↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/20

第9話 港祭りの誘い

翌朝、店の戸へ、短い手紙が挟まっていた。


――今日の午後、祭りの準備を見に行かないか。


エリオットさんの字だった。

最後に、少し狭い字で、〈仕事の依頼ではない〉とある。

何度か読み返したせいで、開店の札を出すのが遅れた。


フチは、窓の下からその紙を見ていた。

術具を外した首は、だいぶ落ち着いている。


『行かないの?』

「行きます」

『なぜ、持ったまま立っている』


わたしは、手紙を棚へ置いた。

狐が喋れるようになると、誤魔化せる時間が減る。


午後の予約を確かめ、少し早く店を閉めた。

髪を結ぶ紐を替え、襟を整える。

聖女候補だった時は、飾りのない白い服を着ていればよかった。

自分で選ぶ服は、選ぶところから難しい。


橋の所で、彼は先に待っていた。

鎧はなく、紺色の上着を着ている。


「今日は、隊長と呼ばなくていい」

「もう、あまり呼んでいません」


彼は笑い、歩き出した。

わたしも、隣へ並ぶ。


広場には、まだ組み立て途中の屋台がある。

布が張られ、花の枝が門へ結ばれていた。

祭り当日は混むから、先に見て回ろうと思ったという。


「当日は、魔獣も通る。声を聞く仕事で忙しくなるだろう」

「そのことまで、考えてくださったのですか」

「二人で歩く間くらいは、休んでほしい」


わたしは、露店の品を見るふりをした。

急に彼の方へ向くと、顔に出そうだった。


並んだ髪留めの一つに、青い花が付いている。

金属ではなく、磨いた木へ色を載せた物だ。

わたしが手に取ると、彼がそばへ来た。


「似合うと思う」


店のおばさんが、鏡を渡してくれた。

耳の少し上へ付ける。

エリオットさんが、鏡の向こうで頷いた。


わたしは、自分で銀貨を出した。

仕事で稼いだ分から、こういう物を買うのは初めてだった。


「付けたままで、行きます」


彼の目が、花からわたしの顔へ戻った。


「それがいい」


次の店で、焼いた小さい魚を買った。

食べる途中、足首へ、柔らかいものが触れる。

銀の尾だった。


「フチ!」


彼女は、店の裏庭から、どうやらわたしを追ってきたらしい。

迷子にさせないため、一度抱き上げた。

触れていいか聞くと、彼女は魚を見ながら頷いた。


『二人とも、ずっと歩くのが遅い』


わたしは訳さなかった。

必要のない感想まで、全部伝えるのが通訳の仕事ではない。


その時、塔で鐘が鳴った。


短い一音。

フチの尾が、腕の中で一度、強ばった。

広場の端で、翼獅子が翼を広げる。

ほかの魔獣も、同じ方へ顔を向けた。


わたしは、狐へ意識を向けた。


『あそこから、変な響きが来た。首にあったものに似てる』


環は、付けていない。

彼女の首を確かめてから、エリオットさんを見た。


「鐘そのものも、調べた方がよさそうです」


塔では、祭り前の小さい出力の試験をしていたらしい。

彼は係員へ声を掛け、それ以上鳴らさないよう頼んだ。

最初の広場の日から、旗での合図を続けていたことが、今は幸いだった。


帰り道で、わたしは、袖口へ付いた魚の油を見た。

結局、仕事の話になってしまった。


「途中で、すみません」


エリオットさんは、わたしの髪留めを見た。


「一緒に見つけられてよかった。だが、次の休みは、塔から遠い所へ行こう」


次、と言った。

腕の中のフチが、欠伸をする。

わたしは頷いてから、彼と同じ速さで歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。