第20話 クラン連盟安全調整委員会
書類が届く。確認する。受理票を押す。
午前の業務は前の週と変わらなかった。
設備利用申請が2件、問い合わせ対応が1件、搬入記録の転記が3枚。
来たものを順に処理して、次のトレイに回す。
廊下を誰かが通り過ぎ、先輩職員が電話に出て短く答えた。
処理待ちのトレイがいったん空になって、また2枚積まれた。
スマートフォンが振動した。五十嵐からだった。
『昼前に少しよろしいですか。第十二層攻略関連の会議前資料について、事前確認をお願いしたい方がいます。第三庁舎の703号室に来ていただけますか』
『分かりました』と返して、画面を伏せた。
第三庁舎。
普段の業務では用事のない場所だ。
スマートフォンを机の引き出しに置いて、次の書類を手に取った。
◇
703号室は小さい会議室だった。
窓側に長机が1本、椅子が4脚。五十嵐がすでにいて、入口から一番遠い席に別の人物が座っていた。
「田端審議官です。攻略調整部の担当で、今回の第十二層攻略の調整全体を見ています」と五十嵐が紹介した。
田端審議官は年齢が五十嵐より上で、端末と紙の束を手元に置いている。
「来てもらってすぐで申し訳ないが、事前資料を見てもらいたい。今週の調整会議の前に、内容の確認が取れる人間が必要だと五十嵐さんから提案があった」
悠真は席に着き、差し出された資料の束を受け取った。
第十二層攻略に関する会議前事前共有資料、という表紙だった。
参加機関・調整事項・共有資料一覧が目次として並んでいる。
5ページほど読み進んだところで、『合同安全確認参加について』という議題項目が出てきた。
クラン連盟安全調整委員会からの要望として記載されている。
内容は、第十二層攻略の安全確認を名目に、攻略支援計画書(仮)・外部協力先一覧・搬送段取り概要の3点を事前共有するというものだった。
通常の安全確認の手続きに則った形式になっている。
悠真はそのページを2回読んだ。
外部協力先一覧。搬送段取り概要。
この2点は今の段階で別の組織に渡す必要がある項目ではない。
攻略支援計画書には安全確認に使える部分も含まれているが、外部協力先の一覧は攻略の前段に接触できる業者の名前を渡すことと同じだった。
「1点、確認していいですか」と悠真は言った。
田端審議官が顔を向けた。
「この合同安全確認の対象範囲について、支援計画書は安全確認の本来の目的に対応しています。ただ外部協力先一覧と搬送段取り概要は、現段階で共有する必要があるかどうか確認が取れません。安全確認に必要な項目と、攻略計画の開示に近い項目が一括になっています」
田端審議官は資料を手元に引き寄せて、その項目を見た。
「切り分けは可能ですか」
「支援計画書の安全確認に関連する部分だけを取り出す形にすれば、外部協力先と搬送段取りは含めずに対応できます」
「もう1点あります」と悠真は続けた。
「今回の要望で共有先として指定されているクラン連盟の委員会について、どの組織から構成されているかの確認が、この資料の中に見当たりません。共有範囲を絞る前に、先に確認しておく項目かもしれません」
田端審議官が五十嵐の方を一度見て、資料に戻った。
「分かった。この項目は今回の会議から切り分ける。安全確認の範囲で再構成する方向にして、外部協力先と搬送段取りの共有は攻略後に回す。委員会の構成確認は別途入れる」
五十嵐が端末に何かを入力した。
会議室の外では廊下の空調が低く稼働していた。
◇
庶務に戻ると、午後の書類が3枚届いていた。
スマートフォンを取り出して、玲にメッセージを送った。
『第十二層関連の調整で確認が入りました。正式審査前に外部へ出す情報の範囲を絞ることになりました。外部協力先の一覧と搬送段取りの事前共有は攻略後に回します』
玲からの返信はすぐに来た。
『分かりました』
それ以上のやり取りはなかった。
受理票を取り出して、届いた書類を手に取った。
設備利用申請で、許可番号が揃っていた。
確認して、受理票を押す。
窓から午後の光が斜めに入ってきている。
廊下の向こうで誰かが引き出しを開ける音がして、また静かになった。
今回は申請が来てから見たのではない。
会議の議題が確定する前に、1つ項目を切り出した。
三栄グループが今回の動きに直接関わっているかどうかは分からない。
クラン連盟の委員会が何のために外部協力先の一覧を手に入れようとしていたのかも、まだ出ていない。
ただ、相手は攻略の装備や補助器材だけを狙っているのではないかもしれない。
どう決めるか、何を誰に渡すか、そういう手続きの部分に触れようとしている。
書類を1枚、また1枚と処理した。
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