第4話 修正は″殺しに来る″
【排除対象:レイ】
「……来るぞ」
そう言った瞬間だった。
“それ”が、消えた。
「――っ!?」
ミリアの息を呑む音。
次の瞬間、背後に気配を感じた。
振り向くより先に互いに地面を蹴り、その場を離れる。
ドンッ!!
さっきまで立っていた場所に、何かが叩きつけられた。
ゴゴゴゴゴゴッ!!
地面が勢いよく削れていく。
「な、なに、あれ……!」
ミリアの声は震えていた。
無理もない。
人の形をしているのに、人じゃない。
輪郭が朧げに揺れている。
質量があるのかすら分からない。
だが――
確実に、俺たちを殺しに来ている。
視界に文字が現れた。
【シナリオ修正端末】
【攻撃パターン:近接/高速】
【対処:回避優先】
「チッ……!」
「ミリア、下がれ!」
「でも――」
「いいから!」
強く言うと、ミリアは歯を食いしばって距離を取った。
判断は正しい。
あれは、普通に戦う相手じゃない。
「……見える」
問題はそこだ。
攻撃の“予定”は見える。
だが――
異常な速さだ。
【次行動:0.3秒後、右から打撃】
「……っ!」
とっさに身体を捻った。
風圧が頬をかすめる寸前でかわす。
ドカーン!!
音の方向へ目を向ける。
風圧だけで岩壁が抉れていた。
「危ねー!」
見えているのに、ギリギリだ。
「反撃は……」
視界を走らせる。
【有効打:低】
【持久戦:不利】
「……最悪だな」
削り合いは無理。
それなら――
「条件を探す」
フラグがあるはずだ。
こいつにも。
視界に集中する。
表示が増える。
【存在条件:逸脱の検知】
【維持条件:対象の行動継続】
「……なるほどな」
思わず笑いそうになる。
「ミリア!」
「なに!?」
「攻撃するな!」
「は!? なんで!?」
当然の反応だ。
だが――
「いいから止まれ!」
俺はその場で、完全に動きを止めた。
「レイ!?」
ミリアが叫んだが、無視だ。
目の前の“それ”が、こちらに迫る。
だが――
止まる。
ぴたりと。
俺の目の前で。
「……やっぱりな」
そのタイミングで視界の表示が変わる。
【対象:行動停止】
【逸脱度:低下】
【修正必要性:減少】
「攻撃しなければ、優先度が下がる……」
つまり。
“危険な動きをするやつだけ処理する”ってことか。
「……クソ仕様だな」
だが、こいつの仕様は分かった。
「ミリア、聞け」
耳元で囁く。
「動くな」
「え……?」
「一歩も動くな」
困惑しているのが分かる。
だが――ミリアは首を縦に振った。
その瞬間。
“それ”の輪郭が、わずかに薄れる。
【修正優先度:低】
【待機モード移行】
「……よし」
俺は小さく息を吐いた。
「一旦、止まった」
「……なにそれ」
ミリアが呆然と呟く。
「どういうこと?」
「簡単だ」
俺は目の前の存在を見ながら言った。
「“問題を起こすやつだけ処理する装置”だ」
「……は?」
「だから」
少しだけ口元を歪める。
「何もしなければ、見逃される」
――数秒の沈黙。
「……意味分かんないんだけど」
ミリアの率直な感想。
まあ、そうだろうな。
だが事実だ。
そして――
視界に、新しい表示。
【別イベント発生】
【北の廃城:進行中】
「……来たな」
「今度はなに?」
「本命だ」
俺はゆっくりと歩き出した。
“それ”の横を通り過ぎる。
何もしてこない。
完全に無視だ。
「……通れるの?」
「見ての通りだ」
振り返らずに答える。
「敵じゃない。ただの“調整装置”だ」
「全然″ただ″じゃないでしょ……」
小さくぼやいた。
ミリアが言ってることはもちろんあっている。
あれは、危険だ。
ただし――
「ルールはある」
俺は空を見上げた。
何も見えない。
でも確実に、“何か”がいる。
「それなら、攻略できる」
自信に満ち溢れながら呟いた。
その瞬間、表示が更新された。
【観測者:関心度上昇】
【評価:要注意対象】
「……は」
思わず笑う。
「気に入られたか、嫌われたか」
どっちでもいい。
やることは変わらない。
フラグを見つけて、折る。
それだけだ。
「行くぞ、ミリア」
「……うん」
そのまま俺たちは、北へ向かう。
――本来なら、勇者が死ぬはずだった場所へ。




