第14話 観測者との対峙
「きゃーーーーーーー!!」
ミリアの悲鳴が塔全体に響き渡る。
俺はミリアから目を離さないようにしながら、落下予定地点へと駆け出した。
想像していたより落下スピードが速い。
このままだと――
「ミリアーーーーー!!」
落下予定地点へと飛びついて捕える予定だった――
あと少し……
俺はミリアの身体を抱き抱えている姿を想像していた。
だが、現実は違った。
無慈悲にもミリアの身体に触れられるか触れられないかというところで触れられなかった……
あぁ、なんということだ。
悔やんでも悔やみきれない。
ミリアを死なせてしまうなんて……
無力だ……
俺は床に突っ伏していた。
落涙しているのか、水滴がポタポタと滴り落ちる。
「なんじゃ、レイ。お主、そこで何をしておる」
ファルの声が聞こえてくる。
いや、ファル。俺はミリアを救えなかったんだぜ。
そりゃ、落胆するさ……
「レイ、私は無事よ」
何故かミリアの声も聞こえてきた。
きっとここは天国と繋がっているんだろう。
ミリアの声が聞こえてくるはずがない。
ミリア……ミリア……
俺は顔を上げて声がした方へと目を向けた。
そこに映っていた景色は――
「ミリア!? ミリアなのか!?」
「そうよ、さっきから喋りかけてるじゃない」
何かがおかしい。
俺はあの時ギリギリのところでミリアに触れられなかったからだ。
「何が起こってるのかさっぱりと言った表情じゃな。説明してやろう」
――ファルの説明によると、俺が駆け出したタイミングで、間に合わないと判断して、猛スピードでミリアの元へ向かったらしい。
ファルの火の玉形態は弾力性があるようで、ミリアの下敷きになっても大丈夫と踏んだようだが、実際のところ思ったより衝撃が強かったみたいで、この塔の構造の衝撃吸収のおかげで事なきを得たようだ。
「とにかく間に合って良かった! 塔が崩れるぞ! 早く出よう!」
俺は二人にそう言うと、急いで外へ飛び出した。
その直後――
ドンガラガッシャーーーン!!
塔だったものが脆く崩れ去っていく。
俺たちの戦いは終わった――かのように思えた。
「クックックックッ」
不気味な笑い声が聞こえる。
俺はその声がする方向へ目を向ける。
テントのお爺さんが立っていた。
「あなたは――あの時の――」
「左様。貴様たちとテントで会った翁だ」
あの時の雰囲気とは違い、どこか不穏な空気を感じた。
「貴様らはここで死ぬはずだった。だが、またしても未来を書き換えられてしまったのだ」
目の前に突然文字が浮かび上がった。
【死亡フラグ:消滅】
俺たちの死亡フラグが消滅した。
「お前は一体何者だ!」
俺は少し動揺していた。
全く未知の生命体に出くわした感覚だったからだ。
「我輩はこの世界の観測者だ」
「なんだと!」
観測者直々に出てくるとは想定外だった。
俺は即座に鑑定を始める。
【鑑定結果:未知の生命体】
【それ以外は不明】
俺は落胆した。
何もかもが謎すぎる。
「我輩が作り出した未来を壊す者よ。貴様らは邪魔者だ。予定は狂ったが、ここで死ぬが良い」
狂気に満ちた笑顔を浮かべながら言い放った。
と同時に不気味な動作を始めた。
俺たちは身構える。
「ファッハッハッハッハッ!」
強烈な風が吹いてきた。
その風が刃のように変形した。
「それは″かまいたち″という技だ。貴様たちの身体が全て切り刻まれるまで止まらぬ」
シュンシュンシュンシュンシュン!
「うっ……」
防御をしていても風圧に圧倒され、刃をかわすのもままならない。
このままだと本当に切り刻まれてしまう……
どうする……どうする……
「ファイヤーストーム!」
ファルが魔法を使ってくれた。
「我の風圧で押し返してくれるわ」
ファルのファイヤーストームの威力は物凄い。
いけるか!?
「クックックックッ。その程度の魔力で我輩のかまいたちを退けられると思ったか!」
「――なっ!?」
ファルのファイヤーストームが押し返されてるだと!?
「我の魔法で歯が立たぬとは」
絶望……
俺は生まれて初めて味わった。
今までは、なんとかなるの精神で困難は乗り越えて来られた。
だが、絶対的な戦力差、鑑定も効かないとなると、なす術がない。
俺たちの旅はここで終わるのか……
「ストーンブロック!」
「っ!?」
どこからともなく声が聞こえてきた。
ガードの隙間から覗いてみると――
岩のような人型の何かによって、かまいたちから守られている。
「おいどんはさっきまで塔だった者。お前たちのおかげで元の姿に戻れた。礼を言う。」
なるほど。
塔の″コア″に封じ込められていたのか。
「貴様、我輩の攻撃が効かぬと言うのか!」
「おいどんは特別な岩石でできちょる。こんな風圧で崩れる身体じゃなか」
「それなら、これでどうだ。ダブルかまいたち!」
風圧がより一層強くなる。
刃の量も一段と増えた気がした。
「ストーンブロックダブル」
岩の壁のようなものが更に厚くなった。
「おいどんの鉄壁のガードは、誰にも壊せん!」
頼もしいヤツが味方になってくれたな。
この隙に観測者へ攻撃してみるか。
「ミリアは左方向から斬撃、ファルは右方向から火属性攻撃をしてくれ!」
「わかったわ!」《「承知した!」》
二人が同時に攻撃した。
バゴーーーーン!!
粉塵が舞い上がる。
「やったか!」
――
「クックックックッ。この程度の攻撃で我輩に傷を付けるなど不可能」
「……なっ!?」
全く効いていなかった。
コイツにはどうやっても勝てないのか……
「クックックックッ。我輩は他にやることがあるのだ。今日のところは引き下がろう。但し、玩具をプレゼントしよう。楽しく遊んでくれたまえ」
観測者は不思議な舞を踊り出した。
すると――
悪魔の様な造形が現れ始めた。
「そうそう、言い忘れていたが、魔王軍も我々が作り出した玩具に過ぎない」
「なんだと!」
「今回のプレゼントは魔王軍の一人にしてやろう」
ムクムクムクムク……
目の前には紫色をした猿が現れた。尻尾の先端はハートの形で右手には槍を持っていた。
「キキー! 魔王軍の一人、パープルモンキー様だ!」
「猿が喋ったぞ!?」
「猿ではない。パープルモンキー様だ」
どちらも変わらない気がしたが、俺は聞き流した。
「パープルモンキーよ、コイツらと楽しんでくれたまえ。殺してしまって構わんよ」
観測者はそう言い放つと、忽然と姿を消した。
「キキー! お前たちには地獄の苦しみを与えてやろう」
「……くっ!」
俺は背筋に凍りつくような冷たい風を感じ、すぐにパープルモンキーを鑑定した。
【鑑定結果:パープルモンキー】
【得意技:突きと氷属性攻撃】
【弱点:斬撃】
なるほど。
ファルには援護に回ってもらって、オレとミリアが攻撃。新たな仲間の人型の岩には変わらず防御のサポートをしてもらおう。
「アイツの弱点は斬撃だ! ファル! お前は援護に回ってくれ! ミリアは俺と一緒に斬撃だ! 人型の岩は引き続き防御でサポートしてくれ!」
同じタイミングでみんなが首を縦に振った。
「キキー! お前らの攻撃なぞ聞かぬわー」
でかい口叩きやがって……
「はぁーーーー!!」
ミリアは威勢よく飛び出した。
ファルもその後を追う。
「ファイヤーボール」
「この野郎ーー!!」
俺も飛びかかった。
グヮキィーーーーーーーン!!
色々な音が混ざり合って響き渡った。
――
俺たちは元の立ち位置へ戻った。
――
粉塵からパープルモンキーの姿が現れた。
その様子を見て愕然とした。
全く傷一つ付いていなかったからだ……
「お前らの攻撃はこんなものか……あぁ、弱い。弱すぎる。これじゃ遊びにもならない……」
パープルモンキーは攻撃態勢に入った。
「死ねーーー!!」
持っていた槍から冷たい吹雪が俺たちに向かって吹いてきた。
「その吹雪は、身体を硬直させ、手も足も出なくなる効果がある。お前たちが動けなくなったところで、一人一人この槍で刺し殺してやろう」
「ぐっ……」
コイツの吹雪のせいで、身体が思う様に動かなくなってくる。
防御はしっかりしてくれているのか?
俺は人型の岩を見る。
人型の岩も俺たち同様に固まってきていた。
「みんな、大丈夫か!」
みんなに声をかけるが、反応が無い……
俺たちは絶体絶命のピンチを迎えてしまったようだ……
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