表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放された【無能鑑定士】実は″死亡フラグ″が見えるだけでした〜気付いたら世界の運命を変えていた件〜』  作者: 法月蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

第6話 ボスがいないダンジョン

 俺たちは玉座の前に立った。

 

 「……いない」

 

 ミリアが呟いた。

 その声は、妙に乾いていた。

 玉座は確かにそこにある。

 赤い絨毯の先、数段の階段を上った先に据えられた豪奢な椅子。

 左右には歴代の王を描いたであろう絵画、壁際には磨き上げられた甲冑が規則正しく並んでいる。

 すべてが“それらしく”整っているのに、肝心の存在だけが抜け落ちていた。

 

 「ボスがいない」

 

 誰に言うでもなく、俺はそう口にした。

 その瞬間、視界の端に鑑定結果が割り込む。


 【鑑定結果】

 【本来ボス:削除済み】

 【代替処理:進行中】

 

 「削除って……」

 

 ミリアが眉をひそめる。彼女の手に握られた剣が、わずかに揺れた。

 

 「そのままの意味だろ」

 

 俺は肩をすくめるが、内心は全く笑えない。


 「データごと消されたってことだ」

 

 「そんなこと、あり得るの?」

 

 「普通はあり得ないな」

 

 嫌な考えがよぎった。

 

 「恐らくシナリオごと消されたんだよ。意図的に」

 

 その言葉を口にした瞬間だった。

 空気が、軋んだ。

 まるで見えない手で空間を捻じ曲げられたように、視界がわずかに歪む。

 耳鳴りのような低い音が、足元から這い上がってきた。

 

 「来るぞ」

 

 俺が短く告げる。

 ミリアは即座に反応し、剣を構え直した。

 彼女の動きに迷いはないが、その呼吸は浅くなっている。

 床に影が落ちる。

 だが、それはおかしかった。

 光源と一致しない。いや――そもそも、影が先にある。

 現実が、遅れてその形に追いついてくる。

 

 「……なに、これ」

 

 ミリアの声が震えた。

 俺も言葉を失う。

 影は徐々に濃くなり、輪郭を持ち始める。

 それに合わせて、空間が軋みながら埋まっていく。

 

 【新規存在:生成中】

 

 視界の表示が、まるで焦っているかのように点滅した。

 

 「今度は何?」

 

 「……分からん」

 

 本当に、分からなかった。

 俺の中で目覚めた【予定された未来】を見る力でも、表示が追いついていない。

 それどころか、何かを“後から補完している”ような、不安定さすら感じる。

 そして――

 “それ”が、生まれた。

 空間の歪みが弾けるように収束し、影に肉が与えられる。

 

 「……嘘でしょ」

 

 ミリアが息を呑んだ。

 人の形をしている。

 だが、人ではない。

 輪郭は確かに人型なのに、内部が空洞のように揺れている。

 皮膚の内側に何もなく、ただ“空間そのもの”が詰め込まれているかのようだった。

 時折、その体の内側が透け、背後の玉座が歪んで見える。

 

 「ボスの代わり……か」

 

 俺は低く呟く。

 遅れて、視界に文字が浮かび上がる。

 

 【代替ボス】

 【性質:未定義】

 【難易度:測定不能】

 

 「……最悪だな」

 

 難易度測定不能……

 こんな表示を見たのは初めてだった。

 つまり、基準そのものが存在しない。

 

 「ねえ、これ……本当に戦える相手なの?」

 

 ミリアが小声で問いかける。

 その問いに、俺は即答できなかった。

 目の前の存在は、こちらを認識しているのかどうかすら分からない。

 ただ、ゆらゆらと揺れながら、形を保つことに集中しているようにも見える。

 だが――

 次の瞬間“それ”の顔にあたる部分が歪んだ。

 いや、それが″歪んだように″見えた。

 輪郭が引き延ばされ、空洞がねじれ、そこに“表情”が生まれる。

 笑っている。

 あり得ない形で、確かに笑っていた。

 

 「……っ!」

 

 ミリアが一歩下がる。

 同時に、“それ”が動いた。

 足音はない。

 だが距離が、一瞬で詰まる。

 

 「来るぞ!」

 

 叫びながら、俺は武器を構えた。

 現実が、ようやく追いつく。

 戦闘が、始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ