第15話 魔王軍の一人と対峙
レイ……レイ……起きなさい。
何やってるの……
あなたはこんなところで死ぬ人間じゃないじゃない……
わたしの可愛い息子……
さぁ、わたしの手を取りなさい……
◇
どこからともなく温かい声が聞こえてくる。
その声はなんだか聞き覚えのある声だった……
母さん……なのか……?
俺は差し伸べられた手をギュッと掴んだ。
すると、この場から引き上げられる感覚があった……
本当はこのままここにいられれば良かったのに……
◇
ハッと意識が戻った。
さっきのは一体なんだったのだろう……
すぐに周りを見渡してみた。
みんな白くなってきている。
「おい!! 起きろ!! みんな!!!」
俺は必死に叫んだ。
――
だが反応は無い。
「キキー! さぁ、お楽しみの時間だ。どいつから刺し殺してやろうか……」
パープルモンキーが不敵な笑みを浮かべながらターゲット選びを楽しんでいた。
「キキー! コイツに決めた!」
最初に選んだのはファルだった。
「コイツが一番強そう。だから最初に殺しちゃお」
「ファルーーー!! 目を覚ませ!!!」
俺は必死に叫んだ。
「死ねーーー!!」
――
クソっ。俺の身体が動かせれば少しは状況を変えられたはずなのに……
悔やんでも悔やみ切れない。
無能な鑑定士ですまない……
――
ボッ!
ブォーーーーーーー!!
ゴーーーーーーーーーーー!!!
ファルの全身が炎に包まれていた。
「ファル!?」
「我はこんな氷結攻撃などで鎮火されるほど柔じゃないわ」
「ファルーー!!」
良かった。
ファルはやっぱり強いヤツだ。
「キキー! 今までこの吹雪で完全に凍らなかったヤツなどおらぬ」
「そうか。初めて凍らなかったヤツが我で良かったな。ファイヤーストーム!」
ファルの熱気が俺たちを包み込み、徐々に凍っていた身体が温まり始めた。
「ファル、ありがとう!」
「ファル、身体が動くぜ!」
「おいどんも動くようになっちょる!」
みんな目が覚めて元通りに戻ったようだ。
「よし! 今度はこっちの番だ! 同じ手は食わないぜ!」
「キキー! 今度はこれでどうだ!」
パープルモンキーは持っていた槍を振り回し始める。
槍の周囲に氷の刃の様なものが形成され始めた。
「キキー! この刃はお前らの身体をズタズタに切り裂くだろう。いけ! アイスブレイド!」
「ストーンブロック」
人型の岩が防御魔法を使用してくれた。
ガガガガガガガガ!
鉄壁の防御とでも呼べるであろう。
パープルモンキーの技を完璧に抑えている。
「キキー! なんだと!?」
「おいどんのガードは硬いぜよ!」
よし、今のうちだ。
俺とミリアでダブル斬撃をお見舞いしてくれる。
「ミリアは左から回り込んでくれ! 挟み撃ちだ!」
「わかったわ!」
ミリアの俊敏さでパープルモンキーに気付かれるより前に背後へ回ることができた。
俺は正面から行くぞ。
「てやーーーー!!」《「はぁーーーー!!」》
ザシュッ!!
よし、手応えはあるぞ。
「キキー! おのれ、よくもやりおったな……」
パープルモンキーはフラフラしていた。
「よし、ミリア! 最後の一撃をお見舞いするぞ!」
ミリアは頷くと、同時に飛びかかった。
「キキー! アイスストーム!」
またあの吹雪だ。
「ファイヤーストーム」
ファルが冷静に援護してくれた。
パープルモンキーの凍える様な吹雪をかき消していく。
「今だ! ミリア!」
ザンッ!!
一瞬だった。
ミリアの太刀筋はあまりにも速過ぎて目視では追えなかった。
「キキー! 何も起こっておらぬぞ」
「あなた、自分の身体がどうなっているかお分かり?」
ミリアの冷徹な言葉を聞くのは初めてだった。
自信に満ち溢れ、余裕すら見える表情。
「キキー!? なんか視界がズレ……」
パープルモンキーの身体が徐々にズレ始めた。
顔、腕、体、足、尻尾など、様々な部位が綺麗に切り裂かれていた。
あの一瞬の出来事でここまで切り刻んでいたなんて。
パープルモンキーだったものは、そのまま地面にポトポトと落ちていった。
「やったぞ! 流石ミリアだな!」
「ありがと!」
「ファルも人型の岩もありがとな!」
「なんのこれしき」
「おいどんも役に立てて良かった」
やっとの思いで強敵に勝てたことで皆歓喜に沸いた。
「そういえば……まだこの人型の岩さんの名前決めてなかったね」
そうだった。
連戦でそれどころではなかったからだ。
やっと落ち着けた……
「ロックっていう名前はどう?」
「また、そのままだな」
俺は苦笑しながら言った。
人型の岩……
……
「ロックとブロック、そのブから濁っていない純粋さを意味してフロックはどうだ?」
「それも良いかもね!」
「おいどんは何でも良か」
「じゃあ、決まりだな! これからはフロックって呼ばせてもらうぜ!」
また1人仲間が増えた。
我々に足りなかった防御役という貴重な存在だ。
【レイ:鑑定レベルが4に上がった】
おっ、また鑑定レベルが上がったようだな。
でもレベルが上がっても実感が湧かないんだよな。
きっと何か変化してるのだろう。
俺はそう信じることにした。
「さぁ、ギルドへ報告に戻ろう」
一同は頷くと、来た道を歩き出した。
目の前に文字が表示されていたので俺は立ち止まった。
【パープルモンキー:予定通り討伐】
【死亡フラグ:ギルドマスター。死亡確率60%】
「なんだと! パープルモンキーの討伐は予定通りだった!? ギルドマスターの命が危ない!!」
「なによそれ」
「わからない……ただ、俺たちの行動はアイツらの手中にあって、予定通り進んでいると……」
「なんか踊らされてるみたいね」
「あながち間違いではないかもしれないな……」
観測者……魔王軍……勇者パーティー……
この世界が誰かの手によって作られたものなのかどうか、この目で確かめてやる。
俺は胸に誓った。
「とりあえずギルドへ急ごう。ギルドマスターが心配だ!」
我々は駆け足で街を目指した。
途中、お爺さんが滞在していたテントが横目に見える。
お爺さんはどこに行ったのか……
既に殺されてしまっているのか……
今はそれどころではない。
早くギルドマスターの安否を確認しなければ。
――
道中は何も問題無く進むことができた。
この辺りは街に近いということもあって、ギルドから依頼された冒険者達がモンスターを討伐してくれているからだろう。
そんなことを考えていると、街が見えてきた。
「良かったわ。特に変わりは無さそうね」
「ああ。今のところは大丈夫そうだな」
俺たちは何気ない会話をしながらギルドを目指した。
ギルドは北西の入口から割と近いところにある。
会話を続けているとあっという間に辿り着いた。
「やっと帰って来れたわね」
「そうだな。とりあえず中に入ってみよう」
俺はスイングドアを開き、中へと足を踏み入れた。
相変わらず人が多い。
脇目も振らず受付のお姉さんの方へ向かう。
「ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「あら、あなたは。マスターから北西の塔の依頼を受けてくれた方じゃない。今呼んでくるわね」
受付のお姉さんはバックヤードに向かった。
――
待つこと数分。
「おー! おめーら! その顔を見ると、塔の依頼はこなせたって感じだな!」
相変わらずの威圧感だった。
俺たちは今までの経緯を事細かに説明した。
「そんなことがあったのか! 気の毒だがテントの爺さんはダメかもしれないな。街に戻ってきたっていう報告は受けてないからな」
そうか……
会ったこともない人物だが、身近で人が亡くなるという話を聞くと、憂鬱になるものだ。
――
俺はさっき見えた″ギルドマスターが死亡する″フラグが本当か、直接鑑定することにした。
【鑑定結果:ギルドマスターの死亡フラグ発生中。死亡確率60%】
やはり変わっていなかった。
俺は大切なことなので、このことをギルドマスターに伝えることにした。
――
「なんだってー! 俺が死ぬだと! ワッハッハッハッハッハッ! 俺は引退した身だが、元勇者パーティーの一人だぞ! そう簡単にやられてたまるかー!」
慌てふためくかと思っていたが、随分余裕がありそうだ。
そのセリフを聞いて、俺はホッとした。
「まぁ、相当昔の話だからな! ただ、だいぶ身体は鈍ってると思う。昔の仲間に連絡を取ってちと鍛錬でもするかな」
死亡フラグは見過ごせない。
俺はマスターの護衛がしたいと思っていた。
「俺たち、マスターの護衛がしたいです!」
頼んでみることにした。
「おっ! やっぱり俺の目に狂いは無かったな! だが、なんか弱そうなんだよな」
「我を馬鹿にするのか! 我は強いぞよ」
ファルが威勢よく反応した。
「あー、わりぃわりぃ。否定するつもりで言ったんじゃなくて、お前らも一緒に鍛錬しないか? と思ってな」
そういうことか。
それなら納得だ。
「なんじゃ、そういうことだったのか」
ファルは大人しくなった。
強大な敵の存在、俺たちの無力さは痛感していた。
元勇者パーティーの方々なら相当腕に自信があるだろう。
俺たちの戦力の底上げになるかもしれない……
「そうと決まれば、今日は俺ん家に泊まれ! そして明日から鍛錬するぞ!」
願ったり叶ったりだ。
宿をどうしようか考えていたところだった。
俺たちは期待に胸を膨らませていた。
「やっとシャワー浴びれるわね」
ミリアは嬉しそうに言った。
そうだった。
街に着いたらシャワーを浴びる予定だったが、ギルドに行ってからトントン拍子に話が進んでしまい、すっかり忘れていた。
「じゃあ、俺も仕事を切り上げるから、ギルドの裏口で待っててくれ!」
マスターからそう告げられ、俺たちはギルドを後にした。
明日からのことを想像するとテンションが上がってくる。
そんな想像をしていると、マスターがギルドから出てきた。
「俺ん家はここからすぐのところにある。ギルドに近い方が移動が楽だからな!」
俺たちはマスターの背中に追いつくように歩き出した――
強敵と渡り歩くため、死亡フラグが発生した人を守るため、予定された未来を変えるため、俺は戦い続けると心に決めた。
お忙しい中、貴重なお時間を使ってここまでご覧いただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたなら本望です。
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