第14話 どうして「来るな」と言うのですか
帰還鐘の拡音石も、正規品ではなかった。
環と同じ、混ぜ硝子だと確認された。
外した環がなくても、鐘の近くでは、魔獣が不快な響きを感じる。
オルの環は、それをさらに大きくしていたのだという。
交換の工事が終わるまで、港の巡回は地上と、短い飛行を組み合わせる。
祭りも、三日、日程を延ばすことになった。
店に、エリオットさんが来た。
港の点検へ、通訳として同行してほしいという話が、前日にあった。
わたしは、そのために午後を空けていた。
「明日は、来なくていい」
最初の言葉が、それだった。
「点検がなくなったのですか」
「危険な箇所がある。技師が先に見る」
「魔獣の確認は?」
「隊で行う」
わたしは、机の予約表を見た。
空けた午後が、白く残っている。
「それは、いつ決まったのですか」
「今朝」
「わたしが入れる場所かどうか、相談する前に、全部決めたのですか」
彼は、少し眉を寄せた。
「君に怪我をしてほしくない」
その言葉を、嬉しいと思いたかった。
でも、先に別の言葉が出た。
「エリオットさんだって、怪我をすることがあります」
「それが、私の仕事だ」
「わたしの仕事も、そこにあると思ったから、お引き受けしました」
窓の下で、フチが顔を上げた。
わたしは技能を使っていない。
彼女に何を言われたかまで、聞く余裕はなかった。
エリオットさんが、机へ手を置いた。
「場合によっては、町の外へ行っていてほしい。調査の間だけでも」
店を離れて、ということだった。
彼がそのための宿まで、すでに調べたのだと知って、喉が詰まった。
「恋人でもないのに、そこまで決めるのですか」
言った途端、彼の顔が止まった。
自分でも、言い方がひどかったとわかった。
手を繋いだ日は、わたしだって嬉しかった。
そうでなければ、こんなに傷ついていなかった。
「……そうだな」
彼が、手を引く。
わたしは、もう言い直せなくなっていた。
「工事の立入範囲は、技師から説明させる。依頼を変えた分のことも、隊で確認する」
彼は、仕事の声へ戻った。
それが、余計に寂しかった。
戸が閉まる。
わたしは椅子へ座り、息を吐いた。
やっと技能を使うと、フチが言った。
『言いすぎた顔を、二人ともしていた』
わたしは、顔を両手へ埋めた。
「わかっています」
『私は、どっちが正しいかは知らない』
それだけ言うと、彼女は、足元へ伏せた。
慰める言葉を作ってくれなくて、少し楽だった。
夕方、技師の説明が届いた。
危険な塔の中へは入れない。
地上の飼育場から、魔獣へ順に話を聞く仕事は続けられるという。
それなら、最初から、その話をしたかった。
わたしは、仕事内容へ返事を書いた。
彼への手紙は、別に書こうと思った。
けれど、〈恋人でもないのに〉を消せる言葉を見つけるまで、夜になった。
白い紙の端だけが、何度も折られた。




