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竜機と竜姫と竜騎士と  作者: 恵二/KG
2.鱗と泉と青い竜姫
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竜の祠

 ディーンは翌日には退院して討伐隊の寮に戻ったが、さらにその次の日には予備の武具を支給され、ヤナク隊として召集を受けた。

 負傷者多数で人員不足に陥った討伐隊に、動ける者を休ませている余裕はないのである。


 街ではそこかしこで慌ただしく動く人々の姿を目にした。至る所に破壊の跡があったが、討伐隊から民衆まで総出で復旧作業を行っていた。

 街は平穏へ向かいつつあるようだ。

 程なくして集合場所に近づいた時、不意に背中を強烈に叩かれ、身体を前に弾き飛ばされそうになった。


「痛ッ? 誰だ!」

「よっ、愚弟」

「姉ちゃん?」

 

 苛立ちながら振り返った先にいたのは、六つ年上のディーンの姉、ライサだった。

 ライサは弟の身体を嘗め回すように見た後、安心したように笑みを浮かべた。


「街が襲われたって聞いた時は心配だったけど、大丈夫そうじゃない」

「まあ、ぶっ倒れただけで済んだし」

「そうね。診療所で対面したのが死体じゃなくて、寝てるだけのあんたでよかったわ」

「見舞いに来てたのか」

「一度だけね」


 姉と受け答えをしならが、ディーンはキョロキョロとあたりを見回した。


「あいつならいないわよ。あたしとは別んとこ回ってる」

「そっか。これ、義兄(にい)さんに直してもらえないかなって思ったんだけどなあ……」


 ディーンが露骨に残念そうな顔をしながらロケットを手にする。


「いいわよ。あたしからあいつに頼んであげる」


 その手からライサがロケットを受け取った。


「にしても、久しぶりに姉に会ってもニーサンニーサンと、あんたは相変わらずあいつが好きだこと」

「そりゃ、姉ちゃんと違って乱暴じゃないし。俺が竜騎士になりたいって言っても馬鹿にしないどころか、素直に応援してくれたからな」


 ディーンが言うと、ライサはディーンを小突いてきた。


「やめてってば。姉ちゃんは力強いんだから結構痛いんだぞ」

「んー? 竜騎士君は農場の娘っ子より貧弱なのー?」

「娘って年恰好かよ」


 さらに一発、ゴスッと追撃を受けた。


「痛いってば! 姉ちゃんまた馬鹿力が増してない? ったく、義兄さんはいったい姉ちゃんのどこがよくて結婚なんかしたんだ」

「何言ってんのよ。あいつが婿入りしてくれたから、あんたは家を出れたんでしょうが。それと引き換えにあたしは怪力女ですよ、ええ」


 ライサは上着の裾をまくり上げ、同年代の同性と比べてはるかに逞しい腕を露出させている。

 衣服で隠された脚や腹も似たようなもので、姉は恰幅がよく見える。

 家業の農作業で自然と鍛えられたものだ。


「確かに、太ったね」

「フン」


 口は災いの元でもう一発食らう。


「それより、姉ちゃんは何で街に? 配達?」


 ライサの後ろには作物を満載した荷車があった。


「街も食物蔵が被害を受けたそうじゃない。それで食料を分けてくれって周辺の集落に要請が出て、総出で何往復もしてるのよ」

「大変だな。なんか、寝ててごめんなさいって感じだ」

「まあその分は今から頑張んなさいね、流星槍!」

「ちょっと待て。その呼び名は何さ?」

「えっ? みんなそういう話もしてるわよ。今回大活躍した討伐隊員がいるって」


 ディーンとライサがそんなやり取りをしていると、周りの大人が騒ぎ出した。


「あんたがディーン?」

「巨石鳥を一羽仕留めたっていう、流星槍の!?」

「おおっ、竜騎士様の再来!」


 自分の噂が広がっているとあの商人が言ったのは、嘘ではなかったらしい。 


「ほら、いつの間にか有名人じゃん」

「勘弁してくれ」


 ライサがからかってくるが、実態以上に持ち上げられるのには困惑しかない。


     +


 程なくしてヤナク隊の健在な面々が揃い、隊は目的地である御山へ出発した。

 この日ヤナク隊に与えられた任務は、御山の禁足地の調査である。

 巨石鳥は一掃されたはずだが、本当にここに残る魔獣はいないのか、確認のために足を踏み入れることになっていた。


 街を出てしばらく歩くと、竜の像が両脇に置かれた参道の入り口に行き着く。そこから数百段はある石段を上ると小さな祠がある。

 石段は討伐隊が過酷なトレーニングに利用するだけあって、登り切った時には数人の息が上がっていた。


「ったく、鍛え方が足らんぞ鍛え方が」


 ヤナクが叱責するが、調査は全員の息が整うのを待って、しばらく時間がたってから始まった。


「ではこれからは予定通り、禁足地の調査を行う。副長の指揮で六つの班が山に入る。残り三つは俺と共に祠周辺で待機だ」


 副長に率いられた調査班が禁足地へと分け入っていった。

 ディーンは待機組に入れられ、歩哨に立たされる。

 病み上がりであることを考慮してであるが、隊長の目の届かない所では活動させない、という先日の決定はまだ生きているようだ。


 ディーンの目の前には泉があった。

 御山降った雨が年月をかけて湧き出す、冷たく澄んだ水を湛えるその泉は、「鱗洗いの泉」と名前が付けられていた。

 なんでも時折、御山の頂から降りてきた竜がここで身を清めるのだという。

 もっともここで竜を見たものなどいはしなかった。

 ディーンを除いては。


 ディーンは見張りをしているふりをして、ずっと物思いにふけっていた。


「流星槍か……」


 いつの間にかつけられていた自分のあだ名を呟く。

 以前はリューキシくんなどと馬鹿にしておきながら、今は自分を持ち上げる人々の移り気などは気にしていない。

 思いを巡らせるのは、そのあだ名の元になった戦いで自分が振るった力のことである。

 自分にあれほどの力が宿っていたなんて、やはり考えられない。


(じゃなきゃお守りの加護かな。でもそれじゃあべこべだよ。竜を守るのに竜の力を借りることになっちゃう)


 ふとした思い付きから、ディーンは足元に落ちていた棒切れを拾い上げ、誰もいない方向を見計って投げてみた。

 棒切れはそれなりの勢いで飛んだものの、流星槍といわれるほどのものではなかった。


(やっぱりマグレだろ。お姫様に「騎士にしてください」なんてとても言えないよ)


 しかし唐突に「うぎゃっ!?」というカエルが潰れたような短い悲鳴が聞こえた。

 魔獣が現れたかと緊張しかけたが、邪悪な気配なはい。

 だが聞き間違い、空耳の類ではなかった。


「キミ、そこ危ないっ!!」


 少女の声がした。

 危ないってことは自分に警告してるんだろう。しかしディーンの周囲にそれらしき姿はない。


「どいてくれないと、ぶつかっちゃうっ!」


 声は頭上から響いてきた。

 慌てて空を仰ぐと、一人の少女がディーンに向かって落下してきているのが見えた。


(何で空から?! ってか、どくったって?!)


 退けば少女が地面にたたきつけられる。受け止めなければ。しかし構える暇はなかった。


「ふぐわぁっ?!」


 直後にズガアァンと強烈な一撃。少女のタックル、というよりヒップアタックをもろに食らった。

 その衝撃は、巨石鳥の一撃に匹敵したんじゃないか。ディーンはそう感じた。

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