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竜機と竜姫と竜騎士と  作者: 恵二/KG
2.鱗と泉と青い竜姫
13/18

逆襲の魔鳥

 程なくして参道入り口に討伐隊の援軍が集い、各隊の指揮官が祠の前に集結した。


「状況は?」


 事態の重大さに鑑みて援軍に同行したバンデラス総団長が聞いくと、ヤナクが御山の上のほうをを指さした。


「この上に巨石鳥が一羽居座っています」

「どこから飛んできたのだ?」

「いや、地を這って来たようで、木々がなぎ倒されていました」

「今の奴の動きは?」

「奴はかなりひどく負傷しており、おかげで飛べず、攻撃もしてこず。今は交代で見張っています」


 怪我という言葉から、ディーンの頭の中に巨人竜の姿が浮かんだ。


「怪我をしているってことは、グリ……巨人竜が戦ったうちの一羽なのか?」

「かなりひどいぜ? 岩の羽根はかなり抜け落ちてるし、片方の翼も完全に焦げてやがる」

「というか、ほっといても死ぬんじゃねえかな、あれ」


 実際に巨石鳥に遭遇した調査班メンバーが言う。

 その言葉に「冗談じゃない」と食ってかかる者達がいた。援軍として来た火砲隊の面々である。


「勝手に死なれてたまるか」

「せっかく気のきいた竜が俺達に報復の機会をくれたんだぞ」

「死にかけのあれ一体ならば、俺達で撃退可能だ」

「つーか、討伐隊の主力攻撃部隊が、対巨獣戦闘の戦果で斥候部隊のルーキーに負けるってのはなぁ!」


 火砲隊の隊長代理のトッシュがディーンにズイッと顔を近づけてきた。

 思わぬ対抗意識を燃やされたことにディーンは戸惑う。


「そうは言うが、得物をなくして何ができるんだ?」


 討伐隊の火砲は巨石鳥にやられほとんどを喪失したはずだった。


「ああ、それならば討伐隊を支援している商家が提供しててな」


 ディーンの脳裏にあの失礼な商人の顔が浮かんだ。


「あのグウィン商会とかいう?」

「そう、それそれ。ともかくこれで、俺たちは奴に借りを返せるってわけだ!」


 火砲隊の士気は旺盛のようだ。しかし、

「ハッハッハ。やる気があるようで結構。では、狙撃できるか?」

 と、バンデラスに聞かれると、勢いが少しだけしぼんだ。


「いや、ここからではそれはちょっと……」


 基本的には防衛用兵器の火砲を、中腹までの石段しか道がない御山に曳き入れることはさすがに厳しい。また、麓からはでは届きもしないだろう。

 トッシュは少し考えこんだ後、ヤナクに切り出した。


「釣れねえか、アレ?」

「確かにこういう時の常套手段だがよ、ちときつすぎるぜ」

「まあ、そこは仕方がないではないか」


 バンデラスがトッシュの肩を叩く。


「火砲隊は下に配置、万一奴が街へ向かう場合に備える。斥候隊はこのまま監視を続けてくれ」


     +


 動きがないまま監視班の交代が何回か行われた後、ディーンの班に順番が回ってきた。

 祠の先の林を抜けて視界が開けたところで、巨石鳥の姿が視認できた。


(それにしても本当にひどい有様だな)


 調査班の報告通りに巨石鳥は堅固な岩の鎧は大半が剥がれ落ち、焼けただれた肌が露出している上に、呼吸をしている以外はピクリとも動かず、もはや獰猛さどころか生気すら感じられない。

 わざわざ討伐隊が殺す必要があるのかを疑い掛けてしまうほどだった。


「あれじゃあ火砲隊の提案通りに挑発したって動いてくれるかどうか……」


 誰かがそんな言葉を漏らしたその時、巨石鳥がおもむろに顔を上げ、周囲を見回した。

 彼の目は辺りに潜む人間たちを確かに見たが、敵意を向けてくる様子もなかった。


「最後は安らかにさせてやるのもありか?」

「冗談。魔獣は魔獣だぜ」


 そんな声すら聞こえてくる。

 ディーンも複雑な気持ちで巨石鳥の顔を見たが、あることに気づいた。


「まさかアイツは?」


 ディーンが驚きの声を上げた。その巨石鳥は片目が潰れていた。


「あの時ディーンがぶち抜いた奴か!」


 隊の仲間もそれに気づいたようだ。


 巨石鳥のほうも、ある存在に気づいた。

 それは槍を携えた一人の人間。

 地を這う虫けらの分際で、自分の目を抉って苦痛を与えた小さな生き物だった。

 それを認識した瞬間、巨石鳥は目に怒りの炎を宿し けたたましい怒りの声をあげた。


「――!! 後退ッ!!」


 ただならぬものを感じて班長が指示を出す。

 それとほぼ同じタイミングで、巨石鳥は怪我にも関わらず、一気に飛び跳ねた。


「なんだと?!」


 こんな力をまだ残していたのかと、隊に動揺が広がる。

 巨石鳥はディーンの目の前に着地すると、翼を薙ぎ払った。

 とっさに身を伏せたディーンの上を、巨大な岩と肉の塊が通り過ぎた。


「こいつ、まさか俺にやり返すつもりか!?」


 魔鳥の執念にディーンは戦慄する。


「射手、撃て! 奴の意注意を散らせ!」

「野郎! こっち向けっての!」


 弓矢や銃を持つ仲間が一斉に射撃を行う。

 しかしながら巨石鳥は全く意に介さず、ディーンだけを追い続ける。


「ならいっそのこと、俺が囮になって――」


 奴を誘い出し、火砲隊の前に誘導すればいいのではとディーンは考えた。

 しかしそんな余裕などなかった。


「ぐわあぁっ!?」


 更なる翼の一撃がを今度は避けきれず、ディーンはとっさに防御するものの、身体は木の葉の如く簡単に弾き飛ばされた。

 なおも執拗に巨石鳥はディーンを追って山肌を這って行く。


 その様子は他の部隊にも見え、驚愕が広がる。


「奴を行かせるな!」

「だが、ここからでは当てられねぇ!」


 火砲が向けられるものの、標的は遠すぎる。


「クソッ、奴は飛べねえんじゃなかったのか!?」

「飛んではいねえな。跳んではいるが」

「冗談を言っとる場合か!? とにかく追うんだ。火砲隊は回り込めッ!」


     +


 まったくもって快適でない空中散歩を強制された後、ディーンは森の中へと落ちていく。

 激しい衝撃を覚悟し、死すら脳裏をよぎった。

 しかし、木々がクッションになったとはいえ、衝撃は思いのほか軽かった。

 いや、最後は地面に激突するどころか、ふわりと浮いたような気がした。

 更に、背中に固く冷たい地面ではなく、柔らかい感触があることに気づく。


「なるほど。さっきキミが退かなかったの、こういうことなのか。キミはこうやって僕を抱き留めたかったのかー」


 展開に既視感を覚えるが、そんなことより、ディーンは意外な人物が自分の身体を支えていることに驚いた。


「シャロ? なんでこんなところに!?」

「ごはんのお礼。助けてあげようって思って」


 青の少女がディーンに微笑みかけてきた。


「お礼って……ぐっ……!?」


 だがその時、翼でぶたれた時に頭と体を庇った両腕が激しく痛み、ディーンの顔が歪んだ。


「ああ、さっきやられたんだね」

「この分じゃ、骨をやられているかも……」

「どれどれ……」

「触らないでくれ。それだけで痛む」

「だいじょうぶ。痛いのはとんでくから」


 シャロが右手をディーンの腕に添えると、その手が輝きだした。

 するとなんということだろうか。その光に触れているうちに、腕の痛みが消え失せていった。


「はい。これで治ったよ」

「まさか、治癒魔法!?」

「ふふん。どんなもんだい」


 シャロがドヤ顔でふんぞり返る。

 だが直後に殺気を感じて、一瞬にして鋭い目つきに変わった。まるで猛禽か狩人の目だった。

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