↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/20

第13話 聖女と落第生

監査官が来た朝、わたしは神殿の裏口へ通された。

白い廊下は、以前と同じ匂いがした。

香草と、磨いた床の蝋。


マリアさんが、記録庫の前で待っていた。

彼女は、わたしの青い髪留めを見ると、笑った。


「似合っています」

「自分で、買いました」

「わたしも、今度、町で見てみます」


徽章のある服でも、好きな髪留めを選んではいけない決まりはない。

わたしは候補者の頃、自分で余計な決まりまで増やしていたらしい。


帳面を開いたのは、管理を任されている書記だった。

モリスさんと、王国の監査官と、エリオットさんがいる。

わたしは、二頭の訴えを聞いた者として、記録を持ってきた。


神殿が支払った額は、正規の結晶の代金だった。

だが、仕入れた工房の控えでは、別の材料が大量に納められている。

小売りの商会へ出た品にも、正規品の印が付いていた。


ローデリック副司祭は、そこを指して言った。


「工房が誤っただけだ。祝福を受けた品を疑うとは、信仰が足りない」


マリアさんが、帳面の端へ手を置いた。


「祝福をした日は、ここです。品物の材質を、わたしが変えたわけではありません」


声が、震えていた。

それでも、彼女は手を引かなかった。


副司祭が睨む。

監査官が、二人の間へ紙を置いた。


「ここでは、いつ、何を受け取ったかを確認します」


マリアさんは、受領した箱の番号を示した。

同じ日に、副司祭が、工房の使いへ別の指示書を渡していたという。

書記が保管していた控えには、彼の署名がある。


控えも、帳面も、原本を別々に預かることになった。

差額の行き先については、神殿の会計と商会の帳簿を確認する。

わたしの言う〈竜が痛かったそうです〉だけで、誰かを裁く場ではなかった。


帰る時、副司祭は、わたしを見た。


「お前が戻れば、大げさな騒ぎにはならなかった」


わたしは、鞄の紐を持ち直した。


「戻っても、痛がっていることは伝えます」


それ以上の返事は、なかった。


廊下へ出たところで、マリアさんが壁へ背を預けた。

わたしは、彼女のそばに立った。


「怖かったです」


彼女が言う。

わたしは頷いた。

勇気のある人には、恐れがないのだと思っていた。

顔色を悪くしている彼女を見て、違うとわかった。


その時、庭から人が走ってきた。

飼育係が、壊れた柵で腕を切ったという。

マリアさんは顔を上げ、すぐに向かった。


わたしも、水と布を運んだ。

彼女の指から、赤い花に似た光が落ちる。

傷が閉じていくのを、わたしは横で見た。


四年前から、できるようになりたかったことだった。

今も、綺麗だと思った。

そして、この場で、自分の掌を隠そうとは思わなかった。


「助かりました」


飼育係が頭を下げる。

マリアさんは、翌日の診察も受けるようにと言った。

治癒の光で、仕事へすぐ戻ってよいという話まで決められるわけではない。


神殿の門で、エリオットさんが待っていた。


「君が怖かった時、気づけなかった」

「手が、少し震えただけです」


わたしが笑うと、彼は鞄を指した。


「今日は、持ってもいいか」


わたしは頷き、渡した。

記録の写しが入った鞄は、いつもより重い。

帰る道の半分だけ、彼に持ってもらった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。