第18話 机の上の順番
攻略から3日が経った朝も、庶務は変わらなかった。
書類が届く。確認する。受理票を押して、次の係のトレイに移す。
昨日の受付分が先に2枚あって、今日の分が後ろに続く。
先輩職員が電話を取り、短く答えてから資料棚に向かった。
廊下を誰かが通り過ぎ、足音が遠ざかっていく。
窓から差し込む光の角度が、夏に向かって少しずつ変わってきている。
処理待ちのトレイが一度空になって、また3枚積まれた。
照合して、問題がなければ受理票を押す。
もう1枚。また1枚。
廊下のどこかで引き出しを開ける音がして、すぐに閉まった。
来訪者が受付を通り過ぎるのが廊下越しに見えた。
確認する必要はなかった。
書類を手に取り、受理票を押した。
◇
昼過ぎに、五十嵐参事官からメッセージが届いた。
『三栄設備の申請タイミングについては、現時点で断定に至っていません。ただ1点、確認できたことをお伝えします。攻略実施の前日から翌日にかけての期間に、庁への問い合わせが複数件記録されています。いずれも通常の範囲に見える内容ですが、発信元の1つに、三栄グループと取引関係がある業者の名前が含まれていました。現時点では関連性を証明できていません。引き続き確認します』
『分かりました』と返信して、スマートフォンを机に伏せた。
次の書類を手に取った。
設備利用申請で、許可番号が揃っていた。
受理票を押してトレイに置く。
五十嵐が「通常の範囲に見える」と書いていた。
断言せずに連絡してくる。
この関係が始まった頃から、その判断の仕方は変わっていない。
ビルの壁面に午後の光が当たって、窓からその白い反射が見えた。
◇
1時間ほど後に、玲からメッセージが届いた。
『攻略中の補助器材の出力低下について、正式に記録を残したいと思います。使う書式を確認させてください』
庁の様式を確認した。
攻略中に発生した器材の不具合については、支援器材不具合届が該当する。
担当者印と発生の概要、攻略への影響の有無を記載すれば、書類1枚で処理できる形式だった。
型番が分かれば、提供元の記録と突き合わせることもできる。
『支援器材不具合届を使ってください。器材の型番・発生時刻・攻略への影響の有無を記載します。攻略への支障がなかった旨も、記録に含めてください』
玲からすぐに返信が来た。
『分かりました。提出します』
『受け取ります』と送信した。
◇
午後になって処理件数が落ち着いた頃、玲からもう一度メッセージが届いた。
『第十二層について、先を見据えて動き始めようと思っています。時期が確定したら、また審査をお願いします』
『はい』と返した。
それ以上のやり取りはなかった。
書類が1枚届いて、確認して受理票を押した。
先輩職員が席を立って給湯室に向かった。
廊下で誰かが笑い声を上げて、すぐに遠ざかった。
◇
夕方、処理待ちのトレイが空になった。
引き出しから五十嵐参事官の照会資料を取り出した。
三栄管理サービスの立入申請書コピー、三栄機材の提供元確認記録、三栄設備の設備調達申請書を机の上に並べた。
最初は漏洩だった。
沼田と一ノ瀬が、庁内から攻略情報を外に流していた。
2人とも庁の内部にいた。
受け取った先に、三栄グループと繋がっている組織があった。
次が侵入だった。
三栄管理サービスが庁の南棟に入ろうとした。
正規の立入申請書を使い、手続きを踏んで入ろうとしていた。
書類の中身に矛盾が隠れていた。
その後に供給が来た。
三栄機材が、攻略チームの補助器材の提供元に入り込んでいた。
供給品に違法性はなかった。
ただ攻略中に器材の一部が出力低下を起こした。
攻略への支障はなかったが、記録には残る。
攻略当日に申請が来た。
三栄設備が、庁の別の窓口に設備調達の申請書を提出した。
形式に問題はなかったが、今日の日付で三栄の名前が出てきた、という1点だけが引っかかった。
4つを並べると、方法がそれぞれ違う。
人から、場所から、物から、タイミングから。
どれも庁の内側に向かっていた。
何のためかは、まだ出ていない。
五十嵐も今は推測の段階だと言っている。
書類を重ねて引き出しに戻すと、窓の外で街灯が1つ点いた。
廊下の照明がいつの間にか夜の明るさに変わっていて、机の上が空になっていた。
次にどこから来るかは、今日の時点では分からない。
ただ4つを順番に並べると、まだ使われていない向き方がある。
スマートフォンを鞄に入れて、席を立った。
廊下に出ると、照明の白い光だけがあった。
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