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第19話 書類の前で

 書類が届く。確認する。受理票を押す。


 今週も前の週と変わらない流れで、午前が過ぎていった。

 搬入申請が1件、設備利用申請が2件、問い合わせ対応が3件。

 来たものを確認して、処理して、次のトレイに回す。

 先輩職員が席を立って資料棚に向かい、戻ってきて電話を取った。

 廊下を誰かが通り過ぎ、足音が遠ざかっていく。


 窓の外の換気設備が一度だけ低く唸り、また静かになった。


 処理件数が落ち着いたころ、玲からの「また審査をお願いします」という一言が頭をよぎった。

 第十二層攻略の正式依頼はまだ来ていない。


 ここまで、書類が届いてから確認するやり方でやってきた。

 依頼が来て、書類が揃って、補助器材の提供元を調べて、問題があれば五十嵐に共有する。

 三栄グループの名前が出てきたのも、いつも手元に来てからだった。

 三栄機材が補助器材の提供元に入っていたことも、三栄設備の申請が攻略当日に届いたことも、それぞれ受け取ってから分かったことだ。


 来たものを見る、という構図は変わっていなかった。


 ただ今回は、正式申請が届く前に確認しておけるなら、その方が合理的だった。

 玲はすでに「第十二層を視野に入れて動き始めた」と言っている。

 候補が出ているなら、書類になる前の段階でも確認できる可能性がある。


 スマートフォンを手に取り、玲への画面を開いた。



 ◇



 『第十二層の件ですが、正式書類が届く前に一度確認させてください。現時点で候補が出ているなら、補助器材・装備・外部協力先の暫定一覧だけ先に見せてもらえますか。申請書類は前と同じ形式でかまいません』


 玲からの返信は数分後に来た。


 『了解です。今日中に送ります』


 昼を過ぎたころ、ファイルが届いた。

 補助器材が4点、主装備2点、外部協力先候補が3社。

 正式書類にはまだなっていない暫定の一覧だ。


 補助器材と主装備の提供元を順に確認した。

 補助器材4点のうち3点は過去に庁の記録に出ている実績ある業者、1点は調達実績のあるメーカーだ。

 主装備は2点ともクラン側の在籍装備で、提供元の確認は不要だった。


 外部協力先候補の3社を見た。

 攻略前段の搬送管理・事前確認・器材整備補助にあたる事業者の一覧だ。

 2社は庁の外部連携記録に実績がある。

 残りの1社、『大栄搬送サービス株式会社』については記録にない。


 設立年月を確認した。

 今年の設立だった。代表者名に見覚えはない。住所は港区の工業地域だ。


 社名の後ろに「サービス」がついている。

 三栄グループの関連会社名はそれぞれ三栄管理サービス、三栄機材、三栄設備だった。

 表記の切り方の癖が似ている。

 「大栄」の「栄」という字も、三栄シリーズと共通していた。


 加えて、この会社が担当する立場を確認した。

 攻略前段の搬送管理——器材が審査の手元に届く前の段階を担当する位置だ。

 器材そのものではなく、器材が正式に記録される前の段階に関与できる立場にある。


 五十嵐が以前、攻略前後の期間に庁への問い合わせがあり、発信元の1つに三栄グループと取引関係にある業者名が含まれていたと伝えていた。

 その業者名は教えてもらっていない。

 同一とは断定できない。ただ先に確認しておく価値はあった。


 スマートフォンを手に取った。



 ◇



 五十嵐に送ったのは報告ではなかった。


 『正式書類が来る前ですが、1社だけ先に確認しておきたいです。大栄搬送サービス株式会社という業者で、第十二層攻略の外部協力先候補に入っています。今の段階では止める理由はありません。ただ、後で確認が遅くなるかもしれないと思いました』


 返信が来たのは1時間ほど後だった。


 『確認できました。大栄搬送サービスは今月設立の会社で、出資元に以前の問い合わせ発信元として記録されていた業者名が含まれています。攻略審査様式についての照会を庁の外部窓口に1件出していた記録もあります。現時点で違法性はありません。ただ、搬送管理の立場で攻略前段に入る位置になる点は共有しておきます』


 読み返してから、スマートフォンを机に置いた。


 正式書類が届いた後では、すでに候補として固まった状態で手元に来ていたかもしれない。

 今回は暫定の段階で確認した。

 審査様式への照会。問い合わせ発信元との繋がり。

 証拠にはならない。ただ、候補として残しておくべきではなかった。


 玲へ送った。


 『外部協力先候補のうち、大栄搬送サービスだけ正式採用前に差し替えられますか。器材の安全性ではなく、入口がよくありません』


 返信は短かった。


 『分かりました。差し替えます』


 それ以上の問い返しはなかった。


 処理待ちのトレイに書類が1枚届いた。

 設備利用申請で、許可番号が揃っていた。

 受理票を押してトレイに置く。

 廊下の向こうで誰かが小さく笑い声を上げて、すぐに遠ざかった。


 今回は書類が届いてから確認したのではない。

 一覧が確定する前に、1社を候補から外した。

 大栄搬送サービスと三栄グループの関係はまだ証明されていない。

 全貌は出ていない。


 ただ今回は、来るのを待ってから見るだけではなかった。


 次の書類を手に取り、受理票を押した。


読んでいただきありがとうございます。

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