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第3話 最初の依頼は、通訳でした

オルは、その日のうちに騎獣舎へ戻った。

広い庭に降りると、干し草を鼻で押し退けた。


『石の上がよい。これは腹へ刺さる』


わたしが伝えると、世話係の青年が慌てて草を寄せた。

彼は、今まで保温のために敷いていたという。


「寒いと思っていました」

『寒い日は、言う』


オルはわたしを見た。

まだ、通訳は必要だった。


青い石の付いた環は、隊長が技師へ運ぶことになった。

「故障していた」と言い切ってほしそうな飼育係へ、わたしは首を振った。


「外したら楽になったのは確かです。でも、原因の場所は、専門の方に見てもらわないと」


彼は、少し考えてから頷いた。

言葉が聞けることと、答えを知っていることは違う。

わたしが間違えた時に困るのは、オルだった。


日が落ち始めてから、神殿へ戻った。

部屋を空けた証明に、鍵を返さなければならない。

廊下の隅に、マリアさんが立っていた。


「フィーナさん」


選抜を通った彼女の胸には、赤い花の徽章がある。

わたしの鞄を見ると、彼女は少し唇を噛んだ。


「一緒に、馬舎へ行ってもいいですか」

「お披露目の準備は?」

「まだ時間があります。朝の水、どの桶がいいか、教えてください」


わたしは彼女を連れていった。

古い馬は、水を替える人が変わると飲むのをためらう。

彼女が桶を置き、少し待つと、馬は鼻を下げた。


「世話係の方へ、記録を渡しました。読めない所は、その方から聞いてもらってください」


マリアさんは、記録の端へ自分で印を付けた。


「治せるようになっても、この子が何を嫌がるか、わからないんですね」

「わたしも、全部はわかりません」


彼女は馬を撫で、微笑んだ。

見送られる時まで、彼女を妬まずに済んだことが、少し嬉しかった。


門の外には、黒い上着の男がいた。

鎧がないと、隊長は思っていたより若い。

背が高く、外套の肩だけが、少し雨で濡れていた。


「宿は決まったか」

「これから探します」

「隊の宿泊所にも部屋はある。ただ、宿の方が気楽なら、案内だけする」


わたしは、港の宿を選んだ。

明日の馬車で実家へ戻るかは、まだ決められなかった。


歩きながら、隊長はオルの話をした。

五年前に協力の約束をした竜で、海沿いの巡回を手伝ってきたという。

それなのに、数日前から人を避け、今日、術具の点検に連れ出したところで暴れた。


「鎮声環は先月の交換品だ。前の物では、こうならなかった」

「比べる物があれば、調べやすそうです」

「残っている。君には、明日もオルに会ってほしい」


宿の看板の下で、彼は立ち止まった。

掌に、銀貨を三枚載せる。


「今日の通訳の分だ。払わせてくれ」


わたしは、銀貨を見た。

候補者の月の給金より、ずっと多い。


「でも、治したのはニナさんです」

「診察の費用は、彼女に払う」

「戦ったのも、わたしではありません」

「戦わずに済んだ理由が、君だった」


言われて、うまく返せなかった。

受け取るまで、彼は手を引かなかった。


三枚の冷たい銀貨が、わたしの指へ触れた。

この手で薔薇は治せない。それでも、今日の仕事を渡してくれる人がいた。


「明日、午前なら伺えます」

「助かる。長い通訳は疲れるのだろう。休憩も取ろう」


彼が去ってから、宿へ入った。

夕飯付きの部屋を借り、靴を脱ぐ。

机へ銀貨を置くと、窓から、港の灯りが見えた。


母への手紙を、鞄から出した。

選抜に落ちたことを書いたあと、ペンを止める。

白竜を相手に話したことまで書くと、嘘だと思われるかもしれない。


結局、こう付け足した。


――もう少し、この町にいようと思います。


北行きの馬車の時刻は、翌朝、確かめなかった。

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