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終わりの世界で輝く・・・彼女たちの残滓  作者: きなこもち
第1章

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「正式稼働日の朝」


 開始音が鳴った。


 同時に、第七部隊が散る。


 紅羽が正面へ。琥珀はその半歩後ろ。紫月は崩れた壁の陰へ滑り込み、詩乃は最初からいなかったみたいに消えた。


 夕璃は中央の瓦礫帯へ走る。


 直後、頭上を何かが抜けた。


 乾いた発射音。遅れて、後ろの外壁が弾ける。


「うわっ」


 琥珀が反射で身を引いた。


「もう来た!?」


「来るだろ、青だぞ!」


 夕璃は言いながら身を低くした。やっぱり早い。開始と同時に視線を通してきた。観測から射線までの組み立てが速すぎる。


「紅羽、そのまま前。止まるな」


「了解!」


 紅羽が一気に加速する。大太刀形態の武器を構えたまま、まっすぐ。隠れる気がない。あれだけ堂々と前に出ると、逆に目を引く。


 もう一発。


 今度は紅羽の前方、足元狙い。紅羽が踏み込みを半歩ずらして避ける。


 精密だな、と夕璃は思う。


「琥珀、まだ出るな」


「でも紅羽先輩ひとりじゃ」


「出るなって」


 強めに言うと、琥珀はぎりっと歯を食いしばって止まった。


 えらい。


 たぶん今、すごく行きたいはずなのに。


「紫月、紅羽に軽くかけて」


「もう入れてる」


 やわらかい光が紅羽の足元へ流れる。速度そのものが上がるわけじゃない。でも、無駄な力が抜けて動きが滑らかになる。あれがあるだけでだいぶ違う。


 夕璃は瓦礫を蹴って中央を横切った。


 次の瞬間、左の高所から三連射。


 読んでいたみたいな位置だった。


「っ」


 一発目を壁へ流し、二発目を身をひねってかわし、三発目だけが腕をかすめる。熱い。浅い。問題ない。


「隊長!」


 琥珀の声が飛ぶ。


「平気」


 短く返しながら、夕璃は舌打ちした。


 早いし、嫌なとこ見てくる。


 雫だな、と思う。


 氷室凪もいるだろうけど、この細かさは雫っぽい。逃げ道を残さない置き方をしてくる。


 だったらなおさら、中央で揺さぶる。


「詩乃」


「ん」


 どこから返ってきたのかわからない声。


「観測、見えた?」


「二択。高架上か、北ビル三階」


「絞れる?」


「もう少し」


「急いで」


「がんばる」


 軽い返事のくせに、たぶんすでに死角に入り込んでる。


 夕璃は前へ出た。


 わざと。


 青虹から見えやすい位置へ。


 当然、射線が寄る。壁の陰に隠れればいいのに、そうしない。少しだけ足を止める。そこへまた弾が来る。


 今度は一発だけ。


 牽制じゃない。確認だ。


 動き方を見てる。


「雫、お前ほんと性格悪いな……」


 思わず口に出た。


 昔からそうだ。正面から強く殴るより、相手の癖を一個ずつ拾って詰めてくる。嫌なやつ……いや、強いやつ。


 そのとき、前方の広場へ紅羽が飛び込んだ。


 青虹隊側の前衛が二人出る。真白レイと七瀬澄玲。たぶんそうだ。距離と武装の見え方でわかる。


 遠距離だけじゃない。ちゃんと前を置いてる。


「紅羽、足止めされる!」


「問題ない!」


 紅羽の声と同時に、地面が重く鳴った。


 戦場圧。


 前へ踏み込む意志そのものを押しつける、紅羽の得意なやつ。真正面で食らうと、たいてい一瞬だけ足が止まる。


 青虹の前衛もその一瞬をもらった。


 そこへ紅羽がさらに踏み込む。


 速い。


 大太刀を振り下ろし、相手の防御を崩して、そのまま槍へ変形。連撃。


「うわ、紅羽先輩今日キレてる!」


「集中してるだけだ!」


「いや、ちょっとキレてるよね!」


 琥珀の言う通り、いつもより圧が強い。


 たぶん朱里に会ったせいもある。いい方に出るなら問題ない。暴走しなければ。


「琥珀、今」


「待ってました!」


 夕璃が許可を出すと、琥珀が弾けた。


 正面へ。けど一直線じゃない。紫月の光の端を踏みながら、ちゃんとコースを変える。


 お、と思う。


 さっきより冷えてる。


「おらぁっ!」


 琥珀の籠手が唸る。青虹の前衛が横へ飛んで避ける。そこへ紅羽の槍が刺さる。完全には噛み合ってない。でも悪くない。


 中央が荒れた。


 なら、向こうは観測を守るために一瞬だけ意識を割く。


 そのタイミングで、夕璃は北側の崩れたビルへ走った。


 高所。三階。詩乃の候補の一つ。


 途中でまた弾が来る。


 角度が変わった。


「北ビルだな」


 ほぼ確信する。


 夕璃は壁を蹴り、半壊した階段を飛ばし気味に上がる。疑似市街地のくせに、足場が妙に悪い。いや、だからこそ演習なんだろうけど。


 二階の踊り場へ出た瞬間、上から射線。


 読んでいた。


 夕璃は長刀を半身で構え、弾道を斬るみたいにいなす。無茶だが、できる。たぶん普通はやらない方がいい。


「相変わらず、面倒なことするね」


 上から声がした。


 藍沢雫。


 やっぱりか。


 壊れた窓際に長銃を構えている。きっちりした姿勢。隣には観測器が浮いている。青白い光がこちらを舐めるみたいに走っていた。


「そっちこそ。開始三秒で撃つなよ」


「五秒」


「誤差だろ」


「誤差じゃない」


 真面目か。


 いや真面目なんだけど。


 夕璃は二階の柱を盾にして、上を見上げる。


「氷室隊長は?」


「言うと思う?」


「思わない」


「でしょ」


 雫は淡々としていた。


 けど、視線の奥だけが少しだけ固い。こっちをただの敵として見てない顔だ。


「黒瀬、今日はわりと本気で止めるから」


「模擬戦なのに重いな」


「第七が相手のときは、だいたい重くなる」


 その言い方に、少しだけ笑いそうになった。


 わかる。


 でも、止まる理由にはならない。


「悪いけど、そっち潰さないと勝てない」


「うん。知ってる」


 雫の指先が引き金にかかる。


 夕璃はその瞬間、視線を上じゃなく右へ飛ばした。


 雫の背後。


 窓枠の外側、ほんの少しだけ空気が揺れる。


「詩乃」


 夕璃が小さく言ったのと、雫が弾を放ったのは同時だった。


 銃声。


 夕璃は柱の陰へ落ちるように避ける。


 その直後、三階の窓側で金属が打ち合う高い音。


「……っ」


 雫が半歩下がる。


 窓枠の向こうから、詩乃がするっと入り込んでいた。どこ通ってきたんだ、それ。


「やっぱりここだ」


 詩乃はにこっと笑う。


「当たり」


「最悪」


 雫が珍しく顔をしかめた。


 その表情はちょっとだけ貴重だった。昔から、あいつがきれいに崩れる瞬間は少ない。


 詩乃の双短刀が翻る。雫は長銃を捨てるみたいに離して、腰の短銃へ持ち替えた。近距離対応もちゃんとある。さすが青虹。


「黒瀬、見てるだけ?」


「見るわけないだろ」


 夕璃は二階から一気に三階へ駆け上がった。


 雫は詩乃との距離を保ちながら後退し、同時に観測器を動かして中央へ情報を流そうとする。


 させるか。


 夕璃は長刀を振るう。


 雫が横へ避ける。その回避先に詩乃の鋼糸。読んでたみたいな連携だった。


「うわ、やな感じ」


 詩乃が言う。


「わたしと夕璃ちゃん、こういうのだけは合うんだよね」


「そこ、うれしそうに言うな」


「ちょっとだけ」


 雫が短く息を吐く。


「ほんと、そういうとこ……」


 言い切る前に、詩乃の刃が雫の短銃を跳ね飛ばした。


 銃が床を滑る。


 同時に、夕璃の斬撃が観測器の制御線を断つ。


 青い光が散った。


【観測ユニット停止】


 演習システムの無機質な音声が響く。


「観測、取った」


 夕璃が通信へ流す。


 返ってきたのは、中央のど真ん中でやたら元気な琥珀の声だった。


「よっしゃあ!」


「調子に乗るな、九条!」


「紅羽先輩それさっきからずっと言ってる!」


 中央が少し押し返しているらしい。


 雫は壁際まで下がり、夕璃と詩乃を見た。


「二対一、ずるくない?」


「戦場で言う?」


 夕璃が返す。


「言わない」


「なら諦めろ」


「諦めるわけないでしょ」


 言って、雫は腰の観測端末だけを残して、非常階段側へ飛び退いた。


 逃げる気じゃない。


 立て直す気だ。


 その判断はすごく雫らしい。


「追う?」


 詩乃が聞く。


 夕璃は一瞬考えて、首を振った。


「いや、中央」


「了解」


 三階の窓から下を見る。


 中央では紅羽がまだ前衛二人を押さえていて、琥珀が横からめちゃくちゃに圧をかけている。めちゃくちゃだけど、紫月の支援がきっちり通ってるせいで完全には崩れていない。


 ただ、気になる。


 氷室凪がまだ見えない。


「……まだ一枚ある」


 夕璃がつぶやいた直後、空気が変わった。


 演習場全体の上空表示に、赤いラインが走る。


【高出力狙撃モード移行】


「っ、紅羽!」


 夕璃が叫ぶ。


 ほぼ同時に、会場を切り裂くみたいな一発。


 今までとは音が違う。重い。速い。


 紅羽がとっさに槍を立てる。


 着弾。


 衝撃で紅羽の体が半歩、いや一歩下がった。


 腕は無事。でも防御姿勢ごと押されている。


「今の……!」


 琥珀が目を見開く。


 高所、南東の崩れた看板上。


 そこに氷室凪がいた。


 長銃を構えている。


「隊長出てきた……!」


 琥珀の声に、夕璃は歯を食いしばった。


 あっちが本命だったか。


 雫は囮というほど軽くはない。でも、観測を取らせたうえで最後の一手を通すなら、理屈は合う。


 青虹、ほんと嫌らしい。


「中央、下がるな!」


 夕璃はそのまま窓枠へ足をかけた。


「隊長!?」


 紫月の声。


「詩乃、凪の射線切れる?」


「一瞬なら」


「十分」


 夕璃は三階から飛び降りた。


 無茶だ。


 でも着地は取れる。


 膝へ衝撃が来る。痛い。でも問題ない。


 次の瞬間にはもう走っていた。


「黒瀬!」


 どこからか雫の声が飛ぶ。


 無視した。


 氷室凪の次弾が来る前に距離を詰める。向こうも移動しながら撃ってくるタイプだ。だから足を止めたら終わる。


 空気が揺れる。


「今」


 詩乃の声と同時に、凪の視線がほんの一瞬だけぶれた。


 死角固定。完全には効かない。でも一瞬なら足りる。


 夕璃は接続を切り替えた。


 長刀が収縮し、短い突撃形態へ変わる。斬るより速さ。


 踏み込む。


 凪がそれでも撃つ。すごいな、と思う。迷いがない。


 夕璃は身を沈めて弾を避け、そのまま懐へ飛び込んだ。


「近い」


 凪が静かに言う。


「近づいた」


 夕璃はそのまま武器を振り上げた。


 直前で止める。


 凪の喉元、数センチ手前。


 演習判定が光る。


【第五部隊隊長、制圧判定】


 同時に、各所の疑似戦闘ユニットが停止した。


 終了音。


 模擬戦の終わりを告げる無機質な電子音が、演習場全体に響いた。


 夕璃はやっと息を吐いた。


 近かった。


 かなり。


 凪は武器を下ろして、夕璃を見る。


「速いね」


「そっちも」


「観測切られたのが痛かった」


「雫がいたら、もっと痛かっただろ」


 言うと、凪はほんの少しだけ目を細めた。


「かもね」


 その声に敵意はなかった。ただの評価だった。


 夕璃が中央へ目をやると、紅羽が肩で息をしていて、琥珀がその場にへたりかけていて、紫月がすぐに光を流していた。詩乃はどこからか戻ってきて、まるで最初からそこにいたみたいな顔をしている。


 そしてその少し後ろ、非常階段の陰から雫が出てきた。


 こっちを見る。


 何か言いたそうで、でも言わない顔。


 夕璃はとりあえず肩をすくめた。


 雫は小さく息を吐いてから、淡々と言った。


「最後、無茶したね」


「知ってる」


「昔からそう」


「そっちもな」


「わたしはもっと計算してる」


「自分で言うんだ」


「事実だから」


 そこは変わらない。


 霧島がゆっくり歩いてきた。


「終了。結果は第七の勝ち」


 琥珀が「よっしゃ!」と立ち上がりかける。


 でも霧島の次の一言で止まった。


「ただし、褒めるほどきれいな勝ち方でもない」


 琥珀の動きが止まる。


 紅羽がまっすぐ前を見る。詩乃は笑わない。紫月は光を消して、静かに顔を上げた。


 霧島は端末を操作し、評価ログを空中へ映した。


【勝敗 第七部隊 勝利】

【被制圧判定 第七部隊 2.5】

【連携精度 B-】

【損耗想定 高】

【戦術変化対応 A】

【指揮安定度 C+】


「見ろ」


 霧島が言う。


「勝った。だが、被弾も多い。連携は荒い。損耗想定は高い。ようするに、お前らは勝っただけだ」


 その言い方は冷たい。けど、間違ってはいない。


 紅羽が低く言う。


「……ご指摘は」


「まだ終わってない」


 霧島が切った。


「今の勝ちは、黒瀬が最後に無茶を通したから拾えた勝ちだ。全員がそういう勝ち方に甘えるな。実戦でそれをやると、たぶん誰か帰ってこない」


 琥珀が視線を落とした。


 紫月の指先がわずかに動く。たぶん、その言葉がいちばん刺さるのはこの人だ。


 夕璃は何も言わなかった。


 言い返すこともできる。でも、言い返したところで、たぶん意味はない。


 そのとき、後ろから別の足音が近づいた。


 御剣千晴。


 黄虹隊の隊長だった。


 さっきまで別区画で見ていたらしい。堅い顔のまま、演習ログへ目を通す。


「制圧速度は優秀」


 短く言って、そこで一度止める。


 そのあとで、はっきり続けた。


「民間保護想定を入れた場合、この戦い方では落とす」


 空気がまた少し冷えた。


 千晴の言葉は、霧島よりさらに逃げ道がない。


「特に九条」


「は、はい」


「前へ出るなとは言わない。だが、前しか見えなくなるのは論外だ」


 琥珀がぎゅっと拳を握る。


「……はい」


「白峰」


「はい」


「お前は消えすぎる。味方から見えなくなるな」


「気をつけます」


 詩乃は素直だった。こういうときだけ素直なの、ちょっとずるい。


「一条」


「はい」


「押しの強さはいい。だが、お前が前を向きすぎると、後ろの視野が狭くなる」


「……はい」


「皇」


「はい」


「支えることに慣れすぎるな。必要なら切る判断も持て」


 紫月の目が少しだけ揺れた。


 最後に、千晴の視線が夕璃へ向く。


「黒瀬」


「……はい」


「お前は勝たせるために無茶を通しすぎる」


 まっすぐ言われた。


 夕璃は目をそらさなかった。


「勝てばいいと思ってる顔だな」


「思ってない、とは言えません」


 言うと、千晴は一拍だけ黙った。


「なら覚えろ。守れない勝ちは、次の戦場で首を締める」


 その言葉は、妙に重かった。


 たぶんこの人は、何度もそういう場面を見てきたんだろう。だから言う。責めるためじゃなく、知ってるから。


 千晴はそれ以上は言わず、踵を返した。


「以上だ。次に活かせ」


 去っていく背中はまっすぐだった。


 琥珀が小さく息を吐く。


「……勝ったのに、全然勝った感じしない」


「それが現実だ」


 紅羽が言う。


 でもその声も、少しだけ硬い。


 夕璃はログ表示を見上げる。


 勝利。


 でも、きれいじゃない。誰が見てもそうだ。


 霧島が最後に言った。


「休憩十分。そのあと各隊解散。午後の待機命令が出るまでは自由だ」


 自由。


 そう言われても、今の空気で素直にわーいとはならない。


 霧島が去ると、琥珀がその場でしゃがみ込んだ。


「はぁ……」


「落ち込みすぎ」


 夕璃が言う。


「だって、名指しで怒られたし……」


「正論だった」


「それはそうだけど!」


 琥珀が顔を上げる。


「隊長だって言われてたじゃん」


「うん」


「うん、で終わるの!?」


「だって終わったし」


「メンタルどうなってんの」


「普通」


「普通ではないな」


 紅羽が即答した。


 夕璃は少しだけ笑う。


「紅羽もだいぶ刺さってるだろ」


「……否定はしない」


 素直だ。


 いや、こういうときはちゃんと素直なんだよな、この人。


 紫月が静かに言う。


「でも、言ってもらえてよかったのかも」


 全員がそっちを見る。


 紫月は少しだけ迷うみたいに視線を伏せて、それから続けた。


「勝って終わり、で流されるより、ちゃんと止めてもらえた方が、次に持っていけるから」


 やさしい言い方だ。


 でも甘くはない。


 詩乃が小さく笑う。


「さすが紫月先輩。まとめ方がいい」


「そんなつもりじゃないよ」


「でも、その通りかも」


 夕璃は言った。


 本音だった。


 千晴の言葉は痛い。でも、必要な痛さだった気がする。


 そこへ、少し遅れて雫が近づいてきた。


 青虹隊の方はもう片付けに入っている。凪もこちらを見ていたけど、来るのは雫だけらしい。


「おつかれ」


「そっちも」


 夕璃が返す。


 雫は第七部隊全員を見渡してから、琥珀に目を止めた。


「九条さん」


「はい?」


「最後、ちゃんと止まってたね」


 琥珀が目を丸くする。


「……え、そこ?」


「そこ」


「褒められた?」


「半分くらいは」


「またそれ!」


 琥珀が叫ぶ。


 夕璃は少し吹きそうになった。


 雫は夕璃を見て、今度はまっすぐ言う。


「黒瀬」


「なに」


「勝ちは勝ち。でも、最後のあれは次も通ると思わない方がいい」


「そっちも千晴隊長みたいなこと言うじゃん」


「言うよ。だってほんとだし」


 雫は淡々としていた。


「今日のは、わたしが詩乃を見失ったから崩れた。次はそうならない」


 詩乃が首をかしげる。


「宣戦布告?」


「事実確認」


「青ってこういうとこあるよね」


「紫に言われたくない」


 雫はすぐ返した。


 ちょっとだけ、昔の感じが戻る。


 夕璃は肩をすくめる。


「じゃあ次も勝つ」


「うん。こっちも勝つ」


 短い。


 でもそれで十分だった。


 雫はそれ以上は何も言わず、青虹隊の方へ戻っていく。


 夕璃はその背中を見てから、小さく息を吐いた。


 やっぱりやりづらい。


 でも、嫌じゃない。


 その感覚がちょっとだけ面倒くさい。


 十分の休憩時間は、思ったより短かった。


 第七部隊はそのあと、演習場の外にある休憩スペースへ移動した。自販機とベンチが並んでいるだけの場所。でも、屋内の空気よりは少し呼吸しやすい。


 琥珀がスポーツドリンクを一気に半分くらい飲む。


「はー……生き返る」


「まだ死んでないだろ」


「気持ちの話!」


「それ便利だな」


「便利だよ!」


 琥珀は元気だ。落ち込んでも戻りが早い。その辺は助かる。


 紅羽は缶の水を開けながら、夕璃を見る。


「黒瀬」


「なに」


「次は、最後の無茶を前提にしない組み方をする」


「うん」


「返事が軽い」


「いや、賛成だから」


 紅羽が少しだけ目を細めた。


「……ならいい」


 紫月がその会話を聞いて、小さく笑った。


「ちょっとずつ、ちゃんと部隊っぽくなってきたね」


「どの辺が」


 夕璃が聞く。


「反省会ができてるところ」


「今までできてなかったみたいな言い方だな」


「できてなかったよ」


 詩乃がさらっと言った。


「前までは、紅羽先輩が怒って、琥珀ちゃんがしょんぼりして、夕璃ちゃんがだるそうにして、わたしは見てて、紫月先輩がまとめようとして終わってた」


「だいたい合ってるのやだな……」


 琥珀が言う。


 でも、たしかにそうだ。


 今日はちゃんと、全員が少しは同じ方向を見ていた。痛いところを痛いまま受け取って、それで終わらせなかった。


 ほんの少しだけ。


 ほんの少しだけど、前よりは。


 そのとき、休憩スペースの壁にあるモニターが短く光った。


 全員の視線がそっちへ向く。


 学園内緊急連絡。


【各正式部隊、待機命令】


【中央生存圏・東側外縁にて異常反応増加】


【警戒レベル2より3へ移行】


 空気が変わる。


 さっきまで演習の余韻だったものが、一気に現実へ引き戻された。


 琥珀がドリンクを持つ手を止める。


「……え」


 紅羽が立ち上がった。


「早すぎる」


「正式稼働日に合わせたみたいだね」


 詩乃が小さく言う。


 その言い方は冗談みたいなのに、全然笑えなかった。


 夕璃はモニターを見つめる。


 東側外縁。


 朝に出た警戒情報と同じ方向だ。


 偶然じゃない気がする。そういう勘は、あまり当たってほしくないのに、だいたい当たる。


 次の表示が出る。


【対象部隊は各教官の指示を待て】


【出撃の可能性あり】


 琥珀がごくりとつばを飲んだ。


「これ……今日?」


「たぶんな」


 夕璃が答える。


 紫月が静かに立ち上がる。


 詩乃も、紅羽も、もう冗談を言う顔じゃない。


 正式稼働日の朝は、まだ終わっていなかった。


 むしろ、ここからが始まりだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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