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ダンジョン庁の無能窓口と笑われた俺、【看破】で偽装探索者を暴いていたら、S級クランに引き抜かれました  作者: 小狐


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第24話 知らせる順番

 書類が届く。確認する。受理票を押す。


 午前の業務は前の週と変わらない流れで過ぎていった。

 搬入申請が3件、設備利用申請が1件、問い合わせ対応が1件。

 先輩職員が窓口に立ち、来庁者と短くやり取りして戻ってきた。

 廊下の向こうからコピー機の動作音が間隔をあけて聞こえ、また止まった。


 11時を回ったころ、スマートフォンに五十嵐からメッセージが届いた。


 『先ほど、書面照会への回答を委員会事務局へ送付しました。田端審議官確認済みです。回答したのは照会内容のうち前半3項目のみ。後半4項目については「攻略終了後の開示」として返しています』


 『確認しました』と返して、処理待ちのトレイに手を伸ばした。


 相手はこれを読んで、次に何かを動かしてくる可能性がある。

 接続点4項目が「出ない」と分かった状態で、どの経路を使うかだ。



 ◇



 昼過ぎ、玲からメッセージが届いた。


 『接続点4項目について、内部で候補者の検討に入りました。搬送責任者の候補として梶原氏(外部協力先・現場統括)、引継ぎ窓口の候補として庁内の運用調整担当者1名の名前が挙がっています。正式決定は攻略日程の最終確定後ですが、候補名での内部調整を開始します。確認をお願いします』


 候補名が出た。

 梶原という名前は初めて出てくる。

 具体の名前が内部で動き始めたということだ。


 候補者そのものには今のところ問題は見当たらない。

 外部協力先の現場統括として選定済みの人物だ。

 庁内の運用調整担当についても、通常の担当範囲の中に収まっている。


 『確認しました。引き続き内部管理でお願いします』と返した。



 ◇



 15時を過ぎたころ、庶務の電話が鳴った。


 先輩職員が受け、「クラン連盟の施設調整担当の方からです。第十二層の関係で確認があると言っています」と悠真の方を見た。


 「はい、風見です」


 「お世話になっております。第十二層攻略支援に関わる当日運用の確認でご連絡しています。当日の連絡責任者について、確定の時刻を事前にお教えいただけますでしょうか。施設側の準備に合わせて連絡先を更新する必要がございまして」


 「どのような準備のためでしょうか」


 「搬送受け入れ側の調整です。誰がいつ確定するかが分かれば、こちらの準備スケジュールが立てやすくなりますので」


 「確定した段階でご連絡します。現時点では未定として扱っていただくようお願いします」


 「かしこまりました」という返事があり、通話が終わった。


 受話器を置いた。施設調整という名目での確認だった。聞いてきたのは「誰が連絡責任者か」ではなく、「いつその名前が確定するか」だった。


 玲からの候補名が内部で動き始めた時刻と、この電話の時刻を頭の中で重ねた。


 外へ出ていないはずだ。候補名は内部管理で動いている。

 ただ「候補の検討が始まった状態」そのものが、何らかの形で外に届いている可能性がある。


 候補者が問題なのではない。

 相手が欲しいのは、名前がいつ確定してどの経路で外へ出るかだ。

 確定の瞬間に接続できれば、その名前を取れる。



 ◇



 スマートフォンを取り、五十嵐に送った。


 『今日、クラン連盟の施設調整担当から電話がありました。当日連絡責任者の確定時刻を聞いてきています。内容は施設側の準備合わせという名目ですが、「いつ名前が決まるか」を聞く形になっています。候補名は内部管理中ですが、検討が始まったこと自体が外に届いている可能性があります。知らせる順番の問題だと読んでいます。田端審議官へ上げる必要があります』


 返信はすぐ来た。


 『了解しました。703号室へ来てください』



 ◇



 703号室には田端審議官がいた。

 五十嵐が隣に立ち、メモを手に持っている。


 机の上に玲からの候補確認資料と、五十嵐に転送してもらった電話記録の概要を並べて置いた。


 「候補者の変更は不要です」と悠真が口を開いた。


 「梶原氏も庁内担当者も、選定の根拠に問題はありません。ただ相手が欲しいのは名前そのものではなく、その名前がいつ確定して外へ出るかです。確定の瞬間に接続できれば、情報を取れます。現在の運用だと、候補が固まった時点で通知が動き始める形になっています」


 「通知の順番を変えるということか」と田端審議官が言った。


 「そうです。候補名は内部で確定させたまま、外部通知を攻略直前まで遅らせます。外部には役割の種類だけ先行して共有し、担当者名は最終段階の限定通知にする。当日の連絡線の確定時刻も、外部へは攻略前日以降の共有にします。変更通知は田端審議官・玲さん・私の3点管理にします」


 田端審議官が少し考えてから、五十嵐の方を見た。五十嵐が頷いた。


 「そうしましょう。個人名の外部通知を直前限定に変更します。外部向けには役割名のみ先行共有。担当者名は最終段階の限定通知。確定時刻の外部共有は攻略前日以降とします。変更通知の管理は3点管理で。玲さんへの共有はお願いします」


 五十嵐がメモに書き留めた。



 ◇



 庶務に戻り、玲にメッセージを送った。


 『候補者の変更は不要です。出す順番だけ変えます。役割名は先に動かして構いません。ただ担当者名は攻略直前まで内部で持っていてください。確定時刻の外部共有も前日以降にします』


 返信はほどなく届いた。


 『了解しました。運用を変えます。最終段階で連絡します』


 処理待ちのトレイを見た。

 夕方の申請書が1枚届いていた。搬入申請で、書類の形式は整っている。

 受理票を押してトレイに置く。


 窓の外の換気設備が一度だけ低く動作音を立て、また静かになった。


 今日変えたのは候補者ではない。

 その名前を、誰が、いつ、どの順番で受け取るかを変えた。


 相手が欲しいのは接続点に立つ人物の名前だけではなかった。

 名前が確定して外へ出るそのタイミングを欲しがっている。

 情報を持っている側が、いつ出すかを決めている——それが今日から少し変わった。


 次は、接続点に立つ人物そのものへ圧力が向くかもしれない。

 名前が出てこないと分かったとき、相手がどこへ向かうかだ。


 次の書類を手に取り、受理票を押した。

読んでいただきありがとうございます。

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