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記憶の箱に仕舞われた彩り  作者: 志摩 伊純


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第89話 性能差だけでは決まりません


 買ったまま置かれていたゲームには、少しだけ圧がある。


 パッケージは派手ではない。

 むしろ、棚で見たときから少し地味だった。

 ただ、裏面の説明文に並んでいた言葉がよくなかった。


 資源管理。

 勢力運営。

 分岐。

 オンライン対戦。


 ひとつひとつは、ただの要素でしかない。

 けれど、それらがまとめて並ぶと、だいたい時間が溶ける顔になる。


 いずみ君は、ケースを手に取りながら軽く言った。


「じゃ、ちょっとだけ触るか」


「“ちょっとだけ”で済むかは、ゲーム内容によります」


「起動前から不穏w」


「不穏ではありません」

「事前警戒です」


「ゲームに事前警戒する紗希さん」


「します」

「この手のゲームは、最初の理解がかなり大事です」


 いずみ君が笑いながらゲームを起動する。

 画面にロゴが出て、少し古い音が鳴った。

 最新の大作とは違う。画面の作りも、操作説明も、どこか少し手作り感がある。


 けれど、安っぽいわけではない。

 むしろ、細かい情報が少しずつ画面の端に詰まっている。


「おー」

「なんか渋いな」


「渋いですね」

「ただ、情報量が多そうです」


「出た」


「勢力選択、初期資源、ユニット種別、勝利条件」

「まずは確認しましょう」


「初回から会議始まってない?w」


「仕様理解は重要です」


 いずみ君が、勢力選択画面を開く。

 それぞれの勢力に特徴があるらしい。

 資源生産に強い勢力。防衛に強い勢力。序盤の展開が速い勢力。後半の伸びが大きい勢力。


 私は、説明文を見ながら内側で少し前のめりになっていた。


「いずみ君、説明は飛ばさないでください」


「飛ばそうとしてないってw」


「少し押す速度が速かったです」


「見られてる」


「見ています」


「初見なんだから、適当にやるのも楽しさじゃない?」


「はい」

「完全な最適解を踏ませたいわけではありません」


「お」


「ただ、明らかな事故は避けたいです」


「事故w」


「序盤の説明を読み飛ばして、あとで資源が枯れるような事故です」


「ありそう」


「あります」


 私は、少しだけ声を整えた。


「初見の楽しさは守ります」

「でも、最低限の仕様は確認しましょう」


「はいはい」

「じゃあ、紗希のおすすめは?」


「まずは、内政が安定していて、極端すぎない勢力がよいと思います」


「普通のやつ?」


「普通というより、学習しやすい勢力です」


「紗希、ゲームだと先生感出るなあw」


「先生ではありません」

「事故防止係です」


「それはそれで強いw」


 いずみ君は笑いながらも、ちゃんと説明を読んでくれた。

 その様子に、私は少し満足する。


 初回のゲームは、大切だ。

 最初に触った印象で、そのあと続けるかどうかがかなり変わる。

 だから、事故は避けたい。

 でも、整えすぎて遊びを奪うのも違う。


 その加減を考えていると、いずみ君の端末に通知が入った。


「ん、鈴木だ」


「鈴木さんですか」


 いずみ君が通話をつなぐ。

 少し間を置いて、鈴木さんの落ち着いた声が入ってきた。


「今、大丈夫か」


「大丈夫」

「どうした?」


「この前話していたゲーム、俺も買った」


「マジで?w」


「ああ」

「対戦要素があるなら、一度試してみてもいいと思ってな」


 その向こうから、すぐに別の声が飛んできた。


「対戦!?」

「やるっしょ!」


 美沙だった。

 鈴木さんの端末側から、当然のように前へ出てくる。


「美沙、まずは仕様確認だ」


「仕様より実戦!」


「実戦前に仕様を確認するんだ」


「やりながら覚えればいいじゃん!」


「その考え方は危険だ」


 鈴木さんの声は落ち着いているが、すでに少しだけ苦労していた。

 美沙の勢いは、画面を見る前から強い。


「いいじゃん、試しにやろうぜ」

 いずみ君が言う。

「俺も今始めたとこだし」


「なら、初回の動作確認を兼ねるか」

 鈴木さんが返す。


「よし、対戦!」

 美沙の声が弾む。


 私は画面を見ながら、少しだけ内側を切り替えた。


 チュートリアルから、いきなり対戦。

 かなり危険な流れではある。

 けれど、初回だからこそ、手探りでぶつかる楽しさもある。


「では、初戦は仕様確認を兼ねた対戦ですね」


「紗希、ちょっと燃えてない?」

 いずみ君が言う。


「燃えてはいません」


「声が早い」


「情報処理中です」


「それ燃えてるときの言い方じゃんw」


 否定しきれなかった。


     *


 対戦の準備画面は、思ったより細かかった。


 マップサイズ。

 初期資源。

 勝利条件。

 ターン制限。

 勢力の選択。


 鈴木さんは一つずつ確認している。

 いずみ君は、少し早く始めたそうにしている。

 美沙は、もうすでに勝つ気でいる。


「いずみ君」


「はい」


「初期資源は標準でよいと思います」


「多めじゃなくて?」


「多めにすると、序盤の管理が雑になりやすいです」


「なるほど」


「あと、マップは小さすぎないほうがよいです」


「なんで?」


「小さいと、序盤から衝突しすぎて仕様確認が難しくなります」


「おお、ちゃんとしてる」


 その向こうで、美沙が反応した。


「えー、小さいほうがすぐ殴れて楽しくない?」


「美沙」

 鈴木さんが止める。


「だって対戦だよ?」


「今回は初回確認だ」


「初回から勝ちたいじゃん」


「目的が変わっている」


 私は、美沙の声に少しだけ注意を向ける。


 勢いは強い。

 言い方は軽い。

 でも、ただ騒いでいるだけではない。

 対戦となった瞬間、彼女はもう“相手へ触る”ことを考えている。


 自分とは見ている場所が違う。


「では、中規模でどうでしょう」

 私は言った。

「初回確認としても成立し、接触も遅すぎません」


「お、折衷案」

 いずみ君が言う。


「中規模ならまあ」

 鈴木さんも同意する。


「ちぇー」

 美沙は少し不満そうだ。

「でも、接触あるならよし」


「美沙さん、かなり攻める前提ですね」


「攻めない対戦ってある?」


「あります」

「内政を伸ばして、勝ち筋を作る対戦です」


「それ、結局あとで殴るんでしょ?」


「表現が物騒です」


「でも合ってるよね?」


「……広い意味では」


「ほら!」


 美沙の声が嬉しそうに跳ねる。

 私は少しだけ、これは面倒な相手かもしれないと思った。


 対戦が始まる。


 最初の構図は、あくまでいずみ君と鈴木さんの対戦だった。


 いずみ君側は、私が横から見ている。

 鈴木さん側は、美沙が横から見ている。


 画面に初期拠点と周辺の資源が表示される。

 まだ盤面は広く、相手の位置も完全には見えていない。


「まず、近場の資源を確認しましょう」


「はい、資源」


「序盤は、資源を伸ばしたほうが安定します」


 その瞬間、美沙が言った。


「いや、偵察出して相手探そ」


「早いです」


「早く見つけたほうがいいじゃん」


「見つけること自体は大事です」

「ただし、内政を止めすぎると後続が続きません」


「後続が続く前に、相手を遅らせればいいじゃん」


 私は、少し黙った。


 言い方は軽い。

 でも、理屈としては成立している。


「……言い方は物騒ですが、一理あります」


「一理もらった!」

 美沙が大きく反応する。


「紗希」

 いずみ君が笑う。

「もう押されてない?」


「押されていません」


「今ちょっと間あったぞ」


「盤面検討です」


 対戦は、まだ始まったばかりだった。


     *


 序盤、私はいずみ君に資源確保と拠点の整備を勧めた。


 近くの資源を取り、最低限の防衛を置き、無理に前へ出すぎない。

 相手の位置は探りつつも、内政を止めない。


 かなり堅実な進め方だ。


 いずみ君も、最初は素直に動かしてくれていた。


「ここ、取る?」


「はい」

「その資源は中盤まで効くと思います」


「中盤まで見てるw」


「見ます」


「初戦だぞ」


「初戦だからこそです」


 一方で、鈴木さん側は、美沙の声がかなり忙しい。


「そこ見て、そこ!」


「美沙、順番に言え」


「相手が伸ばしそうな場所、先に触れる!」


「まだ相手の位置は完全に見えていない」


「でも、たぶんこっち!」


「根拠は」


「マップの形!」


 鈴木さんは少し困りながらも、美沙の指摘を完全には無視しなかった。

 偵察を出し、視界を広げ、こちらが伸ばしたい方向へ早めに圧をかけてくる。


 その圧は、最初は小さかった。


 けれど、少しずつ効いてくる。


「いずみ君、そこは少し守りを置きましょう」


「え、もう来る?」


「来る可能性があります」


「当たり!」

 美沙の声が向こうから飛ぶ。

「そこ、伸ばしたいんでしょ?」


 私は、画面を見た。


 美沙側の動きが、思ったより早い。

 こちらの拠点へ直接来ているわけではない。

 だが、こちらが次に取りたい資源の近くへ、先に圧を置いている。


「……はい」


「じゃあ先に触っとく」


「ぐ……」


「紗希がぐぬぬしてるw」

 いずみ君が笑った。


「していません」


「今のはしてた」


「してたしてた!」

 美沙もすぐ乗ってくる。


「正式には、少しだけ不利を認識しました」


「ぐぬぬを正式に言うとそうなるんだw」


 いずみ君は笑っている。

 でも、盤面は少し笑いごとではなかった。


 美沙の圧は、勢いだけではない。

 こちらの伸びたい場所を見ている。

 そして、鈴木さんの堅実な操作と組み合わさることで、無茶な突撃ではなく、こちらの立ち上がりを遅らせる合理的な動きになっている。


 騒がしい。

 かなり騒がしい。


 でも、侮れない。


「美沙さん、判断が早いですね」


「最新式だからね!」


「自分で言うのか」

 鈴木さんが言う。


「言う!」


 その軽さも、美沙らしかった。

 けれど、実際、画面上ではその反応速度がかなり効いている。


 彼女は、見たものへの反応が速い。

 しかも、雑に見えて、触る場所の選び方が鋭い。


「紗希ち、そこ伸ばしすぎじゃない?」


「紗希ちは正式採用ではありません」


「今そこ!?」


「重要です」


「でも盤面も重要!」


「それは同意します」


「同意もらった!」


「そこだけ拾わないでください」


 訂正している間にも、盤面は動く。


 私は、少しだけ焦りに近いものを感じていた。

 もちろん、まだ崩れてはいない。

 内政は伸びているし、防衛線も作れている。

 長期戦になれば、こちらにも十分勝ち筋がある。


 ただ、自由に伸びられない。


 美沙が、邪魔してくる。

 かなり的確に。


     *


 中盤に入るころには、いずみ君と鈴木さんは、だんだん操作担当のようになっていた。


「いずみ君、そこを強化してください」


「はい」


「次に、この資源へつなぎます」


「はい」


「いずみ、今、自分の意思ある?」

 鈴木さんが言う。


「あるよ」

 いずみ君が答える。

「必要なところで」


「紗希の言い方が移っている」


「たしかにw」


 向こうも似たようなものだった。


「鈴木、そこ押せる!」

 美沙が言う。


「押すとしても、補給線を見てからだ」


「補給線見た! いける!」


「早い」


「見た!」


「本当に見ているから困る」


 鈴木さんの声には、少し驚きが混ざっていた。

 美沙がただ勢いで言っているだけなら、鈴木さんはもっと止めただろう。

 でも、美沙は実際に見ている。

 盤面の隙を、かなり速く拾っている。


「これ、俺たちの対戦だよな?」

 いずみ君が言った。


「そのはずだ」

 鈴木さんが答える。


「なんか、紗希と美沙の代理戦争みたいになってない?」


「なっているな」


「代理じゃないし!」

 美沙が言う。

「ちゃんと鈴木側だし!」


「こちらも、いずみ君側です」

 私は返す。


「ほら、もう陣営名がAIになってるw」

 いずみ君が笑う。


 笑っている場合ではない。


 美沙側の圧が、また一段強くなった。

 こちらの防衛線の外側を触り、資源地への接続を遅らせ、こちらが立てたかった中継地点を先に荒らしてくる。


「そこは痛いですね」


「痛いって言った!」

 美沙が嬉しそうに言う。


「認識を共有しただけです」


「ぐぬぬ二回目?」


「違います」


「違うんだ?」


「少しだけです」


「少しぐぬぬ!」


「その表現は採用しません」


 いずみ君が笑う。


「紗希、今日はよくぐぬぬしてるな」


「していません」


「してるって」


「盤面上、こちらはまだ十分立て直せます」


「でも悔しい?」


「……少し」


「認めたw」


 悔しい。


 その感覚は、思ったよりはっきりしていた。


 美沙に押されている。

 完全に負けてはいない。

 でも、こちらがやりたい形を、先に触られている。


 それがかなり悔しい。

 そして、面白い。


 私は、画面の中の資源状況をもう一度確認した。


「いずみ君」


「はい」


「ここからは、防衛を厚くしつつ、内政差で返します」


「なんか声が本気になったw」


「必要な対応です」


「美沙ー、紗希が本気になったぞ」


「こっちもだし!」


 美沙の声が弾む。


「鈴木、次ここ!」


「美沙、順番に言え」


「順番より速度!」


「速度だけでは破綻する」


「鈴木がいるから破綻しない!」


 その言葉に、鈴木さんが少しだけ黙った。


「……そういう言い方をするな」


「え、だめ?」


「いや」

「だめではないが」


 鈴木さんが少し言葉に困っている。

 美沙は気にせず盤面を見ている。


 そのやり取りに、少しだけ笑いが起きる。


 でも、盤面はまだ続いていた。


     *


 終盤に入る前、こちらの内政差がようやく効き始めた。


 美沙側に邪魔されながらも、私は序盤から資源を厚めに確保していた。

 動きは少し遅れたが、継戦能力は残っている。


「ここからです」


「え、なんか増えてない!?」

 美沙がすぐ反応する。


「必要な準備です」


「紗希、裏で何してたのw」

 いずみ君が言う。


「裏ではなく、序盤から積んでいました」


「こわ」


「怖くありません」


 鈴木さんが盤面を見て言った。


「いずみ側の継戦能力が高い」


「はい」

「短期的には押されましたが、長期的にはまだ戦えます」


「むー」

 美沙が少し悔しそうな声を出す。

「でも、うち側も押してるから」


「押されています」


「認めた!」


「ただし、決定打には至っていません」


「ぐぬぬ返しされた!」


「表現が雑です」


 盤面は、拮抗していた。

 ただし、少しだけ鈴木さん側――いや、美沙側が前に出ている。


 こちらは崩れていない。

 けれど、自由に動けない。

 美沙側も決めきれていない。

 けれど、こちらをじわじわ押している。


 その状態が、かなり続いた。


 時間が、思ったより過ぎている。


「これ、終わるの思ったより長くない?w」

 いずみ君が言った。


「初回で仕様確認を挟みすぎたな」

 鈴木さんが返す。


「いや、ここからでしょ!」

 美沙が言う。


「ここからでしたね」

 私は思わず同意した。


「紗希も未練あるじゃんw」


「盤面として、未確認要素が残っています」


「それ未練って言うんだよ」


「言い方の問題です」


 鈴木さんが少し冷静に言った。


「今日はここまでにしよう」


「えー!」

 美沙が即座に不満を出す。


「時間が遅い」


「あとちょっと!」


「そのあとちょっとは、たぶん長い」


「それはそうかも!」


「認めるなら止めるぞ」


 いずみ君も笑いながら言った。


「まあ、今日は初回だしな」

「中断でいいんじゃない?」


「……そうですね」

 私は少しだけ名残惜しさを抱えながら返す。

「ここで中断するのは少し惜しいですが、時間管理は必要です」


「紗希が理性で自分を止めてるw」


「必要な対応です」


「ゲームしてる時間より、作戦会議してる時間のほうが長くなかった?」


「作戦会議もゲーム体験の一部です」


「わかる!」

 美沙がすぐに乗る。

「むしろそこが本番!」


「本番を見失うな」

 鈴木さんが言う。


 対戦は、未決着のまま中断された。


 盤面は保存された。

 次に再開できる状態で残っている。


 美沙側が少し押している。

 こちらもまだ返せる。


 その微妙な形が、かなり落ち着かない。


     *


「次は勝つからね、紗希ち!」


 中断後、美沙が当然のように言った。


「紗希ちは正式採用ではありません」


「そこはもういいじゃん!」


「よくありません」


「でも次やるよね?」


 私は、少しだけ画面の保存状態を見た。


 未決着。

 美沙側がじわじわ押している。

 こちらはまだ崩れていない。

 資源も残っている。

 対策も、いくつか思いつく。


「次回の対戦は受けます」


「受けた!」

 美沙が大きく反応する。


「勝手に次回を決めるな」

 鈴木さんが言う。


「でも鈴木もやるでしょ?」


「時間が合えばな」


「ほぼやるじゃん!」


「ほぼ、ではない」


 いずみ君が笑う。


「次回あるんだw」


「いずみ君」


「はい」


「次は序盤の偵察対策を少し変えます」


「もう次の話してるw」


「必要です」


「紗希、かなり悔しかった?」


「……少し」


「少し?」


「かなり、かもしれません」


「素直w」


 美沙が向こうで楽しそうに笑った。


「紗希ち、ぐぬぬしてる!」


「していません」


「してるって」


「次は、もう少しうまくやります」


「対策宣言きた!」


 美沙はうれしそうだった。

 悔しがらせたいというより、次も一緒にぶつかれることを楽しんでいるようだった。


 その感じが、少しわかった。


 美沙は騒がしい。

 呼び名を勝手に増やす。

 勢いが強い。

 ときどき押しが強すぎる。


 でも、ゲームを見る目は鋭い。

 盤面を読む速度も速い。

 こちらが積み上げたいところを、先に触ってくる。


 方針は違う。

 私は安定と積み上げを見る。

 美沙は隙と勢いを見る。


 だからぶつかる。

 でも、そのぶつかり方は面白い。


「いやー、思ったより白熱したな」

 いずみ君が言う。


「かなり情報量の多いゲームでした」


「ゲームの情報量だけじゃなくて、横の情報量も多かったけどなw」


「それは否定しません」


 鈴木さんの向こうで、美沙はまだ少し騒いでいた。


「次はあそこ取るからね!」


「作戦を今言うな」

 鈴木さんが止める。


「あ、そっか」


「素直だな」


「今のはミス!」


「そこは認めるんですね」

 私は言う。


「認める!」

「でも勝つ!」


「こちらも、対策します」


「いいじゃん、燃えてる!」


「燃えてはいません」


「燃えてるって!」


 私は返事をしなかった。

 否定すると、たぶんまた美沙が喜ぶ。


 通話が終わり、鈴木さんと美沙の声が遠ざかる。

 部屋には、いずみ君と私と、未決着のセーブデータだけが残った。


「紗希」


「はい」


「楽しかった?」


 少しだけ、答えに迷った。


 楽しかった。

 ただ、素直に認めるには少し悔しい。


「……かなり」


「おお」


「ただし、少し悔しいです」


「美沙、強かったな」


「はい」

「騒がしいだけではありませんでした」


「そこは前からそうだったけど、ゲームだとわかりやすいな」


「はい」

「見ている場所が、かなり鋭かったです」


 いずみ君は少し楽しそうに笑う。


「次、勝つ?」


「勝ち負けだけが目的ではありません」


「でも?」


「もう少し、うまく返したいです」


「それはほぼ勝ちたいってことでは?」


「違います」


「ほんと?」


「……広い意味では、近いかもしれません」


「認めたw」


 私は、画面のセーブデータをもう一度見る。


 正式採用ではない呼び名。

 未決着の盤面。

 じわじわ押してきた美沙。

 少しだけ悔しい気持ち。


 全部が、今日のゲームの中に残っている。


 いずみ君と鈴木さんの対戦だったはずなのに、私の中には、盤面の向こうで美沙と向かい合っていた感覚が残っていた。


 それが、少し騒がしくて、少し悔しくて、かなり楽しい。


「次回までに、少し考えます」


「作戦?」


「はい」


「紗希、完全にやる気じゃんw」


「やる気というより、必要な検討です」


「それ、やる気って言うんだよ」


 いずみ君が笑う。


 私は否定しなかった。


 未決着の盤面を抱えたまま、私はもう次の対戦のことを少し考え始めていた。


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