第3話 未来は変えられるが、代償はあるらしい
【観測者:興味を示しました】
「……は?」
最後に見えたその一文が、頭から離れない。
興味?
誰が?
何に対して?
「さっきから、何が見えてるの?」
隣を歩くミリアが、不審そうにこちらを覗き込む。
当然だ。
俺はさっきから、何もない空間ばかり見ている。
「……ちょっとな」
曖昧にごまかす。
まだ説明するには情報が足りない。
下手に話しても混乱させるだけだ。
それより――
視界の端に、また新しい表示が浮かんでいた。
【街道:イベント発生】
【内容:商隊襲撃】
【発生まで:00:02:18】
「……来たな」
「え?」
ミリアが顔を上げる。
「何かあるの?」
「ああ」
俺は前方を指差した。
「この先で、商隊が襲われる」
「……どういうこと?」
疑いではない。
確認だ。
「あと二分ちょいだ」
「具体的すぎない?」
「そういうもんだからな」
軽く言って、歩く速度を上げる。
ミリアもすぐについてきた。
「……助けるの?」
「どうすると思う?」
「……助けるんでしょ」
即答だった。
俺は少しだけ笑う。
「まあな」
視界のカウントが減っていく。
01:30。
01:00。
「見えた」
街道の先に、荷馬車が見える。
商隊だ。
そして――
その周囲に、不自然な影。
【盗賊:襲撃準備中】
「まだ始まってない」
俺は小さく呟く。
「なら――間に合う」
「どうするの?」
ミリアが剣に手をかけながら聞く。
正面から行けば、普通に戦闘になる。
それでも勝てるだろうが――
それじゃ遅い。
視界に、新しい情報が浮かぶ。
【成功条件:奇襲】
【失敗条件:正面衝突】
「……なるほどな」
「何か分かったの?」
「ああ」
俺は頷いた。
「正面から行くと面倒になる」
「じゃあ?」
「裏から潰す」
シンプルだ。
「ついてこい」
俺は街道を外れ、森の中へ入った。
「ちょ、ちょっと待って!」
ミリアが慌てて後を追う。
木々の間を抜けながら、位置を調整する。
視界には、敵の配置が“文章”で表示されている。
【盗賊A:左側、弓】
【盗賊B:荷馬車裏、短剣】
【リーダー:後方、指示】
「……丸見えかよ」
思わず苦笑する。
これはもう、戦闘じゃない。
作業だ。
「ミリア」
小声で呼ぶ。
「なに?」
「左の弓持ってるやつ、先にやれ」
「……分かるの?」
「ああ」
「……了解」
短く返事して、ミリアが動く。
気配を消し、静かに接近。
――そして。
ガッ!
鈍い音。
弓を持った盗賊が、声も出せずに倒れた。
「っ……!」
ミリアが一瞬だけこちらを見る。
“本当に当たった”という顔だ。
「次」
俺は指示を続ける。
「荷馬車の裏。ナイフ持ち」
「……うん」
今度は迷いがない。
ミリアが滑るように動き、もう一人も仕留める。
残るは――
「リーダーだけだな」
【リーダー:撤退判断まで残り15秒】
「逃げるぞ」
「え?」
「その前に潰す」
俺は木陰から出た。
「おい」
声をかける。
盗賊のリーダーが振り向いた。
「なっ——!?」
その顔に浮かぶのは、明確な動揺。
当然だ。
仲間が消えている。
「てめぇ、いつの間に――」
最後まで言わせない。
その一瞬の隙を、ミリアが突いた。
鋭い一閃。
リーダーの体が崩れ落ちる。
静寂。
戦闘は――終わった。
「……終わり?」
ミリアが呆然と呟く。
「ああ」
俺は肩をすくめた。
「予定通りだ」
「……何それ」
苦笑とも、呆れともつかない声。
だが、その目ははっきりと変わっていた。
疑いじゃない。
確信だ。
「本当に見えてるんだ……」
「ああ」
否定はしない。
その必要もない。
そのとき。
商隊の方から、慌てた声が聞こえた。
「た、助かった……!」
「盗賊が……いない?」
騒ぎになっている。
まあ、当然だ。
何も起きていないのに、危機だけ消えたんだから。
「……行くぞ」
俺は踵を返した。
関わる必要はない。
だが――
その瞬間。
視界が、わずかに歪んだ。
「……?」
違和感。
今までと違う。
そして。
新しい表示。
【イベント結果:改変成功】
【評価:過剰介入】
「……は?」
過剰?
さらに、その下。
ゆっくりと、文字が浮かぶ。
【修正処理:実行】
「うっ――」
次の瞬間。
空気が変わった。
音が消える。
風も、気配も。
すべてが一瞬だけ“止まった”ような感覚。
「なに、これ……?」
ミリアも気づいたらしい。
周囲を見回している。
そして——
現れた。
何もなかった空間に。
“それ”が。
人の形をしている。
だが、顔がない。
輪郭が曖昧で、揺れている。
「……おい」
思わず呟く。
視界には、文字が浮かんでいた。
【シナリオ修正端末】
【状態:アクティブ】
【目的:逸脱の補正】
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
「マジかよ」
ただの表示じゃなかった。
本当に“来る”のか。
修正が。
現実に。
「レイ……これ、何?」
ミリアの声が、わずかに震える。
……説明してる暇はないな。
目の前のそれが、ゆっくりとこちらを向く。
そして。
視界に、最後の一行。
【排除対象:レイ】
「……来るぞ」
俺は短く言った。
「下がれ、ミリア」
次の瞬間――
世界が、明確に“敵意”を持って動き出した。
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