第15話 白竜が、わたしに嘘をついた
翌朝、港の飼育場には、すでにオルがいた。
わたしを見ると、翼を寄せる。
『あの塔を黙らせれば、全て済む』
いつもより、大きい声だった。
わたしは、昨日の尖った気分を思い出し、少し頷きかけた。
先に、ニナさんの説明を聞くことにした。
環を外した魔獣は、今はほとんど落ち着いている。
オルも、首の熱は下がっていた。
しかし、鐘の拡音器には、強い魔力が残っている。
術炉を止めたからといって、蓄えた力まで一度になくなるわけではない。
モリスさんが、安全に抜くための回路を確かめていた。
部品を無理に引き抜くと、周囲へ響きを広げる恐れがある。
「塔を壊すのは、いけません」
わたしが言うと、オルの尾が止まった。
『やろうとは、言っていない』
「全て済む、とも言いました」
『人間が細かく考える前に、我ができることもある』
金の目が、塔へ向いた。
炎で壁を焼けば簡単だと思っているのかもしれない。
わたしは、首へ触れず、顔の見える所に座った。
「本当に、壊しても大丈夫だと知っているのですか」
オルは黙った。
近くで、セオが足を踏み替えた。
わたしは、声へ向く相手を変えなかった。
『……そなたが、また、困った顔をしている』
低い声だった。
『我のことで、困る者が多いのは、好かん。首は治った。鐘も、我が止めればよいと思った』
わたしは、彼を見た。
知っていて平気だと言ったのではなかった。
平気な方へ、みんなを連れていこうとしたのだ。
「オルも、怪我をするかもしれません」
『竜だぞ』
「百四十三歳でも、痛い時は痛いと、教えてくれたでしょう」
彼は、顎を地面へ付けた。
わたしがその隣へ手を置くと、白い鼻先が、指へ寄った。
『わかった。先に言う』
午前中、わたしは、港の魔獣へ一頭ずつ話を聞いた。
近づける場所は技師と隊が確かめ、怪我の話はニナさんへ渡す。
響きを怖がっていることと、身体が痛いことは、同じではない。
気持ちを聞いたあとで、もう一度、確かめる必要があった。
六頭目を終えた所で、耳の奥が重くなった。
自分で、休むと伝えた。
オルが、庭の端で大きく翼を開く。
わたしの椅子に、影ができた。
『このくらいは、相談はいらぬか』
「嬉しいです」
魔力を止めると、彼の声は、ただの低い鳴き声へ戻る。
それでも、翼の下にいてよいことは、わかった。
昼、店へ帰った。
フチが、戸の内側で待っていた。
わたしの足音を覚えていたらしい。
少し眠ってから、昨夜の手紙を開いた。
エリオットさんが怪我をするかもしれないと思った時、わたしも、塔へ近づくなと言いたくなった。
オルが、一人で全部済ませようとしたのも、似ていた。
怖いからといって、相手の話を省いてよいわけではない。
それを言うための言い方を、わたしは選ばなかった。
紙へ、短く書いた。
――昨日の言い方を、謝りたいです。仕事の話が済んだあと、会えますか。
届ける前に、戸が叩かれた。
エリオットさんが、向こうにいた。
彼も、手紙を一枚持っていた。




