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シリウスが見ていた  作者: 國生さゆり


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シーン25 この私だからだ。



「一目惚れしたって言ってます」


よしのさんは、そう言った。


「エ、エースは、あなたを気に掛けています」


言ってしまった。


なぜ言う。


なぜ今、言う。


私は。


せっかく、たった今。


恋にオチたばかりではないか。


その男がなぜ、自ら恋敵の援護射撃をする。


馬鹿なのか。


いや。


馬鹿なのだろう。


愚か者しか恋には落ちないと、ついさっき自分で言ったばかりではないか。


「知ってます」


きっぱり。


一言だった。


「えっ!」


よしのさんは、断固たる目を私に向けた。


「だから、協力してほしいんです」


だから?とは


「皆さんとご一緒の時、私は……その……場違いで、空気の読めない女になろうかと思います」


「はい?」


「エースさんに対して、です」


私は黙った。


「勘違いだった、と思ってもらえるように」


待て。


それは。


「あの」


思わず口を挟んだ。


「どうして、そこまでするんでしょうか」


よしのさんが私を見る。


「あなたは、そんな人じゃないのに」


おずおずと聞いた。


「さちこは、かけがえのない親友だからです」


迷いのない声だった。


「女の友情なんて、って思われるかもしれませんけど」


「いや、そんなことは」


「さちこと私には、ちゃんと友情があります。それに、さちこは本気です。エースさんのこと」


短い言葉だった。


余計な飾りもない。


たぶん。


私にも分かるように、そう言ってくれたのだろう。


確かに。


正しい判断だ。


私は女性にも。


女心にも。


恐ろしく疎い。


だが。


それを見透かされたような言葉選びに、若干傷ついた。


「わかっていると思いますが、私は器用ではありませんし、気も回りません。お役に立てるかどうか……正直、その……自信が……」


逃げ腰の言い訳を並べ立てる。


よしのさんは少し笑った。


「一人で、訳の分からない女でいたくないんです」


「え?」


「理由を知ってる人が、一人くらいいてくれた方が心強いし」


少し考えて。


「あとになったら、笑い話になるかなって」


笑い話。


「きっと、あの二人はうまくいきます」


そう言ってから、よしのさんは少しだけ言い淀んだ。


「それに……相談できる人が、その……欲しかったんです」


「相談?」


「エースさんの気持ちを知っている人と相談しながら、二人の恋路を見守れたらなって」


なるほど。


私はよしのさんを見た。


エースよ。


君は彼女を、控えめな感じの人だと評していたな。


違うぞ。


芯の強い女性だ。


大切な人のためなら、自分がどう見られるかさえ引き受けられる。


勇敢な人だ。


ザマーミロ。


エースよ。


君は、よしのさんの本質をこれからも知る機会はないだろう。


なぜなら。


僭越ながら。


その機会を、とことん邪魔するであろう男は――。


この私だからだ。


「わかりました」


言った。


「私にできることだったら」


勇ましく言った。


つもりだった。


よしのさんの顔が、ぱっと明るくなる。


「それでですね、あの上司さんから……」


「あの人が何か、また何かしましたか⁈」


声が大きくなった。


ほぼ怒声だった。


「いえ、そうじゃなくて」


よしのさんが慌てて首を振る。


「あの方から、飲み会のお声がけを、もう一度していただけないかなって思いまして」


「ああ」


そっちか。


よしのさんが笑った。


さっきよりも、透明度を増した笑顔だった。


きつのっちが現代に生きていたら。


こんなふうに笑うのだろうか。


そんなことを思わせる笑顔だった。


水晶のように澄み切っていて。


みずみずしくて。


よしのさんによく似合っていた。


褒めすぎだと思うかもしれない。


だが。


それほどに、美しかったんだ。


私はスマホを取り出した。


グループLINEを開く。


《昨日流れた飲み会、今夜、行きませんか?》


送信。


すぐに、よしのさんのスマホから着信音が鳴った。


画面を覗き込んだ彼女が、


「ありがとうございます」


と言った。


「いえ」


短く応えた。


――カッコつけすぎた。


一秒で後悔した。


「私にできることは、このくらいですが」


余計な一言を重ねた。


すぐに返信が来た。


上司《いいねーー。皆さんはいかがですか?》


さちこさん《わーい。行きます》


エース《行きましょう》


乾杯のスタンプ。


よしのさん《ぜひ》


上司《焼き鳥でいいかな?》


さちこさん《はい》


鳥が「OK」と言っているスタンプ。


私も打った。


《楽しみです》


送信。


画面に並んだ、その五文字を見た。


楽しみです。


自分で打った言葉なのに。


妙に目に残った。


私は。


今夜を楽しみにしている。


こうして私たちは今晩。


飲みにゆく約束をした。



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