19、少しくらいは
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
店員に見送られながら、店を出た。太陽がまだ真上にあり、人も多く歩いているのが見えた。
「まだ、時間的に余裕がありますわね。」
「....え。あれだけ、時間がかかったのに?」
先ほどの、ドレスの着せ替えを思い出し苦い顔をしてしまった。
「ああ、ごめんなさいね。あまりにも、着せ替えがいがあったものですから。」
「いや。まあ、楽しかったならよかったよ。」
「僕としても、君のいろんな姿を見れて良かったよ。」
エドワード様からそんなことを言われて、心臓がドキっとした。
”この人は、何で簡単にそんなセリフが言えるんだ”
「えっと....そう言っていただけて....良かったです。」
「フフ。普段あんなにしっかりしていますから、このような反応はかわいいですわね。」
このまま黙っていると、何か自分が恥ずかしくなると思って話を変えようとした。
「こ、この後はどうしますか!」
「そうですわね....せっかくですし街を見てみたいですわね。」
「それは、良い考えだね。せっかく、天気も晴れているしね。」
街を見て回ろうという話に決まろうとしたとき、ベルちゃんが慌てて言ってきた。
「あ。私はちょっと親に話したいことがあるので4人で楽しんできてください。」
「あら、そうなの?でしたら、2手に分かれて回ってみませんこと?」
「2手ですか?」
「ええ。わたくしとエドワード王子。リナさんとエドワード様で分かれたいのですけれど問題ないかしら?」
「そうだね。二人の護衛としても私とエドワードは分かれたほうがいいだろう。それに、リナ嬢はエスコートに慣れていないようだし練習にもなるだろうからね。」
「え、お二方が護衛してくれるんですか。普通、護衛の人が別にいるんじゃぁ....」
そう口に出して周りを見たら、護衛が誰もいなかったことに気が付いた。
「姿は見えないけど、一応離れたところに護衛ってわからないようについてくれてはいるよ。それに、君たちを守れるくらいの護身術は学んできているからね。」
「リナ嬢は、僕が護衛なのは心配かい?」
そう言われて、私は慌てて否定した。
「ち、違うんです。貴族の人が護衛を付けずに自分たちが護衛をするっていう風に聞こえて、びっくりしただけです。」
「でしたら、問題ないですわね。それでは、鐘が4回なったらここにまた集合でいいかしら。」
そうして、とんとん拍子に話がすすんで私たちはその場で一度解散をした。
「ベルちゃん、また今度一緒に街を見て回ろうね!」
「うん。楽しみにしてるね。」
「あら、わたくしは仲間外れですの?」
「いや、そんなことないよ。フィオナ様も一緒に見て回ろう!」
「フフ、女子会ですわね。」
「そうですね。その日が楽しみです。」
そう言ったベルちゃんは、私たちが見えなくなるまで手を振っていた。
——
見えなくなるまで手を振っていたベルは、先ほどまで浮かべていた笑みを消した。そして、早足で店に戻っていった。
「お母さん、お父さん!ちょっと共有したいことがある!」
「あら、さっきあの人たちと一緒に行ったんじゃないの?」
「さっきのフィオナ様のドレスのときにあった話を早く話したかったから、分かれたの。」
「....そこまでのことなのかい?」
「うん、今までってドレスの形は店に飾っているものしかないでしょ?」
「そうだな。」
「で、リナちゃんが教えてくれた形があるんだけど——」
「この形、今回フィオナ様が着るからなおのこと流行になるんじゃないかな。」
「そうねぇ。ちょっと着る人を選ぶかもしれないけど、それはあり得るわね。」
「いままでの流行が変わるかもしれないな。」
「それに、これを元に別の形を作ることもできるかもしれないわね。」
そして、その言葉は正夢になるとは今は思いもよらなかった。
——
ベルちゃんに見送られた私は、エドワード様と街を見て回った。
「そういえば、君は家に寄らないのかい?」
「寄らないというか、寄れないが正しいですね。」
「ん?君は街育ちじゃないのかい?」
私が言っていることが、よくわからないという顔をされた。
「街育ちではあるんです。ただ、私の家はこっちの方じゃなくてお城の後ろ側になるんです。」
「反対だったのかい....それは、確かに寄れないね。」
先ほどの顔とは違って、申し訳なさそうな顔をしていた。
「でも、こっちの方は初めて来たのでいろいろ見れるのは楽しいですよ。」
「そうかい?....だったら、時間いっぱい見て回ろうか。」
「そうですね!」
そうして私たちは、いろんな店を見て回った。
「そういえば、歩きっぱなしだけどお腹は空いていないかい?」
「ああ、そういえば。何も食べていなかったですね。」
「それなら、何か食べたいものはあるかい?」
「う~ん....でしたら、あの出店の物が食べてみたいです。」
見て回っているときに、とてもいい匂いが漂っていたお店を指さした。
「ああ、そういえばソースのいい匂いがしていたね。わかった。僕が買ってくるから、君はここで休んでいて。」
「え、私も一緒に行きますよ?」
「ここは、僕に花を持たせてくれると嬉しいな。」
そう言ったと思ったら、手に熱が急に移ってきて私はドキドキしてしまった。
「わ、分かりました。....待っています。」
それを聞いたエドワードは、私をベンチに案内をした。そして、ハンカチを敷いて座らせてくれた。
「じゃあ、行ってくるね。」
「い、行ってらっしゃい。」
その言葉でエドワード様に笑顔が溢れた。その笑顔を見た私は、より胸がときめいた。
「エドワード様、これシンプルな味付けなのにとってもおいしいですよ。一つ食べてみませんか?」
「良いのかい?じゃあ、貰おうかな。」
「....あ、そうだ。はい、あ~ん。」
「リナ嬢....?何を....って」
「どうしたんです?もしかして嫌いなものでしたか?」
「い....や。そんなことは....ないよ。それじゃあ....いただくよ。」
そう言って、食べたエドワード様は顔を背けていたが、耳が赤くなっているのを見えた。その様子を見て満足した私は、疑問に思ったことを聞いた。
「エドワード様って、自分で買い物ができるんですね。」
「それは、あれかい?僕にはできないと思っていたのかい?」
「正直に言うとそうですね。普段、うちのお店に来てくれる貴族の人は会計を本人がしていなかったから。」
「ああ、確かにそうかもね。でも、僕としては何事も経験だと思っているから学んではいたんだよ。」
「勤勉なんですね。」
「君ほどじゃないよ。....さて、もうそろそろまた見て回ろうか。」
「そうですね。じゃあ、これは洗ってお返しいしますね。」
立ち上がり、下に敷いてもらったハンカチを回収すると。
「別に、大丈夫だよ?」
「いいえ、これだけは譲れません。」
「....分かった。じゃあお願いしてもいいかい?」
「ええ、任されました。」
そうして、私たちはまた歩き始めた。周りに気を取られていると、急に腕が引っ張られ衝撃が走った。そして、先ほど隣で香っていた匂いが近くにあることに気が付いた。
「危なかった....あ、急に引っ張ってごめんね。後ろから人が勢いよく走ってくるのが見えたものだから。」
そう言われたが、体勢に気を取られて何も言えなかった。
「って、ごめん。急だったとはいえこの体勢は、嫌だったよね....」
「え、大丈夫ですよ?ただ、びっくりしただけで。」
私は、先ほどの胸の高鳴りを気づかれないように平然を装って答えた。
「そう....かい?なら良かった。ただ、人が増えてきたみたいだね。」
「そうですね。どうしますか?」
「君が....嫌でないならエスコートさせてもらえないかい?」
「エスコートですか....?」
「うん。フェリクスも練習したほうがいいとも言っていたしね。それに、パーティーでいきなりよりも今のうちに慣れていた方がいいと思うし。どうかな?」
そう言って、手が差し出された。
「えっと....」
私は一瞬迷ったが、おずおずと握った。ただ、恥ずかしさを隠すために顔をそむけてしまった。
「お....お願いします。」
「ああ、任せてくれ。」
そうして、私たちは手をつないだまま時間まで街を見て回った。そして、その間私の心は落ち着かなかった。
”....でも、少しくらいはやり返せたよね”




