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ダンジョン庁の無能窓口と笑われた俺、【看破】で偽装探索者を暴いていたら、S級クランに引き抜かれました  作者: 小狐


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第22話 抜けた項目

 書類が届く。確認する。受理票を押す。


 午前の業務は前の週と変わらない流れで過ぎていった。

 搬入申請が2件、設備利用申請が1件、問い合わせ対応が2件。

 先輩職員が資料棚から台帳を引いて戻ってきた。

 廊下を誰かが通り過ぎ、足音が遠ざかっていく。

 窓の外の換気設備が一度だけ低く動作音を立て、また静かになった。


 10時半ごろ、内部回付の書類が1枚届いた。


 回付用の封筒には『攻略調整部 田端審議官室 発』と印字されている。

 宛先確認欄の1行目に、自分の名前が記入されていた。

 『風見悠真(庶務・事前確認)』という表記だった。


 以前なら、攻略調整部からの回付書類が庶務の自分の名前宛てに届くことはなかった。

 五十嵐が内部の回付経路に追加してから、まだ日は浅い。今日が最初だ。


 封筒を開けた。

 表紙に『第十二層攻略支援 外部共有用要約資料(事前確認依頼)』と記されていた。


 内容を読んだ。3ページ構成だ。

 1ページ目に攻略の概要——期間・関与する外部協力先の数・安全管理の基本方針。

 2ページ目に問い合わせ対応の窓口と手順。

 3ページ目に攻略支援体制の概要図がついていた。


 前回の正式審査書類の別添にあった外部協力先の概要一覧は含まれていない。

 攻略前段の搬送段取りに関わる記述もない。

 田端審議官が先日の会議室で切り分けると決めた範囲が、そのまま入っていない形だった。


 問題は見当たらない。


 確認済みの印を押して、返送のトレイに置いた。

 処理待ちの申請書が1枚届いていた。

 設備利用申請で、許可番号が揃っている。受理票を押してトレイに置く。



 ◇



 午後3時を過ぎたころ、庶務の電話が鳴った。


 先輩職員が受け、「クラン連盟安全調整委員会の事務局からです。風見さんに代わってほしいとのことで」と悠真の方を見た。


 「はい、風見です」


 相手は穏やかな口調だった。

 

 「第十二層攻略支援に関わる安全確認の件でご連絡しております。今回ご共有いただいた要約資料について、確認させていただきたい点がございまして」


 「どのような点でしょうか」


 「外部協力先の搬送管理に関わる詳細情報についてです。現時点でご共有いただける範囲がございましたら、お伺いしたく思いまして。また、攻略前段の搬送段取りに関しても、段階ごとの確認事項について書面でお送りする予定がございます。受け取り先のご担当をご確認させていただいてもよろしいでしょうか」


 「書面でお願いします。電話での確認はお断りしています。いただいた書面は所定の窓口で対応します」


 「かしこまりました」という返事があり、通話が終わった。


 受話器を置いてから、午前中に確認した要約資料の内容を頭の中で辿った。


 外部協力先の搬送管理に関わる詳細情報——今回の要約資料には含まれていない。

 攻略前段の搬送段取りの確認事項——今回の要約資料には含まれていない。

 聞いてきた2点が、今回の資料から抜けた部分と正確に一致している。


 通常の安全確認であれば、送付された資料に書いてある内容について確認が来る。

 今回は書いていないことを聞いてきた。

 資料を読んだ反応ではなく、資料に含まれなかった部分への反応だ。


 断定はできない。

 切り落とした項目と聞いてきた内容が偶然一致していた可能性も否定できない。

 ただ2点の一致は正確だった。


 「抜けた項目への反応だ」という読みが、静かに固まった。



 ◇



 スマートフォンを手に取り、五十嵐に送った。


 『今日、委員会事務局から電話がありました。聞いてきた内容が、今回の要約資料に含まれていない項目と一致しています。外部協力先の搬送管理の詳細と、搬送段取りの段階ごとの確認事項の2点です。今回の資料に含めなかった部分だけを正確に聞いてきました。資料を読んだ上での確認ではなく、含まれなかった部分を確認しに来ている可能性があります。書面送付の予定があるとのことでしたので、届き次第転送します』


 返信は30分ほどで来た。


 『確認しました。田端審議官に共有します。書面が届いた場合はすぐに転送してください』


 夕方近くになって、五十嵐から続報が届いた。


 『田端審議官の判断が出ました。今後の委員会側からの照会は書面のみ受け付けます。回答窓口は攻略調整部の特定担当に一本化し、口頭・電話による問い合わせには応じません。外部共有資料は引き続き要約版のみを継続します。書面の照会が届いた場合は、悠真さんの確認を経てから回答に移ります』


 悠真は『分かりました』と返して、画面を伏せた。


 先輩職員が帰り支度を始めていた。

 廊下の向こうで複数の足音が遠ざかり、庶務室が少し静かになった。



 ◇



 業務終了前に、玲からメッセージが届いた。


 『第十二層の攻略日程、仮確定しました。外部協力先は今週中に最終化します。最終審査の確認をお願いします』


 『確認します』と返した。


 処理待ちのトレイを見た。今日の最後の書類が1枚残っていた。

 搬入申請で、書類の形式は整っている。受理票を押してトレイに置く。


 今日は、新しい経路が初めて動いた。

 攻略調整部から要約資料が回ってきて、確認した。

 田端審議官の判断どおりに作られていた。内容に問題はなかった。


 それに対して相手が動いた。

 資料に何が書いてあるかではなく、何が書いていないかを確認しに来た。


 3年間、来たものを確認して、問題があれば止めてきた。

 今日は止めた後の動きが見えた。相手は止まっていない。

 こちらがどこを削ったかを、正確に拾いに来た。


 次は「何が書いてあるか」だけでなく、「誰が何を欲しがっているか」を読む段階になる。


 次の書類を手に取り、受理票を押した。

読んでいただきありがとうございます。

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