番外編 レイの旅立ち
「レイ、レイ、起きなさい。今日はあなたの誕生日。十五歳になったら冒険者として歩んでいくんだって言ってた日じゃない」
ムニャムニャ……
「もう、レイったら。起きないなら知らないわよ……」
ムニャムニャ……
なんだ?
もう朝か……
日差しが眩しい……
今の声は母さんか……?
「か、母さん! 今何時?」
俺は慌てだした。
「もう九時よ。あなた、八時に起きて準備するって張り切ってたじゃない」
すっかり忘れてた。
昨日は今日の事が楽しみで、なかなか寝付けなかった記憶がある。
いつの間にか寝ちゃってたんだな。
「この後十時から神様の神殿でスキル授与式が始まるわ。遅れないようにね」
俺は急いで支度を始めた。
冒険者か……
憧れていた職業だった。
この世界には様々な役割がある。
例えば――
食事を作ることが得意な者はコック。
道具を売ることが得意な者は商人。
武器を扱うのが得意な者は剣士など。
魔法を使うのが得意な者は魔法使いなど。
コックや商人などは冒険者にならず、そのまま街で働く者も多い。
剣士や魔法使いなどは、冒険者として旅立ち、そこから一定の成果を上げた者は独立開業する者もいる。
俺は――
「元勇者、オルカンみたいになるんだ!」
沸々と熱い思いが込み上げてきて、思わず口に出してしまった。
幼少期からオルカンに憧れて、俺は冒険者を目指すことにした。
憧れた理由は――
◇
あれは六歳の時だった。
当時の俺は右も左も分からないまま、街外れの森で虫捕り遊びをしていた。
日が暮れた頃、森の奥の方からガサゴソと音がした。
俺は興味本位でその音がした方へと向かった。
そしたら、ヤツらがいたんだよな。
だらしなく涎垂らしながらゴブゴブ言ってるゴブリン達が……
あの時はもうダメかと思ったな。
追いかけてくるゴブリン達。
悲鳴を上げながら逃げ回る俺。
一匹のゴブリンに追いつかれ、俺の目の前で爪を振りかざす――
「大丈夫か、坊主」
間一髪だった。
目の前に大男が突然飛び出して、大剣でゴブリンを一撃で仕留めた。
それがオルカンだった。
俺はその後、オルカンに夢中になった。
オルカンのように強くなるために日夜剣の修行、魔法の修行、色々やったもんだ。
だが、剣の腕はなかなか上達せず、魔法はからっきしダメだった……
あの頃オルカンの活躍を耳にするたびに夜も眠れないくらい興奮してたな――
◇
俺は昔の懐かしい記憶を思い出しながら神様の神殿へ向かって歩いていた。
どんなスキルが付与されるんだろう。
期待で胸が高鳴っている。
オルカンのように剣術に特化したスキルだったら嬉しいな。
そんなことを考えていると、神様の神殿が見えてきた。
神殿自体は白を基調とした建物で、誰でもいつでも気軽に祈願することができた。
俺は扉の前まで走った。
ドアを開くと、内装も辺り一面が白で、大きな柱が何本か見えた。
奥には神様に近い存在と言われている、神の血筋を引くお爺さんが立っている。
俺と同じ誕生日の青年が何人か先に来ていた。
俺は足早にその列に並んだ。
一人、また一人と、様々な感情が入り混じる光景を見ていた。
望み通りのスキルを付与された者、その逆も然りだった。
俺の番が回ってきた。
「さあ、お主の特性を見させてもらおう。」
ついに始まったな。
俺は頷くと、目を閉じた。
「ふむ。お主は剣術に特化したスキルを求めているのか。だが、剣術の能力はイマイチじゃな。魔法はどうかのう。魔法はもっとダメじゃ。ならば……」
俺の特性を見てくれているのは分かる。
だけど、あまりにもストレート過ぎてだんだん悲しくなってきた。
「ふむふむ。観察力、洞察力、ともに高水準じゃな。お主は鑑定士のスキルを授与しよう」
鑑定士!?
なんでだよ……
俺はオルカンのように第一線で戦って、弱い人を助けたかったのに……
「ありがとうございます……」
俺は落胆した。
この日が来るのを指折り数えていたのに。
あんまりだ……
俺は帰ってから母さんにこのことを伝えた。
「あら、鑑定士なんて素敵じゃない! なりたくてもなれない子だっているのよ」
母さんは励ましてくれた。
でも戦闘職じゃないじゃないか……
「前線に立つことが全てじゃないわ。一緒に冒険してくれるお仲間さんのサポートだって、立派なお仕事よ。縁の下の力持ちってやつね」
母さんはとてもポジティブだ。
俺はこんな母さんの息子で心底良かったと思っている。
◇
歳月は流れ、俺は鑑定士として様々なものを見るように日頃から訓練していた。
時には視点を変えて、表面では見えない心の奥底を見ようとしたり、相手の言葉の裏を読むようにするなど、訓練は欠かさなかった。
「母さん、今日は街外れの子供を助けてきたよ!」
その子がいじめられて困っているという悩みを耳にしたので、俺が心のケアといじめっ子に対して、いじめから派生する良くないことを伝えると、すぐ仲直りしてくれた。
そういった最近の出来事を事細かに母さんに伝えるのが俺の毎日の楽しみだった。
「そろそろギルドに行って、冒険者のお友達を作る時期かもね」
そうだった。
俺は鑑定士の修行に明け暮れて、仲間を増やすということを忘れていた。
「わかった! もう少ししたら行ってみる!」
母さん、いつも応援してくれてありがとう……
――
――
――
次の日の昼、いつも通り鑑定士の修行をしていると、俺の家の方が騒がしかった。
胸騒ぎがしたので、俺は急いで家に向かった。
「あんた、あの家の子かい?」
途中で話しかけられた。
「そうですが……」
「さっき魔王軍と戦っていた冒険者たちが、魔王軍の攻撃をかわしたらしいんだ。そしたらアレだよ……」
俺はその人が指差した方へと目を向ける。
そこには――
あったはずの俺の家、隣接していた家屋全てが跡形もなく消えていた。
「冒険するのもいいけど、巻き込まれるのは勘弁だな」
俺はその言葉を聞き終わると同時に、駆け出した。
母さん、母さん、母さん、母さん……
……
息切れしていた。
今までこんなに速く走ったことなんてなかった……
俺の家があった場所で立ち止まった。
「母さん……」
俺は涙を流していた。
降り止まぬ雨のように。
立っていられなくなり、その場で崩れ落ちた。
なんでだよ……なんでだよ……
俺や母さんが何したっていうんだ……
心臓の鼓動が聞こえてくる。
俺は絶対許さねー。
心に誓った。
――
――
――
とりあえずギルドに行こう。
俺は住む場所を失ったので、ギルドに行って冒険者仲間を探し、同行することにした。
ギルドに行くと、勇者、剣士、魔法使いの三人が鑑定士を探しているという情報が聞けた。
三人組を対象に声をかけて回ると、該当者を発見した。
勇者の名はアルド。剣士はミリア。魔法使いのリナ。
三人はそう名乗った。
俺も自分の名を名乗ると、今の状況を簡潔に伝えた。
三人とも快諾してくれて、俺は四人パーティーを組むことになった。
どうやら、魔王軍を討伐するミッションを受けていたらしく、俺の目的とも合致した。
母さんと俺の家を消し飛ばしたヤツに復讐できる、その日を夢見て。
――
――
――
数日後、俺たちはダンジョンに潜っていた。
「おい、レイ。あの宝箱を鑑定してみてくれ!」
俺は冒険者として鑑定するのは初めてだった。
早速鑑定スキルを使用してみる。
【鑑定……】
おや?
鑑定の文字は見えるけど、その先の文字が全く見えないぞ。
「どうだ? 変なものとか入っていないか?」
……
……
もう一度試してみる。
【鑑定……】
……
……
何度やっても同じだった。
「お前、まさか鑑定士なのに鑑定できないのか?」
そんなはずはなかった。
あの時は神様から鑑定士として鑑定のスキルを付与されていたはずだからだ。
「ごめん、今の俺にはまだ見えないらしい」
アルドは困り果てた顔で言う。
「まぁ、いい。今は見えなくても、いつか見えるようになるんじゃないか」
アルドは楽観的だった。
俺はそんなアルドが好きだった。
「ああ、きっと一人前の鑑定士になってみせるぜ」
俺は語気を強めて言った。
みんなもそれに期待して、笑顔で振る舞ってくれた。
◇
それから数ヶ月が経ち、このパーティーで戦い慣れてきた頃、俺たちはギルドに来ていた。
そこで得た情報によると、俺の母さんや家を消し去るキッカケとなったパーティーは既に壊滅していて、攻撃をした魔王軍が近くに来ているという話を聞けた。
俺はそのパーティーにも多少恨みはあったが、復讐相手の魔王軍を討伐できるまたとないチャンスに歓喜した。
早速準備をすると、俺たちはその魔王軍のいるダンジョンへと足を運んだ。
道中、雑魚がわんさかいたが、俺たちの強さで蹴散らしていった。
最深部まで辿り着くと、魔王軍の一人がいた。
「お前が母さんと家を消し飛ばしたヤツだな!」
そいつはなんのことかサッパリという表情をしていた。
そのあっけらかんとした表情を見て、俺は怒りが込み上げてきた。
「このやろー! とぁー! はぁーーー!!」
俺は素早く斬りつける。
アルドやミリアやリナも援護してくれた。
そいつは苦悶に満ちた表情を浮かべながら呻き声を上げている。
「よくも! よくも! よくもーーーーー!!!」
最後の一振りが決まる。
俺は泣いていた。
この日が来るのを待ち侘びていたからだ。
そいつは跡形もなく消し去った。
「母さん……やっと敵討ちができたよ……」
俺は胸を撫で下ろした。
ようやくこの時が来た。
「レイ、よくやったな。俺はお前の剣術も信じていたぞ」
「レイ、凄いじゃない。見直したわ」
「レイ、鑑定はまだまだだけど、強くなったわね」
アルド……色々迷惑かけたけど、俺を信じてくれてありがとな。
リナ……お前の魔法にはいつも助けられていた。今度は俺が助ける番だ。
ミリア……いつもお前の剣術を見ていた。剣捌きを盗もうと俺は必死だった。それが今回報われたようだ。
「みんな……ありがとう……」
俺の旅は始まったばかりだ。
仇は討ったが、魔王軍はまだまだ山のようにいる。
全ての魔王軍を討伐するまで、俺は諦めない。
みんなが支えてくれる。
俺もみんなの支えになりたい。
どんな困難であろうと、このパーティーなら越えていけるはずだ。
俺たちは最強の勇者パーティーだ。
お忙しい中、貴重なお時間を使ってここまでご覧いただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたなら本望です。
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