第16話 提供元の名前
審査室はもう慣れた部屋になっていた。
テーブルが並んでいて、椅子の位置が前回と同じだ。
窓から差し込む光の角度を確認して、書類を広げた。
今回は《白狼の牙》第十一層攻略前審査の全員分で、支援スタッフ4名と戦闘メンバー7名、計11名の束になっている。
順番に並べていくと、各自の申請書の厚みが少しずつ違う。
装備が多い者は束が厚く、補助器材だけの者は薄い。
そのひとつひとつを確認することが、今の仕事だった。
◇
定刻に玲が来て、後ろにメンバーたちが続いた。
倉本は入口の手前で一度足を止めてから入ってきた。
前回と同じ動きだった。
「よろしくお願いします」
「お願いします」と倉本が返した。
支援スタッフから始めた。
地図士・医療担当・情報担当の3名と、今回から加わった物資担当が1名。
物資担当は30代の女性で、補助器材の申請リストが他のスタッフより多かった。
登録番号、形式番号、刻印を1つずつ照合していった。
情報担当の通信機材は前回と同数で、許可番号がすべて揃っていた。
物資担当の補助器材は申請番号ごとに照合するのに時間がかかったが、形式に問題はなかった。
支援スタッフ4名を通すのに40分ほどかかった。
◇
戦闘メンバーの番になった。
倉本が最初に来て、書類を差し出した。
変更後の装備が申請書に記載されていて、前回の申請書と連番になっていた。
「変更後の装備で問題はありませんでしたか」
「問題ない」
照合した。
変更装備の形式番号と刻印が一致している。問題なかった。
残りの戦闘メンバーが順に来て、書類を出した。
3人目まで通したところで、4人目の書類を受け取ったとき、手が止まった。
補助器材の申請欄の提供元に『三栄機材株式会社』と書かれていた。
名前を一度見て、もう一度見た。
南棟の件で五十嵐参事官から受け取った照会資料の中に、『三栄管理サービス株式会社』という名前があった。
差し止めた業者の正式名称だ。同じ『三栄』。
資料は庶務の引き出しにある。
住所の記憶だけあった。
港区芝7丁目、という区画。
申請書の登録住所を確認した。
『港区芝7丁目8番地』と書かれている。
審査を続けた。
補助器材の形式番号を確認し、次に刻印を照合する。
問題はなかった。装備自体に違法性はない。
残りのメンバーを順に通して、全員の審査を終えた。
◇
玲が部屋に残った。
「全員問題ありませんでした。1点だけ確認があります」
「何ですか」
「4番目のメンバーの補助器材申請書の提供元に、供給経路を確認したい業者があります。装備自体は問題ありません。攻略は止める必要はないと判断しています」
玲はしばらく間を置いた。
「続けていいということですか」
「はい。ただ記録だけ残しておきたい」
玲が書類を引いた。
「分かりました」
部屋を出た。
廊下の足音が遠ざかった。
◇
庶務に戻って、引き出しから五十嵐参事官の照会資料を取り出した。
『三栄管理サービス株式会社』
登録住所:港区芝7丁目12番地。
今日の申請書に記載されていた「三栄機材株式会社」の住所は、港区芝7丁目8番地だった。同じ7丁目で番地が4つ違う。社名の頭が同じ。
スマートフォンで五十嵐参事官にメッセージを送った。
『今日の攻略前審査で、補助器材の提供元に三栄機材株式会社という業者が出ました。南棟の件で確認済みの三栄管理サービスとの関係を照会いただけますか。供給品自体に違法性はありません』
送信して、資料を引き出しに戻した。
机の上に封筒が置いてあった。
五十嵐参事官からの差出人印が入っている。
開けると、協力文書の改訂版だった。
条件の欄に『《白狼の牙》に関係する情報については、担当者の確認を経た上での共有とする』という一文が追加されている。
内容を読んだ。問題はなかった。
署名欄にサインして、封筒に戻した。
庶務の発送トレイに置いた。
先輩職員が電話をしていた。
廊下から誰かの足音が通り過ぎる。
窓から見える空が少し赤くなっていた。
◇
夕方に五十嵐参事官からメッセージが届いた。
『確認しました。三栄機材と三栄管理サービスは役員の一部が重複しています。同系統の業者と見てよい状況です。今回の供給品自体に違法性はありませんが、同系統業者が攻略チームの物資供給に関与していたことは記録に残します』
『分かりました』と返した。
スマートフォンを置いて、今日の審査書類を重ねた。
4番目のメンバーの補助器材申請書が上に来た。
提供元の名前が、今日初めて目に入るものだった。
攻略は明日だった。
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