りながら一度だけ頷いた。



 ◇



 庶務に戻り、玲にメッセージを送った。


 『最終版資料の確認が完了しました。搬送責任者・交代時刻・予備搬送経路・引継ぎ窓口の4項目は、最終確定まで外部共有から外すことになりました。問い合わせが来た場合の窓口は担当部署名までとします。この前提で最終版を通します』


 返信はすぐ届いた。


 『了解しました。運用を変えます。最終確定のタイミングで改めて連絡します』


 処理待ちのトレイを見た。

 最後の書類が1枚残っていた。

 設備利用申請で、許可番号が揃っている。受理票を押してトレイに置く。


 窓の外の換気設備が一度だけ低く動作音を立て、また静かになった。


 今日は、相手が欲しがっている情報の形が初めて具体になった。

 攻略の中身ではなく、前段に差し込める名前と経路。

 計画全体より、どこかに接続できる線があるかどうかを知りたがっている。


 それが誰の判断に基づくものかはまだ分からない。

 証明できる材料も手元にない。ただ2つの文書が同じ部分で一致していた。


 次は、その接続点に誰を立たせるかが焦点になる。

 相手がその名前を知るタイミングを、こちらが選べるかどうかが問題になってくる。


 次の書類を手に取り、受理票を押した。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ