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シリウスが見ていた  作者: 國生さゆり


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18/31

シーン18 企画部は強引にトモッキーぶち込んだもんだから大慌てしてるよ


昼食の席でも、トモッキーのニュースが話題になった。


昨日のイベントで起きた転倒事故。

ネットには様々な憶測が飛び交っているらしい。


私は吉乃さんの話を思い出し、背中が冷えた。


偶然。


そう思いたい。


でも、あの時のトモッキーの顔を思い出すと、簡単に偶然とは言えなかった。


そこへ遅れて上司が現れた。


「いやー、参った参った」


参ったと言いながら、あまり参っている顔ではない。


椅子を一脚増やしておいて正解だった。


上司は当然のようにそこへ座りながら言った。


「トモッキーの師匠が週刊誌に告白した記事が出たよ。昨日のことがわかってて、仕組んだようなタイミングだよね。偶然は必然かーー」


交通事故のとき、トモッキーに利き腕を踏みつけられた。

故意だったのではないか。


記事には、そんな言葉まで並んでいるらしい。


「昨日の冠スポンサーもね、損害賠償を言い出したんだって、企画部は大慌てだよ。強引にトモッキーぶち込んだもんだから」


「そんなに大変なんですか」


さちこさんが聞いた。


「大変なんてもんじゃないらしいよ。スポンサー、広告代理店、テレビ局、トモッキーの事務所、会場側からの問い合わせが、ひっきりなしなんだってーー。知らんけど」


知らんのかーい。


上司は水を飲んだ。


「そうそう」


思い出したかのように私を見た。


「キミがトモッキーに触れてないってことは、上にも説明しておいたから」


「えっ」


「企画部がずいぶん焦ってたからね。誰かのせいにして楽したそうだったから、言っといた」


怖いことを、ナプキンを広げながら言う。


「お礼なら、よしのさんに言いなよ。あの時、間に入ってくれなきゃ、キミは企画部に生贄にされてたよ」


私はよしのさんを見た。


「ありがとうございます」


「いえ」


彼女は小さく笑った。


またー、指が若干痛くなくなった。


だから気のせいだってーー。


「よし」


上司が突然、機嫌よく言った。


「今日は経費で奢る」


「経費なんですか?」


エースが嬉しそうに聞く。


「うん」


セコい。


と、私は思う。


だが、そのセコさを少しだけ微笑ましく思っている私がいる。


どうした、私。


寛容になったのか。

馬鹿になったのか。


企画部の惨状を思い描いてみる。


プリンターの前には印刷待ちの社員が列を作り、会議室の予約表は真っ赤に埋まり、固定電話と携帯電話は切ったそばから鳴り響く。


「コピー機の紙がない」

「会議室が寒い」

「宅配便何時まで」

「会議室の室温下げろ」

「加湿器もってこい」

「ランチミーティングの弁当おんなじ店が続いてんぞ、少しは考えろよ」


「お前が経費節減と言ったんだろう」を飲みこむ私ども。


そんなことを、私ども総務へ問い合わせてくる人たちである。


それが今日は来ない。


自分たちでやっているのだ。


やればできるじゃないか。


いや。


それどころではないのだ。


何か理由がある。

公になっては都合の悪い何かが……。


芸能人一人の転倒で、スポンサーが動く。

広告代理店が動く。

テレビ局が動く。

会社が動く。


すごいな、トモッキー。


そして、名前もないユーザーと呼ばれている人たちの力。


「トモッキーのハッシュタグ、三十分で三倍になってます」


スマホを手にしたエースが言った。


「三倍って何が?」


上司が聞く。


「投稿数です。すごい勢いです」


「暇だね」


「俺らも全部読んでるから同類ですよ」


「記事書いた人は仕事だったろうに」


上司が言いながら手を上げた。


「すみませーん、今日はナポリタンにしまーす。大盛りで」

自由だな、この人。


「あっ、オムライスも!」エースがスマホ画面を私に見せながら張り上げた。


画面の中では、みるみる間に数字が増えてゆく。


検索数が増えれば増えるほど、注目される。


注目されれば、もっと増える。


トモッキーは今、日本中から見られている。


それはきっと、すごいことなのだろう。


なのに。


なぜだか、私には実感がない。



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