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第17話 聞こえる声は、一頭ずつ

地上の飼育場へ入ると、声が重なった。

鳥獣が鳴き、翼獅子が咆哮する。

魔力を流しても、その全部を言葉にはできない。

一頭へ意識を向けなければ、鳴き声の間で、意味を掴めなかった。


わたしは、近くのセオへ向いた。


『あれを止めろ。首が鳴らなくても、頭が痛い』


塔を壊す方へ走りかけている。

わたしは、ラウルさんを呼んだ。


「セオに、橋の外へ人を逃がす仕事を頼みます。鐘は、隊長たちが止めます」


セオが、わたしの後ろを見た。

子どもを抱く人が、道の石に足を取られている。


『背中に、載せてもよい』


ラウルさんが、決めていた手の合図をした。

セオは、地面へ伏せた。

わたしは、そこで彼の声から離れる。


魔獣医のニナさんが、環をまだ付けていた鳥獣へ走った。

わたしは一頭に絞り、器具を外す間、爪を下げるよう頼む。

本人が頷いてから、ニナさんが近づいた。


マリアさんは、橋の外で負傷した人を診ていた。

飼育係は、普通の馬を、人の少ない道へ移している。

馬の声は、わたしには聞けない。

聞ける仕事だけを、自分の所へ戻した。


桟橋の綱が、鳴った。

大きな水獣が、船と岸の間で身体を振っている。

幅の広い背に、黒い斑点があった。


わたしは、岸の端でしゃがんだ。

海水が靴の先へ届く。


「声が届きますか。フィーナです」

『足に、綱が! 引くな!』


怒っているのは、鐘だけではなかった。

船が風で動くたび、後ろのひれに巻いた綱が引かれる。


船員へ伝えると、男が、長い柄の道具を持ってきた。

綱を切る間、動かずにいてもらうよう話す。

水獣は、半分ほど身体を沈めた。

切れた綱が、海面へ浮く。


『ほどけた』


その声を聞いたところで、船が、岸から離れ始めた。

別の綱が切れていた。

デッキにいた人たちが、こちらへ手を振る。


「船を、安全な側へ押してもらえますか」

『あの音を、止めるのか』

「今、止める人が、塔へ行っています」


水獣は、塔を見た。

それから、自分で船の沖側へ回った。

大きい背が、水を盛り上げる。

船員が投げた綱を、岸の人たちが引いた。


わたしは、技能を一度切った。

耳の奥が重い。

まだ、返す言葉はあったが、手の合図で水獣へ頭を下げた。

彼は、一度、ひれを出した。


塔の上で、黒い上着が動いた。

エリオットさんだ。

モリスさんが階段の下から、手動の遮断器の場所を指示している。

鐘のそばに残った力を、別の結晶へ逃がす仕組みらしい。


オルは、塔から少し離れて、翼を開いていた。

わたしは彼へ近づき、最後に一度、声を繋いだ。


『上へ、行けばよいか』

「塔は壊さないで。人が落ちたら、助けてください」

『あの黒い人間もだな』


わたしは、顔を上げた。


「はい」


オルは、もう聞き返さなかった。

白い翼が、風へ入る。

飛び上がると、十歩の範囲をすぐに外れた。

それ以上の声は、わたしには届かない。


エリオットさんが、長い鉄の柄を下げた。

青い光が、塔の横の管へ移る。

鐘の音が、弱くなる。


次の瞬間、張り出した足場が崩れた。


黒い身体が、空へ出る。

わたしは、名前を叫んだ。

声は技能ではなく、ただの、人間の声だった。


白い影が、塔の下を横切る。

オルが、彼を背へ受けた。

羽ばたき一つで、崩れる石から離れる。


地上へ降りたあと、エリオットさんは、竜の首へ手を置いた。

何を言ったのか、遠くからは聞こえなかった。

オルが、一度、顎を下げる。

通訳がいなくても、二人の間で、返せるものがあった。


鐘が止まった。

水獣は、船を岸へ戻し、海面から長く息を吐いた。

セオの背から、子どもが降りる。

ニナさんとマリアさんは、まだ働いていた。


わたしは、地面へ腰を下ろした。

誰の声へも、もう魔力を流さない。


エリオットさんが来て、隣へ膝をついた。

頬の端に、小さな傷がある。


「帰ってきた」


わたしは頷いた。

伸びてきた手を、今度は両手で握った。

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