第3話 未来改変〜動き出す謎の刺客
【観測者:興味を示しました】
「……意味がわからない」
最後に見えたその一文が、頭から離れない。
観測者?
興味を示す?
――
――
――
俺たちは北東の廃城を目指して街道を歩いていた。
周囲は見通しが良く、どこまでも続く緑の平原が広がっている。
ここは一本道だからひたすら進むだけだ。
さっきの文字が気になり、独り言のようにブツブツ言いながら思考を張り巡らせる。
「さっきからブツブツ言って、何考えてるの?」
隣を歩くミリアが、俺のその様子を見てこちらを覗き込んできた。
そこでふと我に帰った。
どのくらいの時間、考え込んでいただろう。
周りの景色は変わっていなかった。
またミリアの方へ目を向ける。
可愛らしく目をパチパチさせて、俺の次の言葉を待っているようだ。
ミリアの好奇心旺盛なところは、昔から変わってないな。
「……さっき見えた文字が気になってな」
まだ何も答えは出ていない。
説明するには情報が不十分だった。
下手に説明して逆に混乱させてしまったら元も子もない。
それより――
視界の端に、また新しい文字が浮かんできた。
【街道:イベント発生】
【内容:商隊襲撃】
【発生まで:00:02:18】
「……カウントダウン付きのイベント発生?」
ミリアが顔を上げて反応した。
「これから何か起こるの?」
俺は頷いて前方を指差した。
「予定では、この先で商隊が襲われるみたいだ」
「……こんなのどかな雰囲気なのに?」
意味が分からないといった様子だ。
「だからこそ襲うのにちょうど良いってこともあるのかもな。まずい、襲われる予定時刻まであと二分ちょいだ」
「そこまでわかるの?」
「鑑定レベルによるのかもしれないが、今回はハッキリとわかった」
そう言って、俺はミリアに走るよう指示する。
ミリアは頷くと、駆け出した。
視界のカウントが減っていく。
01:26。
00:58。
「見えた! あそこだ!」
街道の先に荷馬車が見える。
恐らくあれが商隊だ。
再び文字が浮かび上がってきた。
【盗賊:襲撃準備中】
「まだ襲われていないようだ。今ならまだ間に合う」
俺は小声で呟く。
「どうするの?」
ミリアが手を剣にかけながら聞く。
正面から行けば、普通に戦闘になる。
それでも勝てると思うが、万全を喫したい。
視界に新しい情報が浮かんでくる。
【成功条件:奇襲】
【失敗条件:正面衝突】
「……なるほどな。正面から進むと何かまずいことが起こるらしい」
「じゃあどうしたらいいの?」
「正面じゃなく、裏から潰す」
正面衝突じゃ失敗するなら、回り込んで奇襲すれば良い。とてもシンプルな戦法だ。
「こっちだ!」
俺は街道を外れ、森の中へ入った。
「ちょ、ちょっと待って!」
ミリアが慌てて後を追う。
木々の間を抜けながら、ちょうど良い場所を探す。
視界には敵の配置が“文章”で表示されている。
【盗賊A:左側から弓で攻撃】
【盗賊B:荷馬車裏から短剣で突進】
【リーダー:後方から指示】
「……相手の動きは丸見えかよ。イージーだな」
思わず苦笑する。
これはもう戦闘じゃない。
ただの作業と同じだ。
「ミリア」
小声で呼ぶ。
「なに?」
「左の弓持ってるやつ、先に倒してくれ」
「……分かるの?」
「ああ」
「……了解」
ミリアは短く返事をすると、気配を消して静かに接近した。
――そして。
ガッ!
鈍い音がした。
弓を持った盗賊は声も出せずその場に倒れた。
ミリアは確認のために一瞬だけこちらを見る。
俺はオッケーサインを出した。
そのまま指示を続ける。
「荷馬車の裏に回れ。短剣を持ってるから気を付けろ」
「……わかった」
ミリアは俊敏に動き、あっという間にそいつも仕留めた。
残るは――
「リーダーだけだな」
ミリアは俺の指示を待っている。
【リーダー:撤退判断まで残り15秒】
まずい、逃げようとしている。
リーダーまでの距離は俺の方が近い。
ここは俺の出番だな。
「撤退なんてさせるか」
俺は木陰から出た。
「おい、何をしている!」
俺は声をかけた。
なんか保安官になった気分だ。
盗賊のリーダーは振り向いた。
「なっ——!?」
その顔に浮かぶのは、明確な動揺。
それもそのはずだ。
仲間がいつの間にか消えているのだから。
「てめぇ、いつの間に――」
最後まで言わせない。
ミリアはその一瞬の隙を突き、鋭い一閃を浴びせた。
リーダーの体が崩れ落ちる。
戦闘は――終わった。
「……もう終わり?」
ミリアが質問してくる。
俺は頷いた。
「俺の予定通りになった」
「……何それ」
ミリアは不思議そうに言う。
その目を見て俺は思った。
疑いから確信へ変わったと。
「本当に見えてるんだね」
「ああ。ようやく見えるようになってきた」
俺も自分の見えているものが間違っていないと確信した。
そのとき――
商隊の方から、慌てた声が聞こえてきた。
「た、助かった……!」
商隊の一人が歓喜の声を上げている。
俺たちが盗賊と戦っている姿を目撃していたようだ。
騒ぎになっているが、当然だろう。
まだ何も起きていないのに、危機的状況だけが消えたんだから。
「ミリア、先を急ごう」
俺は踵を返した。
商隊の方々は満面の笑みで見送ってくれた。
視界には文字が表示されている。
「……?」
今までとは違う、新しい文章だった。
【イベント結果:改変成功】
【レイ:過剰介入】
「……どういうことだ?」
過剰?
更にその下からゆっくりと文字が浮かんでくる。
【修正処理:実行】
「うっ――」
頭が割れるような痛みが走った。
次の瞬間、空気が変わった。
音が消え、風も、気配も無くなるような――
すべてが一瞬だけ“止まった”ような感覚に陥る。
「なに、これ……?」
ミリアも異変に気付いたらしい。
周囲を見回している。
そして――
何もなかった空間に“それ”が現れた。
人の形をしている。
だが、顔がない。
輪郭が曖昧で、揺れている。
「……おい」
思わず呟く。
視界には、文字が浮かんでいた。
【シナリオ:修正中】
【状態:アクティブ】
【目的:シナリオ逸脱の補正】
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
「マジかよ」
ただの文字じゃなかった。
修正しに″それ″が出現したというのか……
俺たちをどうする気だ?
「レイ……これ、何?」
ミリアの声が、わずかに震える。
……説明してる暇はないな。
目の前の″それ″が、ゆっくりとこちらを向く。
そして。
視界に、最後の一行。
【排除対象:レイ】
「……来るぞ」
俺は手短に言った。
「下がれ、ミリア!」
次の瞬間――
世界が、明確に“敵意”を持って動き出した。
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