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第7話 銀尾狐の言い分

銀尾狐は、五つの尾を椅子の下へ隠していた。

綺麗な銀の毛だ。首の環には、小さい青い石が付いている。


「三日前から、誰にも触らせないの」


連れてきたメルヴィ男爵夫人は、困っていた。

抱き上げると唸り、飾り用の皿を尾で落としたという。


「家へ来た時は、おとなしかったのに。フチ、顔をお見せなさい」


呼びかけると、尾が一つ、椅子の脚へ巻きついた。

わたしは夫人に、少し待っていただいた。


十歩も離れていない。

それでも、狐の声へ向くには、こちらから意識を置く必要がある。


「こんにちは。フィーナです」


顔が、少し上がった。


『触らない?』

「触る前に、聞きます」

『じゃあ、ここにいて』


わたしは、椅子を持ってきて座った。

夫人の眉が、上がる。


「抱き出さないの?」

「お話から、始めます」


フチは、こちらをよく見た。

お腹は空いていない。店の匂いも嫌ではない。

だが、首へ触れられるのを、何より嫌がった。


『鳴っているの。みんな、首を撫でるから、余計に』


わたしは、青い石を見た。


「普通の音ですか。それとも、魔力の響きですか」

『響き。頭の中まで来る』


オルと、似ていた。

けれど、似ているだけで同じ原因と決めたくはなかった。


ニナさんへ使いを出した。

待つ間、夫人に環をいつ替えたか聞く。

港の商店で、二週間前に買ったそうだ。

古い物より、石が澄んで見えたという。


「騎兵隊で調べている術具も、青い石が付いていました。今回も、外して診てもらうのを勧めます」


夫人は、フチを見た。

狐の耳は、さっきから同じ向きへ伏せている。


「痛かったの?」

『そう言ってる』


わたしは、その返事を、柔らかく言い換えそうになった。

結局、元の言い方のまま渡した。

夫人は、黙って指を引いた。


ニナさんが来て、フチの了解を取ってから環を外す。

赤くなった皮膚を診察し、休ませ方を話した。

わたしが通訳を止めても、狐の身体が少し緩んだことは見えた。


「一週間ほど、刺激を減らして様子を見たいね。日中は、この庭へ通ってもらってもいい」


夫人の家では、数日後に大きな宴があるという。

ニナさんと相談して、店で短く預かることになった。

フチは、嫌なら帰ると言った。

わたしは頷いた。


『ここは、しっぽを踏む人が少ない』


夫人は、苦笑した。

今度は、狐を叱らなかった。


環を布へ包むと、エリオットさんが来た。

彼は、わたしの話を聞き、青い石を見た。


「オルの環の鑑定は、明後日、終わる。この分も、同じ技師へ頼もう」


商店の名前を控え、購入の紙も夫人から借りた。

まだ、誰かが悪いと決まったわけではない。

二つの実物と、二つの買い道があった。


夫人が帰ったあと、フチは窓の下へ座った。

椅子の下から出た五つの尾が、丸い花のように開く。


『あの黒い人、好きなの?』


技能を切るのが、少し遅かった。

わたしは、布の端を落とした。


「……どうして、その話になるのですか」

『来たら、そっちを見た』


フチは、目を細くした。

嘘を見抜く能力は、彼女にもないはずだった。

それなのに、わたしの返事を待たず、いかにも満足そうに眠った。

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